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ビタミンCが幹細胞とがんを調節する

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171236

原文:Nature (2017-09-28) | doi: 10.1038/nature23548 | Vitamin C regulates stem cells and cancer

Peter G. Miller & Benjamin L. Ebert

ビタミンCは、腫瘍抑制タンパク質Tet2への結合を介して造血幹細胞の数と機能を調節し、白血病の発生に影響を及ぼすことが分かった。

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BIT245/ISTOCK /GETTY IMAGES PLUS/GETTY

細胞代謝の基質、中間体、産物は、細胞の性質やがんへの形質転換に影響を及ぼす可能性がある1,2。このほど、そのような代謝産物の1つであるビタミンC(アスコルビン酸としても知られる)が幹細胞の生物学的性質にこれまで知られていなかった役割を担っていることが、2つの研究チームにより明らかにされた。テキサス大学サウスウェスタン医療センター(米国ダラス)のMichalis AgathocleousらはNature 2017年9月28日号476ページ3で、ニューヨーク大学医学系大学院(米国)のLuisa CimminoらはCell 2017年9月7日号1079ページ4でそれぞれ報告した。

幹細胞の代謝産物のプロファイリングには、一般的には数百万個の細胞が必要で、これまでの研究は限定的だった。例えば、マウスの血液細胞のうち造血幹細胞(HSC)は0.01%未満なので5、研究に十分な細胞数を得るのは困難だ。Agathocleousらは、1万個程度の細胞で代謝産物を解析する方法を開発してこの問題を克服した。彼らはこの技術を用いて、分化段階の異なるマウス血液細胞間で、代謝産物プロファイルの差異を明らかにした。

Agathocleousらは、未成熟な幹細胞・前駆細胞の集団では、より分化した細胞種の集団よりもビタミンCの量が2〜20倍高いことを見いだした。この知見と一致して、HSCでは、ビタミンCを取り込むタンパク質をコードするSlc23a2遺伝子の発現が、より分化した細胞よりも高いことも分かった。特筆すべきは、ヒトの血液細胞でもこの結果が確認できたことである。

次にAgathocleousらは、ビタミンCの量によりHSCの数や機能が調節されるかどうかを調べた。ヒトはビタミンCを合成できないが、マウスはビタミンCを産生する酵素グロノラクトンオキシダーゼ(Gulo)を持つ。Agathocleousらはまず、Gulo欠損マウスが、ビタミンCの少ない食餌でビタミンC欠乏症を発症することを示した。このようなマウスは対照マウスよりもHSCの数が多く、HSCの機能が増強されていた(骨髄移植実験でレシピエントマウスの血液系の再構築能が高まっていた)。

ビタミンCはTet2酵素の補因子である6。Tet2は、メチル化されたDNA塩基(5-メチルシトシン)を5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)に変換することで、DNA脱メチル化の中間段階を触媒し7、遺伝子発現を変化させる。Tet2の遺伝的不活化により、ビタミンC欠乏によく似た状況(HSCの分化障害に伴うHSC数の増加)が起こることが報告されている8。Agathocleousらの結果もこれと一致しており、ビタミンC除去に伴い5hmCレベルの低下が引き起こされたことから、ビタミンC除去によりTet2活性が低下したと考えられた。次にAgathocleousらは、Tet2Guloあるいはその両方を欠損するマウスを比較することで、3種類のマウスの間には5hmCレベルやHSCの機能にわずかな違いしかないことを見いだした。このことから、ビタミンC除去の効果は、Tet2が完全にではないが、大部分を仲介していると考えられた(図1)。

図1 ビタミンCが幹細胞の生物学的性質や白血病に及ぼす影響
a Tet2酵素は、補因子ビタミンCとの相互作用により、修飾されたDNA塩基である5-メチルシトシン(5mC)のメチル基を酸化して、5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)にすることで、遺伝子発現を変化させる。この経路が造血幹細胞(HSC)の機能を正常に保つことが実証された3,4
b 対照的に、ビタミンCの欠乏は5mCの脱メチル化の減少や、過剰な自己複製によるHSC集団の拡大につながり、白血病を誘導する。 | 拡大する

一方、Cimminoらは、別の手法で同様の結論に達した。Cimminoらは、造血幹細胞のTet2を可逆的にノックダウンできるマウスを作製して、Tet2の持続的な不活化が、Tet2を完全に欠損するマウスで見られるHSC活性の上昇や、白血病の発症のしやすさを模倣することを確認した。このマウスでTet2発現を回復させると、HSCの機能亢進や分化障害が元の状態に戻った。次に、in vitroおよびin vivoにおいてビタミンCを添加しTet2活性を回復させることで、薬理学的に同一の効果を達成できることを示した。

Tet2変異はヒトの急性骨髄性白血病(AML)で一般的に見られるため9、両研究チームはAMLに対するビタミンCの効果を調べた。Agathocleousらは、Tet2不活化と FLT3-ITD遺伝子の過剰発現(AMLのヒト症例の20〜30%に見られる変異)10という2つの変異があるマウスAMLモデルを作製し、ビタミンC除去により白血病の誘発が加速した原因の一部がTet2の機能低下にあることを明らかにした。またこの影響は、ビタミンCを摂取させると回復した。

一方のCimminoらは、ヒト由来のAML細胞を用いてin vitro研究やマウスへの移植研究を行った。どちらの研究でも、ビタミンC投与により白血病細胞の分化や細胞死が引き起こされた。マウスでは、これらの変化はAMLプログレッション速度の低下につながった。

疫学研究から、ビタミンC摂取量の少なさと、心血管疾患およびがんに関係した全生存率の低下や死亡との間に、さまざまな関連が見いだされている11,12。対照的に、がん治療の臨床試験ではビタミンCの添加が腫瘍の増殖や生存に有益な効果を及ぼす証拠は得られていない13。この矛盾の1つの説明として、ビタミンC摂取が有効なのは、ビタミンCが本当に欠乏している人のみの可能性があり、そのような人は米国人集団のわずか7%である14

ビタミンCとTet2機能は炎症と関連することが示されていて、炎症は幹細胞の機能変化、心血管疾患、がんリスクとの関連が示されている15,16。我々や他のグループは実際に、HSCにおけるTET2などの変異が健康な人の血液系で広く見られることを明らかにした。この臨床状態は、加齢に伴って上昇し(70歳以上では10%以上)17、炎症を引き起こすことや、心血管疾患と白血病発症の両方のリスクの有意な上昇と関連することが報告されている18

今回の研究成果により、ビタミンC欠乏がHSCの機能を変化させるという仮説が裏付けられた。これは、白血病や他の疾患のリスクにも影響を及ぼすかもしれない。今後の大規模な集団研究によって、ビタミンCと、がんや心血管疾患や死亡との間に関連が見つかる可能性がある。そのような研究は、Tet2変異とビタミンC、炎症やがんの関係をさらに解明するのに役立つと考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Peter G. Millerは、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)、Benjamin L. Ebertは、ブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)に所属。

参考文献

  1. Dang, L. et al. Nature 462, 739–744 (2009).
  2. Mihaylova, M. M., Sabatini, D. M. & Yilmaz, O. H. Cell Stem Cell 14, 292–305 (2014).
  3. Agathocleous, M. et al. Nature 549, 476–481 (2017).
  4. Cimmino, L. et al. Cell 170, 1079–1095 (2017).
  5. Oguro, H., Ding, L. & Morrison, S. J. Cell Stem Cell 13, 102–116 (2013).
  6. Yin, R. et al. J. Am. Chem. Soc. 135, 10396–10403 (2013).
  7. Tahiliani, M. et al. Science 324, 930–935 (2009).
  8. Moran-Crusio, K. et al. Cancer Cell 20, 11–24 (2011).
  9. Delhommeau, F. et al. N. Engl. J. Med. 360, 2289–2301 (2009).
  10. Patel, J. P. et al. N. Engl. J. Med. 366, 1079–1089 (2012).
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  13. Lee, B., Oh, S. W. & Myung, S. K. Korean J. Fam. Med. 36, 278–285 (2015).
  14. Schleicher, R. L., Carroll, M. D., Ford, E. S. & Lacher, D. A. Am. J. Clin. Nutr. 90, 1252–1263 (2009).
  15. Adams, P. D., Jasper, H. & Rudolph, K. L. Cell Stem Cell 16, 601–612 (2015).
  16. Sattar, N. et al. PLoS Med. 6, e1000099 (2009).
  17. Jaiswal, S. et al. N. Engl. J. Med. 371, 2488–2498 (2014).
  18. Jaiswal, S. et al. N. Engl. J. Med. 377, 111–121 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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