Editorial

巨大ガス惑星の謎解きへ、いざ

Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

2004年12月26日にインドネシアを襲った巨大な地震と津波は、広範囲にわたって破壊の爪痕を残した。その結果、地球の自転周期を変えるほど大規模な地殻の変化が生じ、その日を境に、地球の1日は2.68マイクロ秒短くなった。

一方、太陽系の他の惑星となると、自転周期を正確に決定することは難しい。例えば、土星の場合には、不確実な要素が数多く存在する。

Nature 2015年3月26日号に掲載された、テルアビブ大学(イスラエル)のRavit Helledをはじめとする3人の惑星科学者の論文によれば、土星の1日の長さは10時間32分45秒(±46秒)であり、これまで考えられていたより15分短いという見解が示された(R. Helled, E. Galanti and Y. Kaspi, Nature 2015年4月9日号202~204ページ)。

土星は、岩石質の核を持ち、固体天体とほぼ同じように自転していると考えられているが、輪を除いた土星本体の大部分が高密度の液体ヘリウムと液体水素であることから、自転速度を明確に一義的に規定することはできないと予想されている(例えば太陽は、流体であるため、赤道での自転速度は極域より34%速い)。また、土星の大気は濁っており、その厚みを決定することは難しい。よって、それより堅牢な岩石質の核の自転速度を推定する作業は困難を極める。

現代において、土星の自転周期の計算が初めて行われたのは約35年前で、ボイジャー1号と2号の観測に基づいている。ゆらぎのある土星の磁場から発生する無線周波数帯の電磁波を利用して計算され、約10時間39分と導かれた。また、2004年以降土星を周回している米航空宇宙局(NASA)のカッシーニ探査機によっても、同じ電磁波測定が行われた。その測定値は約10時間47分とボイジャーの観測結果との差が広がった上、測定中に刻々と変化していたことも判明した。電磁波測定に基づいて自転周期を決める手法は、土星とともに巨大ガス惑星と呼ばれる木星ではうまくいったが、それより小型の土星の自転周期についても信頼度の高い値が得られるかどうかについては、専門家が疑問を抱き始めている。

Helledらは、自転による土星の歪みから自転周期を間接的に推定するという、ある意味、従来の手法に近い方法を用いた。天体が回転すると遠心力を受けて偏平した形になる。すなわち、赤道付近が太身になり、極地付近が細身になる。また、自転軸から離れれば離れるほど遠心力が強く働くため、土星のような大きさの惑星の場合にはより強い偏平効果が働き、自転速度が速まると考えられる。さらに、土星はほぼ流体であるために変形しやすい。一方、目に見えない部分、つまり土星内部の密度分布に関してはあまり分かっていない。しかし、土星を周回する天体に対する引力から何らかの情報が得られる可能性がある。例えば、カッシーニ探査機の軌跡が予定の軌道からわずかに逸脱していることから、土星の重力場の非対称性が明らかになっている。

ただ、この手掛かりは、土星の内部構造を突き止め、自転速度を計算するためには十分なものとはいえない。そのためHelledらは、次善の策を講じた。つまり、内部構造である可能性の高いものをつなぎ合わせて推測した値を用いた。こうして、不確実な領域を92秒間に絞り込んだのだ。

Helledらの自転周期の推定値が正しいかどうかは、NASAがカッシーニ・ミッションの終わり頃に計画している、より高精度な土星の重力場観測によって明らかになるだろう。カッシーニ探査機は土星の細長く伸びた軌道に入り込み、大気と環系の間を飛行する予定だ。そして2017年の燃料切れ間近の頃に、制御された状態で土星に突入することになっている。突入までに収集されるデータは、土星の組成を明らかにするだけでなく、遠方の恒星系における巨大ガス惑星の形成モデルを検証するためにも役立つと考えられている。こうした惑星探査は土星だけでない。2011年に打ち上げられたNASAの重要ミッションの1つである「ジュノー」においては、類似の方法による木星の重力場計測が2016年から行われる。近いうちに木星と土星という2つの巨大ガス惑星の謎解きが行われる見込みだ。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150633

原文

About time
  • Nature (2015-03-26) | DOI: 10.1038/519390a