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精子が卵と出会う時

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160934

原文:Nature (2016-06-23) | doi: 10.1038/nature18448 | When sperm meets egg

Karsten Melcher

受精、つまり精子と卵の結合は、精子のIzumo1と卵のJunoという2種類の細胞表面タンパク質が仲介する。それぞれのタンパク質について行われた構造解析と、Izumo1–Juno複合体の構造解析から、認識過程とそれに続く精子–卵融合についての手掛かりが得られた。

ヒトの受精は、精子が産生するIzumoと、卵に発現しているIzumoの受容体Junoの2種類のタンパク質相互作用により可能になる。しかし、この相互作用の詳細についてはよく分かっていなかった。このたび、トロント大学(カナダ・オンタリオ州トロント)のHalil Aydinら(562ページ1と、東京大学の大戸梅治ら(566ページ2は、IzumoとJunoそれぞれのタンパク質の結晶構造と、この2つのタンパク質が複合体を形成した状態でのX線結晶構造を原子レベルの分解能で明らかにし、Nature 6月23日号で報告した。

ヒトの精子は性交後、卵管内にある卵に向かって移動する際に成熟する。通り道である膣内から卵管にかけての酸性環境は、精子を活性化する最初の引き金であり、ここで超活性化という運動性の変化が起こり、卵の外側を覆う保護層を通過できるようになる。活性化の第2段階は、保護層を通過した精子が透明帯(卵細胞膜の外側にある透明な膜)に結合する時点、あるいはその直前に、卵由来の物質により引き起こされる先体反応と呼ばれる現象で、先体(精子頭部の先端にある細胞小器官)が透明帯を破壊する消化酵素を放出するこの反応を経て、精子は受精が可能になる。そして、精子が卵細胞膜上のJunoに結合すると、それに続いて精子と卵の細胞膜が融合し、最終的には精子と卵が融合する。融合の後、卵は透明帯の糖タンパク質を架橋する酵素を放出して透明帯を硬化することで、他の精子がこれ以上貫通できないようにし、複数の精子による受精(多精子受精)を防止する3,4

Izumo1は、2005年に岡部勝(大阪大学)らが、精子–卵の融合を阻害する抗体を用いて探し出したタンパク質で、縁結びの神として有名な出雲大社にちなんで名付けられた5。Izumo1は、細胞内の先体内膜上に存在しているが、先体内膜は先体反応によって精子細胞表面膜の一部となるため、細胞表面に露出する。一方のJunoは、Izumo1の発見から約10年後の2014年に卵に見つかった膜結合タンパク質で、雌の生殖能力、および精子–卵の膜融合に不可欠なIzumo1の受容体としての機能が確認され、ローマ神話の愛と結婚の女神にちなんで名付けられた6。2016年には、マウスのJunoの構造が相次いで報告された7,8が、Izumo1の細胞外ドメイン、ヒトのJuno、Juno–Izumo1複合体の構造は分かっていなかった。

Junoはもともと、葉酸受容体δと呼ばれ、ヒトでは葉酸受容体(葉酸やその誘導体の受容体)と約60%のアミノ酸相同性を持つ6。マウスのJunoの構造7,8や今回の2つの研究から、ヒトJunoタンパク質は葉酸受容体9,10とほぼ同じ折りたたみ構造であることが明らかになった。Junoは、8つのジスルフィド結合(S–S)によって安定化される球状の構造をしていて、深いリガンド結合ポケットを持つ。しかし、Junoのリガンド結合ポケットの主要なアミノ酸残基のいくつかは葉酸受容体とは異なっており、これはJunoが葉酸に結合できないという事実に一致する4

今回、両研究グループは、Izumo1の細胞外領域には、アミノ末端側に4本のαヘリックスが束になったIZUMOドメイン、カルボキシ末端側に免疫グロブリン様ドメインがあることを明らかにした。これらの2つのドメインは、間にあるヒンジ領域(ループを持つβヘアピン構造からなる)のそれぞれの端でジスルフィド結合によってつなぎとめられている。また、Izumo1とJunoは1:1の比で高親和性複合体を形成することも分かった。Junoの表面はリガンド結合ポケットから離れた位置にあり、Izumo1のヒンジ領域の外側に結合することで、Izumo1の2つのドメインに接触している(図1)。

図1:JunoはIzumo1のヒンジ領域を安定化する
Aydinら1、および大戸ら2は、ヒトの精子タンパク質Izumo1と、卵に存在するその受容体Junoの構造を解明した。Izumo1はリボン型、Junoは表面構造で示している。Izumo1は折りたたみドメイン2つから構成され、これらの2つのドメインがヒンジ領域(オレンジ色)でつながれている。遊離型Izumo1では、ヒンジ領域はJuno結合型よりも柔軟で、より曲がったコンホメーションをとる(可能なコンホメーションの変化を黒い矢印で示す)。Izumo1は、Junoとの結合により、そのヒンジ領域が安定化され、細長い棒状のコンホメーションに固定される。これにより、ジスルフィド交換反応のためのジスルフィド結合(S–S;黄色)が露出して、Izumo1の二量化とその後の精子–卵膜融合が促進される。 | 拡大する

大戸らは、遊離型Izumo1、およびIzumo1–Juno複合体におけるIzumo1はいずれも、細長い棒状のコンホメーションであることを示した。それに対しAydinらは、Izumo1単独ではブーメラン型のコンホメーションだが、Junoと結合することでヒンジ領域が真っすぐになり、Izumoに約40°接近できるようになることを示した。Aydinらが解析に用いたのは、X線小角散乱(SAXS)として知られる技術で、この手法では溶液中のタンパク質について低分解能だが全体的な構造情報が得られる。そのため結晶のパッキングに伴い生じるコンホメーションの偏りを回避できる。これらのデータから、溶液中でのIzumo1の優勢なコンホメーションは、おそらくブーメラン型であると考えられる。また、Junoはヒンジ領域表面の外側に結合するが、この結合によって最も安定化される領域はヒンジ領域の内側である。つまりヒンジ領域はIzumo1単独の場合にはさまざまな位置をとれるが、JunoがIzumo1の2つのドメインに同時に結合することで、Izumo1のコンホメーションが固定されることが示唆される。

タンパク質同士の結合界面は通常、タンパク質の表面で進化的に最も保存されているものだが、ヒトのIzumo1–Junoの界面は既知のタンパク質の中で最も保存されていない。今回構造を報告した両研究グループは、結合表面の多様性が受精過程での種特異性に寄与する可能性があると考えている。というのも、種を超えた受精を阻止する役割を果たしている透明帯を除去した場合も、精子と卵の融合には何らかの特異性が見られるからだ11。大戸らは、マウスのIzumo1に遺伝的変異を導入すると、Izumo1–Juno相互作用の親和性が大きく低下することを明らかにしている。また、通常はIzumo1を発現していないサル腎細胞に野生型のIzumo1を発現させると、この細胞は透明帯を除去したマウス卵に効率的に結合できたが、変異体Izumo1タンパク質を発現する細胞はマウス卵に結合できなかった。これらの結果は、今回の結晶構造から明らかになった界面についての知見をはっきりと裏付けており、精子–卵結合の仲介において結合界面が重要であることを示している。

ではなぜこのタンパク質結合受容体は葉酸受容体から進化したのだろうか? Junoのポケットには、葉酸以外の未知のリガンドが結合し、Junoの活性を調節している可能性も考えられないだろうか。葉酸受容体はpH感受性が非常に高く、酸性条件で葉酸を放出する10が、大戸らは、Izumo1に対するJunoの親和性は、わずかな酸性化によって激減することも示した。以上のことから、Junoは、リガンド結合やpHの変化によってさまざまなレベルでIzumo1との結合を調節している可能性がある。

精子–卵の認識や接着におけるIzumo1とJunoの相互作用は構造的および生物物理学的に特徴付けられたが、最初の結合から膜融合に至るまでの過程は解明されていない。Izumo1は結合後も膜に存在し続けるが、Junoにはシェディング(膜タンパク質の切断)が起こる。このシェディングにより、透明帯のゆっくりとした硬化が完了する6前に、多精子受精が迅速に阻止されるのかもしれない。これまでの研究から12、Izumo1はジスルフィド交換反応により安定な二量体になり、Junoから解離して、膜融合装置を動員できるようになることが分かっている。実際に、大戸らはIzumo1のジスルフィド結合が容易に破壊されるという証拠を示しており、おそらくJunoとの結合後のIzumo1安定化により、ジスルフィド交換反応のためのジスルフィド結合が露出されると考えられる。この仮説を検討し、Izumo1–Juno結合が膜融合の引き金になる仕組みを明らかにするには、Junoのシェディング後にIzumo1に結合するタンパク質を明らかにし、最初の結合に続いて細胞で起こる事象を再構築する必要があるだろう。

(翻訳:三谷祐貴子)

Karsten Melcherはヴァンアンデル研究所(米国ミシガン州グランドラピッズ)に所属。

参考文献

  1. Aydin, H., Sultana, A., Li, S., Thavalingam, A. & Lee, J. E. Nature 534, 562–565 (2016).
  2. Ohto, U. et al. Nature 534, 566–569 (2016).
  3. Krauchunas, A. R., Marcello, M. R. & Singson, A. Mol. Reprod. Dev. 83, 376–386 (2016).
  4. Okabe, M. Development 140, 4471–4479 (2013).
  5. Inoue, N., Ikawa, M., Isotani, A. & Okabe, M. Nature 434, 234–238 (2005).
  6. Bianchi, E., Doe, B., Goulding, D. & Wright, G. J. Nature 508, 483–487 (2014).
  7. Han, L. et al. Curr. Biol. 26, R100–R101 (2016).
  8. Kato, K. et al. Nature Commun. (2016).
  9. Chen, C. et al. Nature 500, 486–489 (2013).
  10. Wibowo, A. S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 15180–15188 (2013).
  11. Yanagimachi, R., Yanagimachi, H. & Rogers, B. J. Biol. Reprod. 15, 471–476 (1976).
  12. Inoue, N., Hagihara, Y., Wright, D., Suzuki, T. & Wada, I. Nature Commun. 6, 8858 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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