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たっぷり眠るマウスと夢を見ないマウス

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170228

原文:Nature (2016-11-17) | doi: 10.1038/nature20471 | Sleepy and dreamless mutant mice

Derk-Jan Dijk & Raphaëlle Winsky-Sommerer

哺乳動物の睡眠は、急速な眼球運動を伴う睡眠(レム睡眠)と急速な眼球運動を伴わない睡眠(ノンレム睡眠)からなる。遺伝子変異マウスの大規模な睡眠異常スクリーニングにより、ノンレム睡眠の必要量を決める遺伝子と、レム睡眠の終止に関与する遺伝子が突き止められた。

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Graffizone/iStock / Getty Images Plus/Getty

いくらでも眠れるという人もいれば、一晩に数時間眠れば十分と主張する人もいる。また、見た夢を覚えている人もいれば、そうでない人もいる。こうした個人差の遺伝的基盤は何なのだろうか? 「順」遺伝学的スクリーニングでは、遺伝子をランダムに変異させ、それぞれの変異が、注目する行動や生物学的形質にどのような影響を及ぼすかを調べる。筑波大学および東邦大学に所属する船戸弘正(ふなと・ひろまさ)をはじめとする、テキサス大学サウスウェスタン医療センター、名古屋市立大学、ジャクソン研究所、理化学研究所、新潟大学、国立長寿医療研究センターによる共同研究チームは、マウスを使った大規模な順遺伝学的スクリーニングにより、睡眠パターンの変化を生み出す2つの遺伝子変異を特定した。この研究成果はNature 2016年11月17日号378ページに掲載された1

順遺伝学的手法は、遺伝子のそれまで知られていなかった役割を突き止め、その特徴を調べるための最も信頼できるテクニックと考えられている。しかし、この手法による遺伝子の同定には重要な前提条件がある。その1つが表現型解析、つまり、調べたい形質を正確に評価できることだ。1994年にJoseph S. Takahashiらが、順遺伝学手法を用いて概日リズムに関係している遺伝子を特定することに成功している2。マウスにおいて休息–活動サイクルを長期記録し、それをもとに概日リズムの表現型解析を行ったのだ(Joseph S. Takahashiは、今回の船戸らの論文の責任著者の1人でもある)。だが、哺乳動物の睡眠はもっと複雑なプロセスであり、順遺伝学的手法を適用してもうまくいかないだろうと考えられてきた。

睡眠は単なる休息ではない。睡眠中は、ノンレム睡眠とレム睡眠という2つの状態が交互に生じる。ノンレム睡眠は急速な眼球運動を伴わない睡眠で、深い睡眠とも言われる。一方、レム睡眠(別名、逆説睡眠)は急速な眼球運動を伴い、夢を見る睡眠と呼ばれることもある。睡眠の正確な表現型解析が難しいのは、多数のマウスの脳波と筋肉活動を電気生理学的シグナルとして長期にわたり測定し、その大規模な記録から2つの睡眠状態を判定して定量する必要があるためだ。

船戸らはこの難題に立ち向かい、8000匹以上のランダム変異マウスの睡眠パターンを連続2日間記録した。これらのランダム変異マウスは、化学変異原を投与された雄マウスと野生型の雌マウスを交配して生まれた仔である。マウスの1つの家系は、平均して1日約15時間眠った。これは、スクリーニングを行った全てのマウスの平均睡眠時間よりも3.5時間以上長く、実験用マウスでこれまでに報告されている時間よりもずっと長い3。著者らは、これらの変異マウスにSleepyという、まさにぴったりの名前を付けた(図1)。

図1 睡眠をスクリーニング
船戸たち1は、睡眠行動を調節する遺伝子の変異を探索するため、マウスを使って「順」遺伝学的スクリーニングを行った。順遺伝学的手法では、マウスのDNAに点突然変異(赤)をランダムに導入し、その変異マウスを野生型パートナーと交配し、生まれた仔を使って研究対象となる行動の変化を分析する。今回の研究では、著者らは、8000匹以上の仔マウスを使い、脳波と筋肉活動の電気生理学的測定を行うことによって睡眠を分析し、2つの家系を見いだした。Sleepyと名付けられた家系ではノンレム睡眠が増加している一方、Dreamlessと名付けられた家系ではレム睡眠が減少していた。その後に行われたゲノム塩基配列解読により、SleepyマウスではSik3と呼ばれる遺伝子に、DreamlessマウスではNalcn遺伝子に変異が起こっていることが分かった。 | 拡大する

船戸らは、Sleepyマウスでは、ノンレム睡眠だけが明確に増加していることを示した。この変異マウスは、対照マウスに比べてより深いノンレム睡眠を示した。睡眠遮断後には深い眠りに入ることが知られているが、この変異マウスは睡眠遮断後のノンレム睡眠の深さの増加が、対照マウスよりも大きかった。Sleepyマウスは、カフェインのような覚醒を促進する化合物に、対照マウスと同様の反応を示し、また覚醒に関連するその他の行動異常を見いだせなかったことから、睡眠増加の原因が、覚醒を促進する神経回路の欠陥にある可能性が除外された。また、Sleepyマウスの概日リズムの周期には、明白な異常は見られなかった。この知見は興味深い。概日リズムを制御する遺伝子が変化すると睡眠に影響を与えることが以前に報告されていたが4、今回の実験で、睡眠と概日リズムに基づく影響は切り離せることが明らかにされたからだ。

船戸たちは、Sleepyマウスでは、これまでは睡眠との関連が示されていなかったSik3遺伝子に変異が起こっていることを見いだした。一塩基の変異によって、Sik3の13番目のタンパク質コード領域(エキソン)がSIK3タンパク質に含まれなくなり、おそらくそのためにこのタンパク質の活性が変化するのだろう。SIK3は既知の睡眠調節領域だけでなく、脳と体中に幅広く発現するタンパク質キナーゼである。ちょうど、概日リズムを制御する時計遺伝子が、脳の概日リズム調節領域だけではなく、体中に幅広く発現していることと似ている。この論文が優れているのは、著者らが、Sleepyマウスで見られる睡眠時間延長が、実際にSik3のエキソン13をスキップすることによって生じることを確認した点だ。マウスに同じ点変異を導入するか、あるいは高度なゲノム編集技術でSik3遺伝子を改変することによって、Sleepyの表現型を再現した。さらに彼らは、ショウジョウバエと線虫でも、Sik3の変異によって睡眠様行動に影響が現れることを示し、Sik3遺伝子の進化的に保存された役割の1つが、睡眠様行動の制御であると示唆された。

船戸らはスクリーニングによって、もう1つ別のマウス家系も発見し、Dreamlessと名付けた。これらのマウスでは、正常なマウスに比べて、レム睡眠時間がなんと44%も減少しており、レム睡眠持続時間も短くなっていた。このマウス家系をDreamlessと呼ぶのはいささか言い過ぎのきらいがある。レム睡眠が全くなくなってしまったわけではないし、ヒトの場合、ノンレム睡眠時にも夢を見るからだ5(そもそもマウスが夢を見るかどうかも不明である)。とはいえ、Dreamlessマウスでは、対照マウスに比べてレム睡眠が非常に短くなっている3。船戸らは、DreamlessマウスではNalcn遺伝子に変異が起こっていることを示した。Nalcnはイオンチャネルタンパク質をコードする遺伝子であり、以前にショウジョウバエにおいて、ニューロンの興奮性が概日リズムに伴って変動することに関与していると示されている6

Sleepyマウスとは対照的に、Dreamlessマウスは概日リズム行動に変化が見られる。これらのマウスを常時真っ暗な場所に置くと、休息時と活動時の活動レベルの差が減少する。これは興味深い結果だ。というのもレム睡眠は概日リズムの厳密な制御を受けるが、ノンレム睡眠はそうではないからだ7。さらに、電気生理学的な評価によってこれらのマウスの脳波を対照マウスと比較したところ、どちらの変異マウスも、睡眠中(レム睡眠、ノンレム睡眠)および覚醒時の脳波が変化していた。この知見は、これらの変異が全ての睡眠覚醒状態に影響を与えることを意味しており、このような知見は包括的な表現型解析を行わなければ得られなかっただろう。

この研究が意味することは何なのだろうか? 睡眠は、学習、記憶、代謝の調節など、脳と体にとって多数の機能を持つ8。船戸らが見いだした新しい変異体から、睡眠がこれらの機能に作用する機構を明らかにするための道が開かれる。例えば、Sleepy変異やDreamless変異が、こうした形質に変化をもたらすかどうかも、直接的に調べることができる。

この研究は臨床でも役立つかもしれない。1つの明白な疑問は、ヒトでのSIK3の変異が、過度の眠気を経験して長時間眠り込む「特発性過眠症」と呼ばれる病気に関連しているかどうかだ9。また、もう1つの疑問は、NALCNの変異が加齢に伴う認知能力の低下に関与しているかどうかだ。というのも、レム睡眠が少ない高齢者は、その後の認知能力の低下が大きいと報告されているためだ10

一方、船戸らが全く眠らないマウスを見つけることができなかったことにも注目すべきである。これは、1つの変異によって消滅してしまう概日リズムとは対照的だ。おそらく、あまりに多くの遺伝子が睡眠に関係しているため、順遺伝学的スクリーニングでは不眠の哺乳動物を作り出すことができないのだろう。あるいは、不眠マウスは生存できないので、こうした変異を明らかにできないのかもしれない。

全体を通して、船戸らの包括的な表現型解析と最新の遺伝学的・分子生物学的手法とを組み合わせた戦略は見事であり、睡眠の重要性と複雑さを際立たせた。この戦略により、全ての哺乳動物が経験する2つの睡眠状態の時間の長さを変えてしまう、新しい変異が明らかにされたのだ。

(翻訳:古川奈々子)

Derk-Jan Dijk & Raphaëlle Winsky-Sommererは、サリー大学(英国)のサリー睡眠研究センターに所属。

参考文献

  1. Funato, H. et al. Nature 539, 378–383 (2016).
  2. Vitaterna, M. H. et al. Science 264, 719–725 (1994).
  3. Franken, P., Malafosse, A. & Tafti, M. Sleep 22, 155–169 (1999).
  4. Franken, P. & Dijk, D. J. Eur. J. Neurosci. 29, 1820–1829 (2009).
  5. Baylor, G. W. & Cavallero, C. Sleep 24, 165–170 (2001).
  6. Flourakis, M. et al. Cell 162, 836–848 (2015).
  7. Dijk, D. J. & Czeisler, C. A. J. Neurosci. 15, 3526–3538 (1995).
  8. Krueger, J. M., Frank, M. G., Wisor, J. P. & Roy, S. Sleep Med. Rev. 28, 46–54 (2016).
  9. Billiard, M. & Sonka, K. Sleep Med. Rev. 29, 23–33 (2016).
  10. Scullin, M. K. & Bliwise, D. L. Sleep 38, 335–336 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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