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明確になった地球温暖化と水の危機

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140408

原文:Nature (2014-01-02) | doi: 10.1038/505010a | Water risk as world warms

Quirin Schiermeier

気候変動が地球全体に及ぼす影響を検証する初の包括的かつ国際的なプロジェクト「ISI-MIP」が始動し、最初の結果が報告された。そこから、主要な懸念は水の危機であることがはっきり見えてきた。

Credit: THINKSTOCK

気候変動ポツダム研究所(ドイツ)の所長であるHans Joachim Schellnhuberは、気候変動の影響を研究する最善の方法は何かと考えをめぐらせているとき、しばしばヒンズー教の古い寓話を思い出す。探究心に富む6人の盲目の男たちが、ゾウがどのような動物であるかを知ろうとする話で、1人はゾウのどっしりした脇腹を手で探り、他の5人はそれぞれ牙、鼻、膝、耳、尾に触れてみるが、結局、6人全員がゾウのことを完全に誤解してしまうのだ。

この寓話は、気候変動研究の現状をうまく言い表している。これまで多くの研究者が地球温暖化という「ゾウ」のさまざまな側面を取り上げてモデルを作ってきたが、地球温暖化が人間社会や生存に不可欠な天然資源にどのような影響を及ぼすかを包括的に評価する研究は行われてこなかった。けれどもそんな状況は、Schellnhuberをはじめとするこの分野の主だった研究者が2013年に気候変動影響評価モデルの相互比較を行う国際的なプロジェクトInter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project(ISI-MIP;イージーミップ)を立ち上げたことで変わりつつある。

このプロジェクトは、気候変動がもたらす地球全体への影響を共通の想定に基づいて分野横断的に評価し、報告書を作成することを目標としており、モデル同士を直接比較するための初めての取り組みである。日本からは国立環境研究所、東京大学が参加している。2013年12月、ISI-MIPは最初の成果としてProceedings of the National Academy of Sciencesに4本の論文を発表した1-4。これらの報告から、ほんの小さな気候変動でさえ、数十億人の生活状況に水や食料の不足、異常気象に起因する甚大な影響を及ぼす恐れがあることが示唆された。

研究グループによれば、最も心配なのは「水」だという。世界の気温は2100年までに現在のレベルより2℃上昇することは避けられないと現時点では考えられており、その場合、世界人口の5分の1が深刻な水不足に苦しむことになるとされている。

「気候変動にはさまざまな側面がありますが、中でも、水と、水に依存する全てのものに関する問題は、気候変動の象徴とも言えるものです。後者は食料生産から公衆衛生まで広範にわたっていますから、これらがどんなに切迫した問題であるか理解は容易でしょう」とSchellnhuberは説明する。

温暖化した地球が人類にどのような影響を及ぼすかを評価するため、世界12カ国の30の研究グループが、温室効果ガスの放出に関する共通のシナリオを用いて数千回のシミュレーションを行った。彼らは、地球全体の水文モデルのセットと5つの最新の気候モデルから、将来の水利用を推定した1。ここで用いた気候モデルは、気温と降水量の変化に関する推定を、各地の水循環や河川の流出量や人口などの変数に関するデータと結びつけたものである。

複数のモデルを用いた評価から、将来特に大きな影響を受けると予想される地域では、すでに人口の増加によって水の危機が進行しており、気候変動によってこの問題が大幅に悪化することが示唆された。気候モデル研究者らのシミュレーション結果では、気候変動により引き起こされる水の蒸発量、降水量、河川の流出量の変化に伴い、年間500m3未満の水で暮らさなければならない人数が全世界で40%増加することが示された。年間500m3という量は、「絶対的な水不足」状態かどうかの境界の値とされている(ちなみに、年間1000m3を下回ると「慢性的な水不足」とされる)。

モデル間の差は大きく、世界の水不足の地域は倍増すると予測するモデルもあれば、変化は小さいだろうと予測するモデルもあった。それにもかかわらず、地球の気候が今日のレベルから何℃か高くなったときのシミュレーションを行うと、どのモデルでも、2℃だけ温暖化したときの影響が最も大きいという結果になった。

ストックホルム大学(スウェーデン)の水資源の専門家で、ストックホルム大学レジリアンスセンターの所長であるJohan Rockströmは、今回の比較プロジェクトには曖昧なところもあるものの、気候リスクの分析は格段に強固なものになるだろうと話す。ちなみに、彼はこのプロジェクトに関与していない。

またRockströmは、気候変動の影響に関するモデルから、都市や海岸線を環境の変化に耐えられるようにするための具体的な指針を与えられるほどの詳細な情報を得ることは不可能と言いつつも、「変化への備えが不十分な地域や国が直面する深刻な問題の一次近似にはなるはずです」と説明する。

水不足の危険が最も大きい地域は、米国南部、地中海沿岸地域、中東である。これに対して、インド、熱帯アフリカ、北半球の高緯度地域は、地球温暖化により降水量が増えると予想されている。

水利用の変化は、水に依存する他の領域に波及効果を及ぼす。気候変動に対する作物の応答をモデル化したグループは、多くの農業地域において、主要な作物の収穫量に負の影響が出ることを見いだした2

また、干ばつリスクを検討したチームの報告によると、南米、西欧、中欧、中央アフリカ、オーストラリアの一部の地域では、干ばつの回数が増え、より深刻なものになることが示された3。一方、洪水リスクの予測はこれほど明確ではないものの、地球全体の水文モデルと地表モデルに基づく川の流れのシミュレーションから、世界の半分以上の地域で洪水リスクが上昇することが示された4

シミュレーションから得られた知見には不確実なところもあるが、わずかな温暖化であっても、自然、社会、経済に深刻な混乱を引き起こす恐れがあることを「はっきりと警告している」とRockströmは言う。彼は、我々が直面している問題は、国内の不安定化や移住につながるものだと指摘し、最も貧しい国々が世界の食糧市場にアクセスしやすくなるよう国際貿易のあり方を再考する必要があると主張する。

Schellnhuberもまた、シミュレーションに不確実な要素があることは、この状況を傍観する理由にはならないと指摘する。「行く手に待ち受ける危険がどんなものか明らかになってから引き返えせばいいと言う人もいますが、気候変動は見た目以上に危険なギャンブルであることを思い出すべきです。厳密なオッズはまだ分かりませんが、私たちが大負けする可能性は、多くの人が考えるよりはるかに高い可能性があるのです」とSchellnhuberは話す。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Schewe, J. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1222460110(2013).
  2. Rosenzweig, C. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1222463110(2013).
  3. Prudhomme, C. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1222473110(2013).
  4. Dankers, R. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1302078110(2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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