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GM生物を生物学的に封じ込める最新手法

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150409

原文:Nature (2015-01-22) | doi: 10.1038/517423a | GM microbes created that can’t escape the lab

Elie Dolgin

「自然には存在しないアミノ酸」がなければ生きられないように遺伝子組換え(GM)生物の代謝系を書き換えるという、強固な生物学的封じ込め法が開発された。

新しい生物学的封じ込め法の登場で、遺伝子組換え乳酸菌のヨーグルトのような機能性食品の道が開かれるかもしれない。

Thinkstock

遺伝子組換え技術を批判する人々は、以前から、遺伝子を改変された生物(GM生物)が環境に逃げ出すことを懸念していた。2015年1月に米国の2つの研究チームがNatureに発表した生物学的封じ込めの戦略1,2は、こうした懸念の一部を払拭し、農業・医療・環境浄化などの領域で遺伝子組換え生物の活用の幅を広げる可能性がある。

2つの研究チームが作り出した遺伝子組換え細菌は、天然には存在しないアミノ酸に依存したタンパク質で構成されており、実験室で自然界には存在しないアミノ酸を与えられているかぎりはよく成長し、元気でいられる。実際に、非天然型の人工アミノ酸を与えずにこの細菌の培養を試みる実験を何度か行ったが、1000億(1011)個以上の細菌のうち20日を越えて生き残ったものは1個もなかった。

ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の合成生物学者で、今回の2本の論文のうちの1本の著者であるDan Mandellは、「我々に検証できるかぎりでは、この細菌株が外に逃げ出すことはないでしょう」と話す。

この遺伝子組換え大腸菌の改変されたDNAが天然のDNAと交換されることもない。この細菌がタンパク質合成に用いる生化学的言語(遺伝暗号)は、全ての生物に共通する生化学的言語とはもはや別物であるからだ。もう1 つの研究チームを率いたエール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の合成生物学者Farren Issacsは、「遺伝子組換え生物の安全性と封じ込めを最初から万全にしておくことが、幅広い利用や開放環境での利用を可能にします」と説明する。

遺伝子組換え細菌を環境から隔離することを可能にする生物学的封じ込め方法が開発されれば、薬物や燃料の生化学的産生をより安全に行えるようになるだけでなく、こうした細菌を制御下で人体や環境に放出することも可能になる。インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)の合成生物学者Tom Ellisは、今回の研究には参加していないが、「物理的封じ込めは過去のものになるかもしれません」と言う。

この新しい技術は、Mandellの所属するハーバード大学医学系大学院の遺伝学者George Churchの研究室で生まれた。2013年、Churchらのチームは、遺伝暗号を再プログラミングされた大腸菌Escherichia coli株を合成したと報告した3(この論文にはIsaacsも名を連ねる)。この大腸菌では、mRNA上のUAGという3つの塩基配列からなる終止コドン(アンバーと呼ばれる)が、「タンパク質の合成を停止させろ」という本来の指示ではなく、「タンパク質に新しい種類のアミノ酸を組み込め」という指示として認識される。

ChurchとIsaacsの遺伝子組換え細菌は、どちらも非天然型アミノ酸に依存するようにしてある。Isaacsらのチームは、細菌の生存に必須のタンパク質の中に、全体の機能に影響を及ぼすことなく合成アミノ酸を組み込めるような部位をゲノムシーケンシングにより見いだした。一方、Churchのグループはタンパク質の構造から出発して、人工アミノ酸の取り込みを促す要素を追加した。「私たちの10年にわたる研究の成果です」とChurchは言う。

彼らの大腸菌は、天然の大腸菌よりもウイルスに対する抵抗性が強い。ウイルスの遺伝暗号と宿主である大腸菌の遺伝暗号が一致していないからである3。今回の研究では割り当てを変更したコドンは1種類だけだったが、Churchらの研究チームは、先を見越して7種類のコドンの割り当てを変更できるようにしようとしている。「あらゆるウイルスへの抵抗性を持たせ、安全性を確保するのに、十分以上の効果があるでしょう」と彼は言う。

Isaacsは、これとは違った安全保護システムも開発した。大腸菌を、その遺伝子を発現させるのに必要な合成化合物を含む環境でしか成長できないようにしたのだ。彼は2015年1月にNucleic Acids Researchにこの研究を発表している4。ニューヨーク大学ランゴン医療センター(米国)のJef Boekeとエディンバラ大学(英国)のPatrick Yizhi Caiが率いる研究チームは、大腸菌の代わりに酵母で同様の手法を実現しようと取り組んでいる。産業界でもバイオテクノロジー分野でも広く利用されている酵母は、遺伝物質が染色体の中に詰め込まれている点で、細菌よりも動物や植物に近い。

「この手法は、大腸菌以外の生物にも容易に応用できるようになるはずです」とIsaacsは言う。彼のチームは現在、合成化学物質と合成アミノ酸の両方に依存する細菌を作り出そうとしている。「私が考える究極の生物学的封じ込めは、1つの生物に対し同時に複数のアプローチが有効な状態になっていることです」とIsaacs。

Woodrow Wilson International Center for Scholars(研究者のためのウッドロウ・ウィルソン国際センター;米国ワシントンDC)の科学技術イノベーションプログラムの上級研究員Todd Kuikenは、「規制当局は、そうした生物への対応に頭を悩ませることになるでしょう」と言う。「我々は今や、完全に合成された生物について考える段階に来ています。彼らを環境に放出してしまった後に、どうやって評価すればよいのでしょうか?」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Mandell, D. J. et al. Nature 518, 55–60 (2015).

  2. Rovner, A. J. et al. Nature 518, 89–93 (2015).
  3. Lajoie, M. J. et al. Science 342, 357–360(2013).
  4. Gallagher, R. R., Patel, J. R., Interiano, A. L., Rovner, A. J. & Isaacs, F. J. Nucleic Acids Res. 43, 1945–1954 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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