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「ブロントサウルス」が復活する?

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150605

原文:Nature (2015-04-07) | doi: 10.1038/nature.2015.17257 | Beloved Brontosaurus makes a comeback

Ewen Callaway

竜脚類ディプロドクス科の系統樹を見直した研究から、アパトサウルスと同種とされたジュラ紀の巨大草食恐竜ブロントサウルスに独立種であることを示す特徴が見いだされたという。

1989年に米国で発行された切手。 | 拡大する

USPS

ジュラ紀を代表する巨大草食恐竜として、その名が広く世に知られている「ブロントサウルス(Brontosaurus)」。だが、それが学名として存在したのは、実は発見からわずか20年余り、20世紀の初頭までだった。古生物学界が「アパトサウルス(Apatosaurus)」と同種であるという公式見解を示したため、分類学的地位を失ってしまったのだ。ところが、この決定から1世紀以上が経過した2015年4月7日、ブロントサウルスはやはり独立種として分類されるべきだとする研究結果がPeerJに掲載された1。類似の草食恐竜の化石数十点を新たに分析して導き出した結論だという。これまで、古生物ファンが口にせずにはいられなかった「ブロントサウルスという名前は20世紀初頭に無効になった」といううんちくにも、早速改訂が必要になりそうだ。

ブロントサウルスは、早々に学名が変更されたにもかかわらず、映画などでその名が使われ続けたために、20世紀後半になってもまだ、多くの人々がこの名前で呼んでいた。この事実は、1989年に米国郵政公社が「ブロントサウルス」と明記した切手を発行したことからも見て取れる。科学を無視する行為だとして厳しく批判されたものの、同公社はこれに対し「一般に広く知られている名前を使った」と反論した。

ブロントサウルスの栄光と転落、そして今回の復活劇は、19世紀後半に巻き起こった「化石戦争」に端を発している。金の採掘で一山当てようと米国西部に多くの人々が殺到していた当時、また別の場所では「巨大なトカゲ」を探し求めて地面を掘り続ける人々がいた。その中心的人物が古生物学者のエドワード・コープ(Edward Cope)とオスニエル・マーシュ(Othniel Marsh)であり、この2人の化石発掘競争がこの時代の古生物学を形作ったと言っても過言ではない。

今回の論文でブロントサウルスの地位を復活させた、リスボン新大学(ポルトガル)の古生物学者Emanuel Tschoppは、「コープとマーシュはライバル関係にあり、とにかく先を急いで新種を発表していました。ただ、新種の根拠とされた標本は極めて断片的なものが多く、直接比較することはできません」と説明する。

1905年に完成・公開された、米国自然史博物館(ニューヨーク)のブロントサウルスの骨格標本。竜脚類の骨格標本展示はこれが初めてだった。 | 拡大する

Hulton Archive/Getty Images

1877年、マーシュのチームが米国コロラド州のモリソン累層で巨大な骨の化石を発見、彼はこれが新種の恐竜であると判断し、「Apatosaurus ajax」と命名した。Apatosaurusはギリシャ語で「惑わせるトカゲ」を意味し、ajaxはギリシャ神話の英雄「Ajax」にちなんでいる。2年後、マーシュは今度、ワイオミング州コモ・ブラフの同じ岩層で別の巨大恐竜の化石を発見する。これも新種と判断した彼は、「Brontosaurus excelsus」と命名した。Brontosaurusはギリシャ語で「雷トカゲ」、excelsusはラテン語で「高貴な」を意味する。ブロントサウルスが日本で「雷竜(かみなりりゅう、らいりゅう)」とも呼ばれていたのは、この属名に由来する。

ところが1901年、古生物学者エルマー・リグス(Elmer Riggs)らがコロラド州フルイタで、アパトサウルスとブロントサウルスの両方に似た化石を発見する。1903年、リグスはこの新標本に基づき、マーシュが記載したアパトサウルスとブロントサウルスの標本は同属別種のものであるという結論を下した。リグスはまた、アパトサウルスの模式標本はブロントサウルスの若い個体にすぎない、とも指摘した。

その後の研究でも、ブロントサウルスを独立の種とする見方に対して疑問が相次ぎ、最終的に古生物学界は、この2種を同一と見なすことで合意に至った。分類名は、18世紀のスウェーデン人分類学者カール・リンネ(Carl Linnaeus)が提唱し、現在も使われている「同じ動物の学名は最初に与えられたものを優先する」というルールに従い、先に記載された「アパトサウルス」が採用された。これにより、Brontosaurus excelsusとして記載された化石標本は、Apatosaurus excelsusと改名された。

系統樹の作成

Tschoppが今回の研究に着手したのは、ブロントサウルスを復活させるためではなかった。アパトサウルスをはじめとする巨大草食恐竜の分類群であるディプロドクス科は、よく知られた竜脚類グループだが、分類学的な位置付けが疑わしい種も複数含まれており、また属間の系統関係もあまり分かっていない。こうした不明点を明らかにするため、彼は、化石標本がどのように分類されたのか再確認し、異なる標本間に見られる解剖学的な差異が同一種内のばらつきなのか、それとも種や属が異なることを意味するのか、調べ直すことにした。Tschoppの研究チームは、ディプロドクス科に属する約20種全てについて、のべ数十点に及ぶ標本で500近くの解剖学的形質を分析し、系統樹を作成した。データの収集には、欧米各地の20の博物館を訪ね歩き、5年の歳月を要したという。

こうして完成した系統樹は、ディプロドクス科内の進化的関係についてすでに確立されている見方と、おおむね一致するものとなった。しかしTschoppらは、アパトサウルスとブロントサウルスには、それぞれを固有の属とするのに十分な差異がある、とも結論している。両者の解剖学的な差異には不明瞭なものが多いが、首の太さの違いは明らかだという。「いずれも非常に頑強で巨大な動物ですが、アパトサウルスの方が首が太く、よりがっしりしています」とTschoppは説明する。

ブロントサウルスを属名として復活させることについて、Tschoppらはかなり慎重に検討したという。反発があることも予想している。「ブロントサウルスはとても有名なので、今回の発見が大きな意味を持つことは分かっていました。この結果については今後、科学的な議論が行われるでしょう。そうなることを望んでいます。科学とはそういうものですから」とTschoppは語る。

今回の研究成果の目玉は、確かにブロントサウルスの復活かもしれないが、彼らの報告によれば、分類学的な位置付けを変える必要のある恐竜は他にもいるという。例えば、Diplodocus hayiという種には、ガレアモプス属(Galeamopus)という独立した属が与えられるべきで、また、ポルトガルで発見されたディンヘイロサウルス属(Dinheirosaurus)とされている恐竜は、北米でしか化石が見つかっていないスーパーサウルス属(Supersaurus)に属すると判定された。

学名の競争

今回の研究成果を「ディプロドクス科の恐竜に関する現時点で最高の見解」と評価するのは、ブリストル大学(英国)の古脊椎動物学者Michael Bentonだ。Tschoppらによって今回明らかになったブロントサウルスとアパトサウルスとを区別する形質は、竜脚類の他の属を決定付ける特徴とも合致する。

「ブロントサウルスとアパトサウルスがやはり別々の種だった、というのはかなりの衝撃です。この2つの名前はこれまで、『異名』の意味を学生に説明するときの典型例として必ず登場してきました。マーシュとコープがいかに先を急いで新しい分類群を記載し、時として同じ動物を重複して命名していたか、そのスピードや卑劣な行いを説明する際の例としても定着していましたからね」とBentonは話す。

ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)の古生物学者Philip Mannionも、今回の研究の重要性はブロントサウルスの復活にとどまらないと評価する。これまでに見つかっているディプロドクス科の恐竜の化石が、どの属のどの種のものなのかを明白にすることで、今後新たに発見されるだろう骨の正確な分類が容易になるとともに、この史上最大級の恐竜がどのような進化の道をたどったかを解明することにも役立つからだ。

「ブロントサウルスは人々の想像力を大いにかき立てた特別な存在です。一般社会に与える影響も大きいでしょう」と語るMannionには、この件についてある個人的な思い入れがある。

彼は数年前、あるポスター会社から「ブロントサウルスは恐竜の名前として有効なのか」という問い合わせを受けたという。「お父さんが子どもにポスターを買い与えたところ、即座に『ブロントサウルスっていう恐竜は、本当はいなかったんだよ』と言われたというのです」とMannionは振り返る。彼は問い合わせに対し、子どもが正しいと伝えたそうだが、今回の結果を受けて、「あの親子に教えてあげたいですね」と語った。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Tschopp, E., Mateus, O. & Benson, R. B. J. PeerJ http://dx.doi.org/10.7717/peerj.857 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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