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重症エボラウイルス感染症のサルを回復させた治療薬

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150126

原文:Nature (2014-10-02) | doi: 10.1038/nature13746 | Ebola therapy protects severely ill monkeys

Thomas W. Geisbert

3種類のモノクローナル抗体を混合した治療薬「ZMapp」で、致死量のエボラウイルスを接種したサルは全て回復した。ZMappは、感染後の治療に用いられたことのある他の薬とは異なり、エボラウイルス感染症が進行した段階にあっても治療効果を発揮した。

図1:エボラウイルス

THOMAS W. GEISBERT

エボラウイルス(図1)やマールブルグウイルスが属するフィロウイルス科のウイルスは、最も致死率の高い病原体で、その致死率は50〜90%にも上る1。その中でも最も致死率が高いエボラウイルスのザイール種に、2014年初め、西アフリカ諸国のギニアで新しい株が出現し2、急速にリベリア、シエラレオネ、およびナイジェリアに広まった。これら各国の当局や国際機関が最善の努力を尽くしているにもかかわらず、当該記事執筆時点では、この感染拡大は収束しておらず、このウイルスの感染者数はフィロウイルスでは過去最悪を記録し、今もなお拡大し続けている。エボラウイルス感染症に対しては、承認薬もなければ、感染後の治療法も確立していない。よって、予防的介入により感染を防ぐことが最も有望であると考えられ、緊急の課題になっている。

今回、カナダ公衆衛生庁(マニトバ州ウィニペグ)のXiangguo Qiuらとマップ・バイオファーマシューティカル社(Mapp Biopharmaceutical;米国カリフォルニア州サンディエゴ)などのメンバーからなる研究チームは、3種類のモノクローナル抗体の混合薬であるZMappの投与により、致死量のエボラウイルスを接種したアカゲザルが完全に回復できたことを、Nature 2014年10月2日号47ページに報告した3。ウイルス感染後5日目にはアカゲザルには重度の症状が現れているが、このときにZMappを投与してもアカゲザルが回復できたという結果は非常に重要である。

1976年にエボラウイルスが発見されてから、感染を克服する治療法の開発が精力的に行われてきた。10年以上に及ぶ研究で、これまで、血液凝固のモジュレーター4,5や、AVI-6002と呼ばれるアンチセンスオリゴヌクレオチド6、および水疱性口内炎ウイルス(VSV)を基盤としたワクチン7が開発され、これらは、エボラウイルス曝露後1時間以内の投与であれば、エボラウイルスに感染したサルの一部を回復に導くことが報告されている。VSVを基盤とするワクチンは、2009年にドイツで実際にヒトに使用された。エボラウイルス感染動物で実験中の研究者が針刺し事故を起こし、その研究者は事故から約48時間後にそのワクチンを投与された8。この研究者は回復したが、エボラウイルスに感染していたかどうか確定できなかったため、このワクチンの効果で回復したのか不明であった。

その後、サルでの実験ではあるが、エボラウイルス感染症から完全に回復できる治療法の開発は進歩している。例えば、小分子「干渉」RNA(TKM-Ebolaとして知られる9)の投与や、さまざまな抗体の併用10-12による治療である。しかし、これらの薬剤は、エボラウイルスへの曝露後2日以内に投与開始されなければ効果が得られない。これらのアプローチはウイルスに曝露された直後の治療に使用できるため、非常に重要ではあるものの、感染後しばらく経ってからでも感染症を治療できるアプローチも必要であり、最重要課題となっていた。

抗体を基盤とする戦略はさらに開発と改良が進み、2013年には「モノクローナル抗体のカクテル」という戦略が生まれた13。臨床症状がはっきり現れるエボラウイルス曝露後5日目までに抗体カクテルの投与を開始するこの戦略では、43%のサルが回復した。また、複数のモノクローナル抗体とインターフェロンα(抗ウイルス応答を促進する)を併用する別の治療戦略では、ウイルス曝露後3日目(臨床症状が現れ始める頃で、ウイルスは検出可能)の投与で、ほぼ全てのマカクザルが回復した14

今回、Qiuらは、インターフェロンαを必要としない抗体カクテル治療薬としてZMappを発表した。ZMappは、2013年に抗体カクテルを発表した2つの研究者グループが手を組んだ共同研究チームによって生み出された「キメラモノクローナル抗体」(ヒトの抗体にマウスのモノクローナル抗体の一部を結合させたもの)で、開発までにさまざまな組み合わせが検討された。最適化されたZMappには、これまでに報告された抗体混合物14に由来する2種類の抗体と、それとは別の抗体カクテル13に由来する1種類の抗体が含まれている。

Qiuらは、ZMappの有効性を調査するために、6頭のアカゲザルからなる3群に致死量のエボラウイルスを接種し、次に、3回にわたりZMappを投与した。第1群には、ウイルス感染後3日目、6日目および9日目に、第2群には、ウイルス感染後4日目、7日目および10日目に、第3群には、ウイルス感染後5日目、8日目および11日目に、ZMappを投与した。驚いたことに、これらのサルは全て生存でき、感染後21日目までにウイルスが検出されなくなった。Qiuらがこの研究を行ったときは、現在西アフリカ諸国で感染が拡大しているザイール・エボラウイルスのギニア株が入手できなかったので、これらの研究にはザイール種のキクウィト株を用いていることに留意すべきであるが、Qiuらは、ZMappが細胞培養系でギニア株の複製も阻害することを示した。

ZMappの開発と、ZMappがエボラウイルス感染症の進行したサルで治療に成功したことは、素晴らしい成果である。この結果に基づき、ZMappは、エボラウイルスの感染拡大時である現状における例外的使用として、数人の患者の治療に使用された15。このうち米国の医療従事者2人は回復したが、今回の感染拡大では、この原稿を書いている時点で、治療を受けなくても約45%の患者が生存している16。よって、ZMappが有効であるかどうか、まだはっきりとした答えは得られていない。2014年8月26日の時点で、ZMapp投与を受けた別の2人の患者は死亡したが、これは投与開始が遅過ぎたためかもしれない。

エボラウイルスやマールブルグウイルスの種や株は多様性に富み、そのことが、あらゆる候補治療の障害になっている。ヒトの致死的疾患は、エボラウイルス属の異なる3つの種(スーダン種、ブンディブギョ種およびザイール種)とマールブルグウイルス属の2つの遺伝的に異なる系統によって引き起こされる。例えば、ZMappはザイール種に有効であるが、抗体カクテルであることから、認識できるウイルス抗原は限定されており、ウイルスの変異や種を超えた変化には対応できないと考えられる。現在の候補治療は抗体カクテルや小分子干渉RNAなどであるため、エボラウイルスのある1種に有効な治療は、おそらく、異なるエボラウイルス種にも、また、ある種内の異なる株にも有効ではないだろう。

フィロウイルス感染症に対する治療の必要性は疑う余地もないが、今後の感染拡大を管理および制御する最も効果的な方法は、予防ワクチンではないだろうか。いくつかの予防ワクチンには、複数の種や株に対する予防効果も見られることが多いからだ。感染拡大過程では、ワクチン単回投与が迅速に行われ、その予防効果が確実であることを保証する必要がある。少なくとも5つの予防ワクチンが、サルにおいてエボラウイルスやマールブルグウイルスの感染を完全に防止することが示されている17。しかし、単回投与後にザイール・エボラウイルスの感染を完全に防止したと報告されているのは、VSVを基盤とするワクチンだけである18

上述した抗体療法や他のいくつかの戦略は、最終的には、今後のエボラウイルスの感染拡大を制御するための介入として予備的に検討されると考えられる。特にZMappは、例外的使用として投与されたが、次に重要なことは、正式にその安全性と有効性を評価することである。臨床試験のために、ヒト被験者に意図的にエボラウイルスを感染させることは不可能であるから、有効性を評価することは明らかに困難であるが、米国の規制当局は、ヒトでの安全性試験と動物での有効性試験を基盤として、ZMappの広範な使用を承認すると考えられている。そして長期的には、ZMappの大量生産には、産業規模でモノクローナル抗体を作製するインフラへの投資が必要である。もちろん、これは生産費を支払うための財政的支援を受けることが可能である、と仮定しての話である。

(翻訳:三谷祐貴子)

Thomas W. Geisbertは、テキサス大学医学部ガルベストン校(米国)に所属。

参考文献

  1. Feldmann, H., Sanchez, A. & Geisbert, T. W. in Fields Virology 6th edn (eds Knipe, D. M. & Howley, P. M.) 923–956 (Lippincott Williams & Wilkins, 2013).
  2. Baize, S. et al. N. Engl. J. Med. http://dx.doi. org/10.1056/NEJMoa1404505 (2014).
  3. Qiu, X. et al. Nature 514, 47–53 (2014).
  4. Geisbert, T. W. et al. Lancet 362, 1953–1958 (2003).
  5. Hensley, L. E. et al. J. Infect. Dis. 196 (Suppl. 2), S390–S399 (2007).
  6. Warren, T. K. et al. Nature Med. 16, 991–994 (2010).
  7. Feldmann, H. et al. PLoS Pathog. 3, e2 (2007).
  8. Günther, S. et al. J. Infect. Dis. 204 (Suppl. 3), S785–S790 (2011).
  9. Geisbert, T. W. et al. Lancet 375, 1896–1905 (2010).
  10. Dye, J. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 5034–5039 (2012).
  11. Olinger, G. G. Jr et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 18030–18035 (2012).
  12. Qiu, X. et al. Sci. Transl. Med. 4, 138ra81 (2012).
  13. Pettitt, J. et al. Sci. Transl. Med. 5, 199ra113 (2013).
  14. Qiu, X. et al. Sci. Transl. Med. 5, 207ra143 (2013).
  15. Check Hayden, E. & Reardon, S. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature.2014.15698 (2014).
  16. www.afro.who.int/en/clusters-a-programmes/dpc/epidemic-a-pandemic-alert-and-response/outbreak-news/4260-ebola-virus-disease-west-africa-22-august-2014.html
  17. Marzi, A. & Feldmann, H. Expert Rev. Vaccines 13, 521–531 (2014).
  18. Reported at the Filovirus Medical Countermeasure Workshop, 22–23 August 2013; https://respond.niaid.nih.gov/conferences/mcmworkshop/Pages/default.aspx

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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