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細胞内に潜む耐性菌に効く、新方式の抗生物質

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160105

原文:Nature (2015-11-04) | doi: 10.1038/nature.2015.18696 | ‘Stealth bomb’ antibiotic vanquishes drug-resistant bacteria

Erika Check Hayden

黄色ブドウ球菌の一部はマウス細胞内に隠れて存在することで抗生物質による治療に耐性を示すが、これを殺菌できる抗体–抗生物質抱合体が報告された。

メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)には、一般的に使われる抗生物質が効かない。 | 拡大する

royaltystockphoto/ISTOCK/THINSTOCK

米国では毎年8万人以上がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に感染しており、ほとんど全ての抗生物質が効かないため、1万人以上が死亡している。MRSAによる死亡率がこのように高いのは、体内に侵入したMRSAが迅速に細胞内に入り込むため細胞外で作用する一般的な抗生物質では殺菌することが難しいからだと考えられている。

「従来のほとんどの抗生物質は、細胞外の黄色ブドウ球菌を効率的に殺菌できるのですが、細胞の中の菌を殺すことはできません。そのため、細菌が細胞内に入り込んだ場合にはどのように殺菌するかが課題でした」と、バイオ企業ジェネンテック社(米国カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)の免疫学者Sanjeev Mariathasanは言う。彼の研究チームは、細胞内に薬剤を送り込むために、がん治療を目的に開発された戦略を利用しようと考えた。

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最近がん治療の分野では、特定の細胞に結合するよう設計されたタンパク質(抗体)と、がん治療薬を適当なリンカーでつないだ、「抗体–薬物抱合体(antibody–drug conjugate;ADC)」の効果が期待されている。このような抗体–薬物抱合体には、ジェネンテック社が開発したカドサイラ(トラスツズマブ・エムタンシン)がある。カドサイラは、乳がん治療薬トラスツズマブ(抗HER2ヒト化モノクローナル抗体)と化学療法剤DM1を安定なリンカーで結合させたもので、トラスツズマブがHER2陽性の乳がん細胞に結合して内部に取り込まれることで、がん細胞内部にDM1を直接送達でき、それによりがん細胞が特異的に殺傷される。

Mariathasanの研究チームは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗体と結核治療に使われるリファンピンの誘導体(rifalogue)をリンカーでつないだ「抗体–抗生物質抱合体(antibody–antibiotic conjugate;AAC)」を作製し、MRSAを感染させたマウスを使って効果を調べた。細胞内MRSA感染の治療薬として最も一般的なバンコマイシンを対照薬とした場合、この抗体–抗生物質抱合体は、MRSAに対してバンコマイシンより約1000倍の抗菌活性を示した。この成果はNature 2015年11月19日号323ページに報告された1

静かな攻撃

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の医師のHenry Chambersは、「この研究は、体の特定の場所や生理状態の下で保護されている一部の細菌集団を除去するための新しい手法を示しています。この薬剤が黄色ブドウ球菌に感染した人に効果があることが証明されるまでには長い道のりがあるでしょうが、証明されれば細菌感染に対する新しい武器として重要なものになるでしょう」と話す。彼はさらに、「また転帰も改善されることが実証できれば、治療に変革がもたらされるかもしれません」と言う。

Mariathasanは、この治療は「ステルス爆弾」のように効果を発揮すると言う。この抗体–抗生物質抱合体はまず、マウスの体内で細胞外に存在している黄色ブドウ球菌(細胞壁のテイコ酸)に結合し、次に、その細菌とともに細胞内に取り込まれる。すると細胞内の酵素により抗体と抗生物質の間のリンカーが切断されて、抗生物質が効果を発揮できるようになる。つまり、この抗生物質は、細菌を殺す必要があるまさにその場所で作用できるのだ。

しかし、懸念もある。アイオワ大学(米国コーラルビル)の医師であり研究者でもあるWilliam Nauseefは、黄色ブドウ球菌が主に感染する免疫細胞はヒトとマウスでは異なる種類であることに留意すべきだと言う。また、Nature 2015年11月19日号のNews & Viewsでは、スイス連邦工科大学(チューリッヒ)の微生物学者Wolf-Dietrich Hardtが、黄色ブドウ球菌に慢性感染している人は、すでに黄色ブドウ球菌に対する抗体を持っているので、その抗体が抗体–抗生物質抱合体の黄色ブドウ球菌への結合を阻害するかもしれないと指摘している2

古くからある薬剤と新しい手法

この実験的な抗体–抗生物質抱合体がヒトで有効であるなら、古くからある薬剤の新しい利用法を見つけるのにも役立つと考えられる。多くの実験的な抗生物質が臨床試験で失敗しているのは、治療に有効な投与量では毒性があったり、一般的な投与法(錠剤、点滴、注射など)では薬剤を直接細胞内に送達することができず薬剤の効果が見られなかったりすることが理由である。今回の「標的抗生物質」は、原理的には薬剤が必要な細胞に正確に到達するので、投与量が少なくて済み、副作用を引き起こす可能性も低くなると考えられる。

「臨床試験に至る開発過程で除外されてきた抗菌薬がたくさん存在します。そのような薬剤の能力を再検討できるのです。薬剤耐性の拡大により抗生物質が効かなくなってきているにもかかわらず、製薬会社は新しい抗生物質の開発には興味がありません。今、製薬会社は他の種類の薬剤に夢中です。例えば、高価ながん治療薬などです。それ故、既存の薬剤の再検討は非常に重要なのです」とHardtは言う。

さらに彼は、こう付け加える。「新しい種類の抗生物質があっても、実際には患者に使用されない傾向があります。乱用による新たな薬剤耐性菌の出現などを防ぐためですが。この抗体–抗生物質抱合体は、抗生物質の新たな活用法の探索に役立つかもしれません」。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Lehar, S. M. et al. Nature 527, 323–328 (2015).
  2. Hardt, W.–D. Nature 527, 309–310 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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