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減数第一分裂の染色体分配の司令塔、MEIKIN

細胞分裂中の姉妹染色体の動きは、氷の上を滑るフィギュアスケーターの動きになぞらえることができる。ほとんどの分裂では、1組のスケーターがリンクの中央部で背中合わせに立っている。音楽が始まると、スケーターはそれぞれ、互いに背を向けたまま反対方向に滑走していき、二度と一緒になることはない。これに対し、卵や精子を作り出すための分裂では、スケーターのペアが2組登場する。2組のペアはそれぞれ、隣に立つパートナーと手をつなぎ、もう1組と背中合わせで立っている。その後ペアはそれぞれ氷の端まで滑っていくが、パートナー間では手をつなぎ合ったままだ。こうした状況で姉妹染色体同士がくっついたまま分離するのを促す機構は長い間謎だった。今回、東京大学のJihye Kimら1は、この過程における哺乳動物の主要な調節因子を初めて特定し、さらにこの分子が関わる経路が酵母からヒトまで進化的に保存されていることを明らかにし、Nature 2015年1月22日号466ページに報告した。

図1:有糸分裂と減数分裂における染色体の方向性
細胞分裂の前には、姉妹染色分体同士が、コヒーシンによって結合している。姉妹染色分体の分配様式は、動原体の向きによって決まる。各染色分体は、動原体が向いている方向にある細胞の極に向かって(図中の矢印)引っ張られる。
a. 有糸分裂では、動原体は姉妹染色分体上で背中合わせ(二方向性)に位置しており、染色分体はそれぞれ反対側の極に引っ張られる。
b. 減数第一分裂では、相同染色体は減数分裂組換えの結果、連結されている。相同染色体の動原体は反対方向を向いているが、姉妹染色分体の動原体は一方向性で、同じ細胞極に引っ張られる。

全く同じ2つの娘細胞を作り出す細胞分裂は、有糸分裂と呼ばれる。有糸分裂では、分裂前に細胞の中の各染色体が複製され、その結果、ヒトでは、父親と母親から1セットずつ受け継いだ23対の「相同」染色体からなる46本の染色体が、92本になる。複製されたそれぞれの染色体は姉妹染色分体と呼ばれ、コヒーシンと呼ばれるタンパク質の複合体によって、染色体腕部沿いに、そしてセントロメアと呼ばれる領域で接着されている。セントロメア上では、動原体と呼ばれるタンパク質構造が背中合わせ(二方向性)に形成される。この時点でコヒーシンが壊され、細胞の各極から伸びる紡錘糸は極側を向いている動原体に結合して姉妹染色分体を引っ張って分離させ、そっくり同じ姉妹染色分体を各娘細胞に分配する(図1a)。動原体が反対方向を向いていることで、分裂後期の姉妹染色分体の分離が容易になっているわけだ。

対照的に減数分裂では、減数第一および第二分裂という2回の分裂によって、同一ではない精子または卵(生殖細胞)が生み出される。減数分裂でも、有糸分裂と同じように染色体が複製され姉妹染色分体が作られるが、相同染色体間では減数分裂組換えとして知られるDNAの交換が起こるため、生殖細胞の染色体は父親と母親からの遺伝物質が混ざり合ったものとなる。有糸分裂のときとは異なり、コヒーシンは、減数第一分裂後期の間もセントロメアで維持されている。姉妹染色体上の動原体は同じ方向を向いており(一方向性)、そのため、同じ極の紡錘糸によって捕らえられて、引っ張られる(図1b)。その後の減数第二分裂における染色体分配は有糸分裂と同じように進行し、形成されつつある生殖細胞に姉妹染色体が分配される。

動原体の一方向性が減数第一分裂で調節される仕組みは、長い間謎のままだった。減数分裂で特異的に動原体の方向性を調節することが分かっているタンパク質は、分裂酵母のMoa1と、出芽酵母のSpo13とMam1のみである。しかし、異なる種から得られたそれらのタンパク質の間には、遺伝的相同性がほとんどないように見えるため2-5、対応する哺乳類のタンパク質を特定するのは困難だった。今回Kimらは、Moa1が、動原体の構成タンパク質であるCnp3と物理的に相互作用するという以前の知見6に基づき、Cnp3のマウスホモログであるCENP-Cの配列を利用して、Moa1に対応する哺乳類の動原体調節因子を釣り上げ、これをMEIKIN(meiosis-specific kinetochore protein;マイキン)と名付けた。MEIKINは、適切な時期に適切な場所、つまり減数第一分裂では動原体に存在するが、減数第二分裂では検知されなかった。

著者らは、マウスでMeikin遺伝子を欠失させると、雌雄どちらでも不妊が引き起こされることを示した。この観察結果は、減数分裂の異常で見られる現象と一致している。さらに彼らは、野生型卵母細胞(卵の前駆細胞)およびMEIKIN欠失卵母細胞を高精度の時空間的分解能で追跡した。その結果、野生型卵母細胞では、第一分裂後期開始直後は姉妹染色分体の動原体が非常に近接したままであるのに対し、MEIKIN欠失卵母細胞では、動原体は一方向性のように見えるものの早期に離れてしまい、姉妹染色体は減数第二分裂後期よりも前に完全に分離することを示した。

これらの結果は、セントロメアでコヒーシンを維持しておくためにはMEIKINが直接または間接的に必要なことを示唆している。あるいは、MEIKIN欠失卵母細胞ではセントロメア間の接着がはじめから弱くなっているのかもしれない。Meikin遺伝子の欠失で見られる現象は、コヒーシン遺伝子の発現が低下している変異体で起こるものと似ており7、このような変異体では減数第二分裂でセントロメアの接着に異常が見られる。MEIKINを減数分裂の特定のステージで不活性化できれば、MEIKINが第一分裂後期にコヒーシンを保護するのか、あるいはそれ以前の過程に関わっているかを明らかにできるだろう。

MEIKINは動原体の一方向性を調節しているのだろうか? そうだとすれば、動原体が、MEIKINが存在しない場合にも一方向性のように見えるのはなぜなのか? 酵母では、染色体が減数分裂組換えによって物理的に結合していると、一方向性の異常を検出しにくくなる場合がある5。しかし、減数分裂組換えが起こらない変異体マウスを用いれば、この問題を回避して動原体の方向性を分析できる。減数分裂組換えが起こらない卵母細胞では、動原体は一方向を向いていて、減数第一分裂で停止してしまうことが多い8。著者らは、そのような卵母細胞でMEIKINを欠失させると、動原体は意外にも二方向性になり、細胞分裂が可能になり得ることを示した。つまりMEIKINは、セントロメアのコヒーシンを保護していただけでなく、動原体の一方向性も促進していたのだ。

MEIKINが動原体の方向性を調節する厳密な仕組みは明らかになっていない。MEIKINタンパク質は、動原体の物理的な結合を助けているのかもしれない。また、未知の「融合タンパク質」を調節することで間接的に動原体の結合を生み出している可能性もある。動原体上のMEIKINの位置から考えると、その調節様式は局所的である可能性が高い。また今回の研究では、MEIKINを欠失させると、減数第一分裂が一貫して数時間遅れるという意外な現象が観察された。この遅延は、二方向性の動原体の数が閾値に達してチェックポイントの条件が満たされるまで、分裂過程を止める必要があることを反映しているのかもしれない。しかし、この過程になぜそれほど長い時間がかかるかは不明である。

今回の研究でMEIKINが持つと示された機能(セントロメアのコヒーシンの維持と、動原体の一方向性)はどちらも、これまで酵素PLK1の機能とされていたものだ9,10。Kimらは今回、MEIKINとPLK1が共同で機能するという証拠を示した。これら2つのタンパク質は物理的に相互作用していて、PLK1を化学的に阻害すると、Meikinの欠失と似た作用が見られるのである。さらに、MEIKINは動原体でのPLK1を正常なレベルに維持していることも分かった。著者らは、この経路が出芽酵母と分裂酵母の両方で保存されていること、そして、MEIKIN、Moa1そしてSpo13は全て、PLK1(または酵母の同等のタンパク質)との結合が考えられる部位を介して作用することを見いだした。音楽が始まったときに、染色体のスケーターたちが一緒に滑り出すか、あるいは分かれていくかを決めるのは、こうした緊密な共同作業のおかげなのだ。

翻訳:古川奈々子、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150428

原文

Hold on and let go
  • Nature (2015-01-22) | DOI: 10.1038/nature14087
  • Kikuë Tachibana-Konwalski
  • Kikuë Tachibana-Konwalskiは、オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所に所属。

参考文献

  1. Kim, J. et al. Nature 517, 466-471 (2015).
  2. Toth, A. et al. Cell 103, 1155-1168 (2000).
  3. Lee, B. H., Kiburz, B. M. & Amon, A. Curr. Biol. 14, 2168-2182 (2004).
  4. Katis, V. L. et al. Curr. Biol. 14, 2183-2196 (2004).
  5. Yokobayashi, S. & Watanabe, Y. Cell 123, 803-817 (2005).
  6. Tanaka, K., Chang, H. L., Kagami, A. & Watanabe, Y. Dev. Cell 17, 334-343 (2009).
  7. Murdoch, B. et al. PLoS Genet. 9, e1003241 (2013).
  8. Woods, L. M. et al. J. Cell Biol. 145, 1395-1406 (1999).
  9. Lee, B. H. & Amon, A. Science 300, 482-486 (2003).
  10. Katis, V. L. et al. Dev. Cell 18, 397-409 (2010).