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37億年前の「生命の痕跡」を発見か

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161106

原文:Nature (2016-08-31) | doi: 10.1038/nature.2016.20506 | Claims of Earth’s oldest fossils tantalize researchers

Alexandra Witze

グリーンランドの岩石から発見された構造物は、37億年前の生物によって作られたものだとする研究結果が報告され、論争が巻き起こっている。

この岩石中の隆起した層は、初期の生命の痕跡なのかもしれない。 | 拡大する

Allen Nutman

オーストラリアと英国の地質学者のチームが、地球上の生命に関する最古の証拠を発掘したとの報告が、Nature 2016年9月22日号に掲載された1。その証拠とは、グリーンランドの37億年前の岩石の中に含まれていた「ストロマトライト」である。ストロマトライトとは、微生物の粘液により炭酸塩や堆積物が固定されてドーム状に積み重なった縞状構造物で、カリフラワーのような形をしている。この発見にはさらなる裏付けが必要だが、誕生して間もない地球で、生命が急激に出現したことが示唆されるという。

一方で、この発見を疑問視する声も多い。研究者たちは通常、岩石の微細な特徴を調べることで化石化したストロマトライトを特定する。問題は、この構造物が含まれている岩石が、数十億年にわたるプレート運動に伴い高温・高圧になったことである。高温・高圧下では岩石の結晶組織が変化するため、微細な特徴の多くは消え去ってしまうのだが、この岩石は、地球上でも有数と言ってよいほど物理的に痛めつけられているのだ。そのため、今回の発見をめぐる論争が早くもヒートアップする事態になっている。ワシントン大学(米国シアトル)の地球生物学者Roger Buickは、「疑問点と問題点が14もあります。それらが解決されないかぎり、私は彼らの主張を信じることができません」とまで言う。

今回の発見の舞台となったグリーンランドのイスア地域は、研究者たちが以前から数十億年前の生命の痕跡を探し続けてきた場所だ。イスア地域の岩石の化学的性質に関するこれまでの研究(炭素同位体を分析した1999年の論文2など)からは、この地域の岩石に初期の生物の「バイオマーカー(生物指標化合物)」が微量に含まれていることが示唆されている。けれども、長年にわたりさまざまな説が提唱されており、決着はまだついていない。

万年雪の下から現れたもの

今回は、雪解けが新しい手掛かりをもたらした。ウロンゴン大学(オーストラリア)の地質学者Allen Nutmanが率いるチームは、イスア地域の気温の上昇により万年雪が解けて露頭が現れた場所を訪れた。そこで37億年前の岩石の塊を切り出し、オーストラリアに持ち帰って分析した。

研究チームはその岩石中に、太古の生命に関する他の手掛かりと一緒に、ストロマトライトと思われる構造物を発見した。チームの一員であるニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)の地質学者Martin Van Kranendonkは、「タイプの異なる証拠が手に入ったことが、今回の発見をより説得力のあるものにしました」と胸をはる。

Van Kranendonkらによると、岩石中の構造物は高さ1~4cmの小さな隆起で、その形状や内部の層状構造は古代や現代のストロマトライトによく似ているという。構造物周囲の岩石の組織から、この岩石が浅い海底で堆積してできたことが示唆される。これは、今日のバハマ諸島や西オーストラリアなどで成長するストロマトライトと同じである。また、岩石にはドロマイト(苦灰石)などの炭酸塩鉱物が含まれていた。こうした鉱物は新しいストロマトライトでもよく見られる。

最古の生命の証拠として現在広く受け入れられているのは、西オーストラリアのピルバラ地域で発見された約35億年前のストロマトライトだ3。今回グリーンランドで見つかった構造物は、それよりさらに約2億2000万年も古いことになる。「グリーンランドの岩石から見つかった構造物の厚みは、オーストラリアのものに比べると非常に薄いのです」と話すのは、NASAのジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)の宇宙生物学者Abigail Allwood。「とはいえ、元の状態をほとんどとどめていない岩石中に何らかの構造物が見つかるだけでも、信じられないくらい幸運なのです。だからこそ注目に値するのです」。

疑問の声

古代のストロマトライトを研究する上で問題になるのは、層状構造が生命とは無関係な過程によっても形成し得ることだ。実際、海底に沈殿する鉱物が、バスタブの輪じみのような層状構造を残すことがある。これはストロマトライトのように見えるが、もちろん違う4

オーストラリア・パース在住の古生物学者で、古代のストロマトライトの研究をしてきたKathleen Greyは、「これらの構造物は、せいぜい『擬似ストロマトライト(pseudostromatolite)』とでも分類するべきものです」と言う。「残念ながら私には、最古の生命という主張の根拠となるような説得力のある証拠だとは思えません」。

マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の地球生物学者Tanja Bosakは、研究チームがストロマトライトだとしている構造物の内部や近くに少量の有機物があるかどうかを調べてみたいと言う。岩石中の各種の炭素を比較すれば、その構造物が生物起源であるか否かを明らかにする役に立つかもしれないからだ。

またAllwoodは、グリーンランドの岩石は少なくとも、宇宙生物学者にとって有益な情報となるに違いないと考えている。彼らは、2020年に予定されているNASAの火星ミッションにより初めて地球にもたらされるであろう火星の岩石を分析するための準備を進めている。今回の「ストロマトライト発見」という報告は、生命の証拠といえる要素とは何であるかを科学者たちが議論する最初の機会になるかもしれない。

そして、Allwoodはこう続ける。「例えば、火星で今回のようなものを発見した場合に、そこにただ旗を立てて『これが生命の証拠だ』と言うでしょうか?私はそうは思いません」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Nutman, A. P., Bennett, V. C., Friend, C. R. L., Van Kranendonk, M. J. & Chivas, A. R. Nature (2016).
  2. Rosing, M. T. Science 283, 674–676 (1999).
  3. Walter, M. R., Buick, R. & Dunlop, J. S. R. Nature 284,443–445 (1980).
  4. Grotzinger, J. P., & Rothman, D. H. Nature 383, 423–425(1996).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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