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アルツハイマー病新薬候補で認知機能低下が鈍化

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161102

原文:Nature (2016-08-31) | doi: 10.1038/nature.2016.20509 | Alzheimer’s treatment appears to alleviate memory loss in small trial

Erika Check Hayden

アミロイドβ仮説に基づくアルツハイマー病治療薬候補の小規模臨床試験で、認知機能低下の鈍化が観察された。現在、大規模な研究によりこの有望な初期データが裏付けられるか調査中である。

アミロイド沈着状態の変化
アミロイド沈着状態の変化 投薬前のアミロイド沈着状態(左列)と、54 週にわたるアデュカヌマブ投与後(右下)。右上はプラセボ。 | 拡大する

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初期の臨床試験ではあるが、アデュカヌマブ(aducanumab)と呼ばれる抗体医薬の投与により、アルツハイマー病の引き金と考えられる毒性タンパク質を脳から取り除くことができる可能性が示された。この結果は、Nature 2016年9月1日号に掲載された1。ただし、この臨床試験の主な目的はアデュカヌマブの安全性をヒトで確認することであり、この薬剤がアルツハイマー病に関連する記憶障害や認知障害を軽減する作用を持つかどうかについての最終的な判断は、より大規模な2つの第III相臨床試験が完了するまで待たなければならない。それらの第III相臨床試験は現在進行中であり、少なくとも2020年まで試験継続が計画されている。

アデュカヌマブは、バイオジェン社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が開発したヒトモノクローナル抗体で、凝集したアミロイドβに選択的に結合する。この研究では、165人の患者を2群に分け、一方の群にはアデュカヌマブを、他方の群にはプラセボが静脈内注入された。アデュカヌマブ投与群では、103人の患者に対し月1回の頻度で最大54週まで投与が続けられ、脳に凝集したアミロイドβが投与量依存的に減少することが観察された。マウスでの前臨床研究においても、アデュカヌマブにより脳のアミロイドβ斑が除去されたと考えられる結果が得られており、今回の論文1で合わせて報告されている。

「アデュカヌマブは、アミロイド斑の負荷を軽減する効果がこれまでの薬剤よりも顕著です」と、アルツハイマー病の予防と治療のために他の手法を検討しているバナーアルツハイマー病研究所(米国アリゾナ州フェニックス)の所長で精神科医のEric Reimanは言う。彼はこの論文に対し、「今回の知見は非常に衝撃的で、しかも有望です。大きな進歩です」とコメントを寄せている。

「今回の結果は、アルツハイマー病研究に捧げた私の25年間で最も良いニュースです。アルツハイマー病の患者や家族の希望となるでしょう」と、この臨床試験を行っている研究チームに属するバトラー病院(米国ロードアイランド州プロビデンス)の神経科医Stephen Sallowayは言う。

慎重に続ける

アデュカヌマブ投与群の患者はさらに、投与量により4つのグループに分けられた。投与量の最も多いグループは、アミロイド斑の減少も最も大きかった(「アミロイド沈着状態の変化」参照)。54週間の治療を受けた91人からなる患者群は、プラセボ投与患者群に比べ、認知機能低下の鈍化が観察された。

アミロイドβの蓄積が記憶障害やアルツハイマー病の他の症状を引き起こすかどうかについては、長い間議論が続いている。今回の臨床試験は、アミロイドβタンパク質自体の除去がアルツハイマー病の症状を軽減する可能性を示し、「アミロイド仮説」を裏付けている。

それでもReimanは、今回の臨床試験は小規模なため、アデュカヌマブが実際に機能すると証明することはできないと注意を促す。他の多数のアルツハイマー病治療薬はこれまで、初期段階の臨床試験では有望に見えたが失敗に終わっていた。

アルツハイマー病に対する抗体の臨床試験では過去に、一部の患者が脳に炎症を起こし死亡している。そのため、アルツハイマー病の臨床試験ではそのような異常が詳しく追跡される。アデュカヌマブも、患者の3分の1未満ではあるが、脳に異常を引き起こすことが脳画像検査で分かった。

ただし、今回報告された脳画像検査での異常の全てが最終的には約4~12週で消失し、患者が入院することはなかった。脳画像検査で異常を示した一部の患者は、その副作用にもかかわらず、アデュカヌマブの投与を受け続けた。アデュカヌマブの高投与量群の患者あるいは、アルツハイマー病の遺伝的リスク要因がある患者では、脳に異常が生じやすいと考えられたからだ。

アデュカヌマブを作製したバイオジェン社は、第III相臨床試験では、アデュカヌマブの投与量の調整と、アルツハイマー病の遺伝的リスクのある人を追跡するためのスケジュール調整を行っている。

Reimanは、致死的となり得るような脳炎症を引き起こさずに強力な効果を十分発揮できる「最適な」投与量があるかどうかを製薬会社が検討し、見つけ出す必要があると言う。

今後の展望

アルツハイマー病治療の分野では、数年間にわたって抗体や他の種類の薬剤の臨床試験の失敗が続いており、アデュカヌマブはそんな中で現れた明るい話題である。同じく抗体医薬のソラネズマブ(solanezumab;イーライ・リリー社)は、2013年に2つの大規模な臨床試験で認知機能低下を抑える効果を示すのに失敗したが、現在、評価項目を変更した複数の臨床試験が進行中である。その1つは軽度のアルツハイマー病患者を含んでおり、早ければ2016年の終わりには結果が報告されるだろう。

アルツハイマー病を対象とした他の治療戦略による臨床試験で現在進行中のものには、アミロイドタンパク質のプロセシングに関与するβセクレターゼ1と呼ばれる酵素を標的とする薬剤や、アミロイド斑に見られる「ピログルタミル化修飾」型のアミロイドタンパク質を攻撃する標的抗体、アルツハイマー病に関与すると考えられているタウと呼ばれるタンパク質を標的とする薬剤がある。

「脳内に入り標的に結合してアミロイド斑を除去できる抗体が現在ある、という事実が重要な進歩であり、第III相臨床試験の結果を、他の薬剤も含めて非常に楽しみにしています」と、Reimanは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Sevigny, J. et al. Nature 537, 50–56 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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