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地球の呼吸を探る、NASAの炭素観測衛星OCO-2

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140908

原文:Nature (2014-06-26) | doi: 10.1038/510451a | NASA carbon-monitoring orbiter readies for launch

Lauren Morello

7月に打ち上げられたNASAの軌道上炭素観測衛星OCO-2は、これまでになく高い精度で温室効果ガスの排出源と吸収源のマッピングを行う。

光合成の際に放出されるクロロフィル蛍光を衛星イメージングで捉えたもの。穀物の生産量の多い米国中西部が強調されている。

NASA GODDARD SPACE FLIGHT CENTER

全てが計画どおりにいけば、NASA(米国ワシントンD.C.)は2014年7月1日に炭素観測衛星を打ち上げる予定である。これが成功すればNASAにとって最初の炭素観測衛星になるが、実は5年前に同種の衛星の打ち上げに失敗しているので、打ち上げ自体は2回目だ(訳註:7月1日の打ち上げは発射台のトラブルのため直前になって延期されたが、翌2日に無事に打ち上げられた)。

4億6500万ドル(約470億円)を投じて開発されたOCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2;軌道上炭素観測衛星2)は、地球大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の正確な高分解能測定を行うための人工衛星である。NASAは、温室効果ガス(人為的要因によるものと自然要因によるものの両方)の排出源と吸収源の詳細な地図を作るための炭素観測衛星「OCO」を2009年に打ち上げたが、軌道投入に失敗して墜落し、科学者たちを落胆させた。OCO-2の構造は、そのOCOとほとんど同じである。

OCO-2が軌道に到達すると、搭載されている分光計が高層大気から地表までの気柱のサンプリングを行う。衛星は毎日数十万回の測定を行い、地球全体を16日ごとに観測することができる。OCO-2は、地球大気中のCO2を宇宙から観測する衛星としては最初のものではない。

OCO-2の観測視野は約3km2で(つまり、地表の約3km2の区域の上空にある気柱のサンプリングを行う)、2009年に打ち上げられて同様の観測を行っている日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse Gases Observing Satellite;GOSAT)の観測視野が85km2であることを考えると、非常に狭いことが分かる。だが、すでに運用されている同種の衛星よりも高い分解能で観測を行うことができる。

NASAジェット推進研究所(米国カリフォルニア州パサデナ)でOCO-2の副プロジェクトサイエンティストを務めるAnnmarie Elderingは、このように圧倒的に高い分解能を持つOCO-2は、熱帯地方など雲の多い地域のCO2濃度をより正確に測定することを可能にする、と説明する。OCO-2が森林や海洋などの天然の大きなCO2排出源や吸収源の上空を通る際に、無秩序に広がる都市圏や大規模な発電所から排出されるCO2さえ検出できるのではないかと期待する科学者もいる。

カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の大気科学者で、OCO-2 のデータの質を確かめるために利用される「地上観測ステーション」のネットワーク作りに協力したPaul Wennbergは、「ロサンゼルスなどの巨大都市圏がはっきり見えるようになるはずです」と言う。地上での観測により、ロサンゼルスとその近郊から排出されるCO2が低層大気にたまる日にはパサデナ上空のCO2濃度がわずかに上昇することが知られており、彼は、衛星がこの観測結果を裏付けることを期待している。

アリゾナ州立大学(米国テンピー)の炭素生物地球化学者Kevin Gurneyは、こうしたデータを地上での観測データや化石燃料消費量の明細表と組み合わせれば、温室効果ガスの排出源を突き止めるのに大いに役立つかもしれないと考えている。「政策立案者と話をするとき、『都市全体の状態が1つの数字で表されるのは大変結構なのですが、我々が知りたいのは、何がCO2を排出しているかということなのです』と言われることが多いからです」とGurney。

OCO-2は、光合成をする植物が放出する弱い蛍光を測定することにより、植物による炭素の取り込みも詳細に観測する。植物が光合成をする際には、クロロフィルという色素が太陽光を吸収してエネルギーを取り出し、より長い波長の光子を再放出するが、この蛍光を測定するのだ。研究者らはすでに、日本の「いぶき」と欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT) のMetOp-A衛星に搭載されたGOME-2(Global Ozone Monitoring Experiment-2;全球オゾン観測実験2)という観測装置からのデータを使ってこの手法を試し、驚くべき結果を得ている。2014年4月に発表されたGOME-2のデータの分析結果から、現在の炭素循環モデルでは光合成によるCO2吸収量の最大値を過小評価しており、インド、中国、アフリカのサヘル地方の一部では50~75%、世界のトウモロコシの40%以上を生産する米国中西部の「コーンベルト」地帯でも40~60%少なく見積もられていることが示唆されたのだ(L.Guanter et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111,E1327-E1333;2014)。

「その結果が意味するところは明らかでした」と、NASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の大気物理学者で、この論文の共著者であるJoanna Joinerは言う。Joinerは植物のクロロフィル蛍光を宇宙から観測する手法の開発に協力し、OCO-2を利用した測定への強い意欲を示す。OCO-2の観測視野は小さいため、欧州のように細かく区切られた地域でも植物からの蛍光シグナルを検出できるようになると期待される。「いぶき」やGOME-2による分析が、北米の針葉樹林やアマゾンの熱帯雨林や米国のコーンベルトのような広大な地域に限られていたのとは対照的である。

OCO-2の運用期間は、予定ではわずか2年とされているが、NASAはこの衛星に10~12年間は稼働できる燃料を搭載している。NASAは現在、OCO-2の後継機となる炭素観測衛星として、ASCENDS(Active Sensing of CO2 Emissions over Nights, Days and Seasons;夜間・昼間・季節間CO2 排出量能動センシング)ミッションの開発を進めている。ASCENDS衛星に搭載される多周波数レーザーは、あらゆる季節に、夜間でも、高緯度地方でも、大気中のCO2濃度を測定することを可能にする。「いぶき」 やOCO-2の分光計は、CO2の特徴的な吸収シグナルを検出するために太陽光を必要とするため、このような観測はできない(「CO2の排出に目を光らせる」参照)。現在、日本も欧州も次世代炭素観測衛星を開発中だ。

NASAは2017年に国際宇宙ステーション(ISS)にOCO-2の測定装置と同じもの(もともとは予備として製作されたもの)を設置したいと考えている。その費用は約1億2000万ドル(約120億円)だ。OCO-2が太陽同期軌道をとり、午後の早い時刻に観測地点の上空を通過するのに対して、ISSは低軌道をとるため、これに搭載される分光計(OCO-3と呼ばれている)はOCO-2とは異なる時刻にデータを収集することができる。Wennbergは、こうした測定結果をOCO-2のデータと組み合わせることで、植物の光合成や大都市圏のラッシュアワーの影響によるCO2排出量の時間変動を検出できるかもしれないという。

OCO-3の計画は2014年3月に打撃を受けた。米国のオバマ大統領が発表したNASAの予算案に、炭素観測プロジェクトのための予算が含まれていなかったのだ。けれどもNASAは、資金が確保できればOCO-3プロジェクトを復活させることは可能だという。NASAのOCO-2プログラム・エグゼクティブであるBetsy Edwardsは、「私たちはOCO-3プロジェクトを再開できることを願っています。いつでもプロジェクトに戻れる態勢になっています」と話す。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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