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HIVの潜伏性リザーバーのマーカーが初めて明らかに

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170505

原文:Nature (2017-03-16) | doi: 10.1038/nature.2017.21639 | Hidden HIV reservoirs exposed by telltale protein

Amy Maxmen

HIVが潜伏感染している免疫細胞(潜伏性リザーバー)の特定に役立つマーカータンパク質CD32aが発見された。細胞表面に発現しているこのタンパク質を用いることで、こうしたリザーバーを排除できるようになるかもしれない。

HIVに対する現在の薬物療法は、ウイルス粒子を活発に産生している静止期CD4 T細胞(写真)を標的としている。しかしこれまでのところ、こうした細胞を効率的に攻撃することはできていない。 | 拡大する

NIBSC/SPL/Getty

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の治療では、静止期CD4 T細胞という特定の免疫細胞にHIVが潜伏できることが障害となっている。HIVが潜伏感染している静止期CD4 T細胞は、体内の免疫系による感知を長年にわたって逃れて生存し、見つけ出すことも、研究することも、殺傷することも難しいからだ。HIV研究者は、このような細胞(HIVリザーバー)を確実に突き止めることを最優先の目標としてきたが、これまでそうした成果は限られていた。

このほどモンペリエ大学(フランス)のウイルス学者Monsef Benkiraneが率いる研究チームは、HIVに感染している静止期CD4 T細胞の表面には、CD32aと呼ばれるタンパク質が存在することを突き止め、Nature 2017年3月23日号564ページに報告した1。この成果は、HIVの診断や治療を取り巻く状況を変える可能性がある。犯罪者の似顔絵をもとに追跡する警察のように、HIVに感染している静止期CD4 T細胞と他の免疫細胞とを識別する方法がもたらされるからだ。さらに、静止期の感染細胞を標的として殺傷することも可能になるかもしれない。

抗レトロウイルス薬は、ウイルスが全身に広まるのを防ぎ、免疫系は、ウイルスDNAを活発に転写する細胞を殺傷する。しかし、HIV感染T細胞のうちの一部は静止期にあり、その内部のウイルスゲノムは転写されていないため、薬剤でも免疫系でもこの侵入者を検出することができない。「潜伏性リザーバー」として知られるこうした細胞は、HIV治療の障害となる。HIV患者が抗レトロウイルス療法を中止すると、ウイルスは徐々に活動を開始し、自由に複製するようになるのだ。

ショック・アンド・キル法

Benkiraneは、「潜伏性リザーバーを殺傷することは、(HIVの診断・治療に大きな進展のあった)1996年頃からの夢でした。しかし、その細胞を識別する方法がなかったので、どうすることもできなかったのです」と語る。

HIV研究者は2012年に、静止期の感染T細胞を標的とする新しい手法を試みた。「ショック・アンド・キル」法と呼ばれるこの治療法では、潜伏性リザーバーを刺激して、ウイルスの複製を開始させる。これにより、理論的には、免疫系やHIV薬が潜伏性リザーバーに作用して攻撃できるはずだ。

しかし、「この方法では期待されたほどの結果は得られませんでした」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のウイルス学者Steven Deeksは言う。おそらく、潜伏性リザーバーにウイルス複製を開始させるための薬剤が、複製を十分に促進しなかったのだろう。

潜伏性リザーバーを体内で見つけ出すことは非常に難しいため、ウイルス学者はこの細胞に関する基礎知識すら得られずにいた。Benkiraneの率いる研究チームはこの問題を解決するため、潜伏性リザーバーの目印を探すことを目指し、このほど、CD32aというマーカータンパク質を見いだした。Benkiraneらは、まず、実験室でHIVが感染可能なように調整した静止期CD4 T細胞に蛍光標識したHIVを暴露した。次に、標識されたウイルスが感染した細胞と感染していない細胞で、遺伝子発現の差違を調べた。その結果、静止期の感染細胞の一部ではCD32aをコードする遺伝子が発現していたが、非感染細胞ではCD32aの発現はほとんど見られなかった。また、HIVを活発に産生している細胞では、CD32aがあまり発現していないことも分かった。

Benkiraneらは、CD32aに対する抗体を用いて、HIV感染者のヒト血液試料からCD32a発現細胞を選別して確認したところ、これらの細胞は予想されたとおりHIVが潜伏している静止期T細胞だった。「リザーバー細胞を識別できることを実証したのは、我々が初めてです」と、Benkiraneは言う。

希望

試料中のウイルス量を測定する試験法は、1990年代後半の抗レトロウイルス療法の開発に役立った。それと同様に、新しいタンパク質標的、つまりバイオマーカーによって、HIVの治癒に向けた研究が加速することをDeeksは期待している。

「次の段階は、性別、民族、年齢、病期の異なる患者の血液をスクリーニングし、今回の知見の再現性を調べることでしょう」と、国立アレルギー・感染症研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の所長Tony Fauciは言う。HIVが感染するのは通常、腸やリンパ節であり、こうした組織も検討する必要があるだろう。CD32aが信頼できるマーカーであることが確かめられれば、これを利用して潜伏性リザーバーを標的とする薬剤を開発することが最終的な目標となる。

今のところFauciは、この結果に心を躍らせているものの、CD32aの可能性については慎重な姿勢を崩さない。治療法の探索に20年もの時間が費やされてきたにもかかわらず、HIVを治癒させることのできる治療法はいまだにないからだ。「CD32aが潜伏性リザーバーのマーカーとなることを心から願っています。この研究が非常に優秀な研究者たちによって行われていて、データが信頼できそうだという事実から、私は楽観視しています」とFauciは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Descours, B. et al. Nature 543, 564–567 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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