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「あかつき」から届いた最初の金星観測データ

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160708

原文:Nature (2016-04-14) | doi: 10.1038/532157a | Rescued Akatsuki spacecraft delivers first results from Venus

Elizabeth Gibney

金星周回軌道への再投入に成功し、見事復活を遂げた日本の金星探査機「あかつき」。今回公開されたのは試験観測の結果だが、そこには全球を覆う硫酸の雲の縞模様や大気中に見られる弓の形をした模様など、これまで目にしたことのない金星の姿が捉えられていた。

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Akihiko Ikeshita/AFP/Getty Images

宇宙航空研究開発機構(JAXA;東京都調布市)はこのたび、日本の金星探査機「あかつき」による最初の科学的成果を公開した。「あかつき」は、5年間に及び想定外の回り道を強いられたが、2015年12月に太陽周回軌道から救出され、金星周回軌道への再投入に成功した。今回公開されたのは試験的な初期観測のデータだが、その内容は、酸性の雲が作る縞模様の詳細な画像や、金星の大気中を動いていく謎の弓状模様の画像など、実に興味深いものだった。

JAXA宇宙科学研究所(ISAS;神奈川県相模原市)の惑星科学者であるプロジェクトマネージャーの中村正人は、2016年4月4~8日にオックスフォード大学(英国)で開催された国際金星会議(International Venus Conference)で、「あかつき」は太陽の周りを5年間も回っていたが、観測装置は「ほぼ完璧」に機能していると発表した。また、再投入された軌道では2018年に長時間金星の影に入ることになり、その間に太陽光発電ができなくなって機器に悪影響が出ることが予想されたため、2016年4月4日に軌道修正を行って金星の影に入るタイミングをずらし、5年間は観測できるようにしたという。

左:IR2が、3月25日に距離約10万kmの位置から撮影した金星夜面の画像
波長は2.26µmで、高温の大気からの熱赤外線を背景に、雲の濃淡が「シルエット」として映し出されている。金星全体を一望する夜面画像として、これまでで最も詳細な様子を捉えたものとなった。
右:LIRが、金星周回軌道への再突入に成功した12月7日に、距離約7万2000kmの位置から撮影した金星の姿
夕方側に、南北両半球にまたがる弓状の模様が見て取れる。この現象はその後4日間にわたって存在していた。 | 拡大する

ISAS/JAXA

2010年5月に打ち上げられた「あかつき」は、同年12月に金星周回軌道に投入されて、金星の厚い大気を調べる他、活火山の兆候やその他の地質学的構造を探したりする計画になっていた。けれどもバルブの不具合によりメインエンジンが破損したため軌道投入に失敗し、金星ではなく太陽を周回する軌道に入ってしまった。そこでJAXAの技術者たちは、2015年12月に「あかつき」と金星の位置が近くなるのを待ち、小型の姿勢制御用エンジンを噴射させて金星を周回する楕円軌道に再投入し、ミッションを遂行できるようにした(Nature ダイジェスト 2016年3月号10ページ「探査機『あかつき』が金星周回軌道へ」参照)。

「あかつき」は、軌道投入直後から数カ月間にわたり、本格的な定常観測に向けて試験的な初期観測を続けてきた。「あかつき」には、地表面や下層大気を観測する波長の異なる2種類の近赤外カメラ(1µmのIR1および2µmのIR2)、雲の温度分布を観測する中間赤外カメラ(LIR)、雲の最上部に存在する物質を観測する紫外カメラ(UVI)、雷などを観測する可視光カメラ(LAC)の計5台のカメラが搭載されており、このうちLACを除く4台については、すでに全て正常に機能することが確認されている。今回公開されたのはこうした初期観測の結果だが、いずれも初めて撮影された金星の姿であり、今後の定常観測*への期待を大いに高めるものである。

オックスフォード大学での会議では、金星を覆う酸性の雲の中の高密度層を詳細に捉えたIR2の画像に対して、聴衆から拍手が起こった。JAXAのプロジェクトサイエンティスト、今村剛によると、これは金星全体を一望する夜面画像としてはこれまでで最も高品質なものであり、雲形成の基礎となるプロセスが、これまで考えられていたより複雑である可能性を示唆しているという。

研究チームは、今後予定されている定常観測で、さらに予想を覆すような結果が得られるだろうと期待している。今回の画像は金星から10万kmも離れたところから撮影されたものだが、「あかつき」が金星に最も接近するときには、その距離は10分の1以下になるからだ。IR2の開発責任者であるJAXA/ISAS教授の佐藤毅彦は、「今後、さらに高い空間分解能を達成できる見込みです。数年にわたり、研究コミュニティーに素晴らしいデータを提供することをお約束します」と語った。

LIRが捉えた熱画像もまた、非常に興味深い。金星の南北両半球にまたがる弓状の模様が、東西方向にゆっくりと移動しながら数日間にわたって存在し続ける、というこれまで知られていなかった現象が確認されたのだ。金星大気の上空では東西方向に猛スピードの風が吹いているため、南北方向に安定した構造が形成されるのは不思議である。LIRチームを率いる立教大学(東京都豊島区)教授の田口真は、弓状の模様がこうした動きになったのは、大気ではなく地表の特徴に伴って回転していたからではないかと考えている。一方、会議に参加した他の研究者たちは、この模様が生じた原因について首をかしげるばかりだ。NASAジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)の惑星科学者Suzanne Smrekarは、「本当に不思議です」と言う。

現在稼働している金星探査機は「あかつき」だけであることもあり、今回の成果は研究者たちを大いに元気づけるものとなった。オックスフォード大学の惑星科学者Colin Wilsonは「とてもいい雰囲気です」と言う。今回行われた軌道修正により、「あかつき」は当初の計画どおり金星の赤道域の探査ができるようになった。結果としてもたらされる画像の数々は、2014年に運用を終えた欧州宇宙機関(ESA)の金星探査機「ビーナス・エクスプレス」による極地域の観測データを補完するものになるはずだ。

とはいえ、復活した「あかつき」は問題も抱えている。10.8日で金星を周回する現在の軌道では、金星から最も離れるときの距離が当初の予定の約5倍も遠くなってしまう(「『あかつき』の軌道変更」参照)。「あかつき」が金星のすぐ近くを通過する短い期間に撮影されるものを除き、ほとんどの画像の分解能は当初の予定より低くなるため、雷光を捉えるなど、特に詳細な画像を必要とする観測には時間がかかるはずだ。だがJAXAの研究チームは、金星全体の姿を撮影して広域的な特徴の時間変化を追跡するなど、「あかつき」の現在の細長い軌道を最大限に活用していくつもりだと説明している。

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軌道投入の失敗により5年間も太陽の近くを周回していたことも影響しているようだ。今年1月にはIR2で、観測に必要な低温に達しないという不具合が生じたが、これは長い年月で冷却材のヘリウムに徐々に水蒸気が混入したためではないかと佐藤は見ている。佐藤のチームは、いったん冷却材を加熱して水蒸気を飛ばすことにより問題を解決したが、冷凍機の最適化には時間を要し、「約1カ月も観測できませんでした」と言う。

JAXAに所属していない惑星科学者たちが「あかつき」のデータを利用できるのは、データの取得から1年後のことだが、それでも今回の初期観測の成功に対する彼らの喜びは変わらない。NASAが2020年代初頭の打ち上げを検討している5つのミッションの中には2つの金星探査計画があり、2016年末までにどのミッションを実施するかが決まることになっている。Smrekarは、レーダーを使って金星表面の詳細な地図を作成する金星探査計画「VERITAS」を提案しており、「あかつき」の金星探査が成功して、追跡調査を必要とするような興味深い特徴が発見されれば、金星探査プロジェクトが採用される可能性は高くなるだろうと予測する。「例えば、『あかつき』が新たな火山活動を発見したら、より詳細な探査を行うために金星に探査機を送る理由になるはずです」。

(翻訳:三枝小夜子)

*訳註:JAXAは4月28日付けで、初期観測に成功した4台のカメラが全て定常観測へ移行したと発表した。LACは依然調整中だという。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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