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海王星サイズの太陽系外惑星に水を発見

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141226

原文:Nature (2014-09-25) | doi: 10.1038/513493a | Window on a watery world

Eliza M. R. Kempton

海王星ほどの大きさの太陽系外惑星の大気にも水(水蒸気)が存在することを示す決定的証拠が、初めて得られた。さらに小さい、地球ほどの大きさで水が存在する惑星の探索への扉が開かれた。

太陽系外惑星の大気成分の観測は、木星サイズの巨大な系外惑星については進んでいるものの、それよりもずっと小さい海王星サイズの系外惑星(海王星の直径は地球の約4倍)については壁にぶつかっていた。近年、最先端の望遠鏡と観測装置を駆使した観測が試みられ、こうした惑星の大気に不透明な雲や光を散乱するもやの層があり、その下に広がる世界の観測を妨げているらしいことが分かってきた1-4。メリーランド大学カレッジパーク校(米国)のJonathan Fraineらは今回、ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡を使って海王星サイズの系外惑星HAT-P-11bを観測し、その大気には光をさえぎるような雲がなく、豊富な水素とともに水蒸気も存在するという明白な証拠をつかみ、この結果をNature2014年9月25日号526ページで報告した5

系外惑星の多くが雲に覆われているとしても、さほど不思議ではない。というのも、地球のふわふわした水蒸気の雲、土星の最大の衛星タイタンの炭化水素のもや、木星のアンモニア化合物と水でできた層状の雲など、太陽系のほとんどの大型天体の空は雲に覆われているからである。これらの雲はそれ自体が興味深いが、天文学者にとっては必ずしも好ましい存在ではない。理由は簡単だ。厚い雲の層はまるで毛布のように惑星を包み込み、その下にある惑星大気、さらには(存在すれば)惑星表面をも覆い隠してしまうからだ。金星が地球のすぐ隣という近距離に位置しているにもかかわらず、その表面についての知識が1970年代までほとんど何も得られていなかったのは、まさにこの理由からだった。金星は濃硫酸の厚い雲に覆われており、旧ソ連のベネラ計画で一連の探査機がこの雲の層を物理的に貫いて降下し、観測画像を地球に送り届けてくるまで、我々はその表面を見ることができなかったのである6

同様に、系外惑星研究においても光を通さない雲の存在は障害となる。だが金星とは異なり、系外惑星の場合は距離が遠く離れ過ぎているため、探査機を送り込んで直接雲の下を観測するというわけにはいかない。そのため天文学者たちは、気体の種類によって吸収される光の波長が異なるという事実を利用し、分光学的方法で系外惑星の大気組成を決定しようとしている。つまり、惑星が親星の前を通過する際に、惑星大気の透過スペクトルを観測して、その吸収パターンから気体の種類を同定するのである(図1)。しかし、惑星大気に厚い雲が存在すると、親星からの光がそこでさえぎられてしまうため、透過スペクトルに吸収パターンは現れず、大気の組成を容易に決定することはできない(図2)。これまでに、海王星サイズもしくはそれより小さい4つの系外惑星について、それらが親星の前を通過する際の透過スペクトルが観測されたが、吸収パターンは見つからず1-4、その原因として雲の存在が疑われている。ところが今回、そうした惑星観測の5例目としてFraineらが、はくちょう座方向に約124光年離れた所にある系外惑星HAT-P-11bを観測したところ、これまでとは明らかに異なる結果が得られた。水蒸気の存在を示す極めて明瞭な吸収パターンが見つかったのだ。Fraineらはその吸収強度から、HAT-P-11bの大気組成は太陽系の巨大惑星のものとさほど変わらないと結論した。すなわち、大部分は水素だが、水蒸気の形で存在する酸素など、水素より重い原子を微量に含んだ大気組成である。

図1:晴れた大気を持つ海王星サイズの惑星が、親星の前を通過する様子(想像図)

NASA/JPL-Caltech

図2:大気組成の検出を妨げる雲
a 太陽系外惑星の大気に厚い雲があると、親星からの光がさえぎられてしまうため、その透過スペクトルは吸収パターンのない平坦なものになる。
b 厚い雲のない大気では親星の光がさえぎられることなく大気中を通過するため、そこに存在する水などの分子が特定の波長の光を吸収して、透過スペクトルに特徴的なパターンが現れる。こうした吸収パターンから大気の分子組成を推定することができる。

HAT-P-11bの大気中の水蒸気を確実に検出した今回の成果は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている最新鋭のカメラ「広視野カメラ3(WFC3)」によってもたらされた。このカメラは、2009年に行われたハッブル宇宙望遠鏡の最後の修理ミッションで設置され、運用を開始した。驚異的な測定精度を誇るWFC3は、次世代の宇宙望遠鏡で得られるデータがどのようなものであるかを垣間見せてくれる。親星の前を通過する系外惑星の大気中から水蒸気吸収パターンを見いだすのは、灯台の強烈な灯火の前を横切る小さな昆虫を探すようなものだが、WFC3ではそんな微小な分子吸収パターンの検出も可能だ。装置の安定性が非常に優れているため、目的のパターンを隠してしまう可能性のある偽信号を紛れ込ませることがないからである。米航空宇宙局(NASA)は、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2018年に「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の打ち上げを計画しており、この新宇宙望遠鏡にもWFC3と同等の感度を持つ観測装置が搭載されることになっている。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡のものよりも大きいため、Fraineらが今回検出した信号よりもさらに弱い信号の検出が可能になると期待されている。この新宇宙望遠鏡を使えば、惑星が光をさえぎるような雲を持たない場合に限られるものの、海王星よりも小さな惑星の大気でも分子吸収の観測ができるはずだ。

今回、HAT-P-11bの大気中に水蒸気が検出されたことで、系外惑星の研究者たちは安堵のため息を漏らした。比較的小型の系外惑星でも光をさえぎる厚い雲がないものがあるという発見は、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使う今後の観測にとっては良い知らせだからだ。それでも、観測に適した天体を特定するには、まだまだすべきことがたくさん残っている。かねてから、HAT-P-11bのような海王星サイズで親星に近い軌道を持つ惑星の大気には水蒸気が見つかるはずだ、と予想されていた。しかし、そうした惑星の大気の分子吸収を観測する試みは相次いで失敗に終わっており、「HAT-P-11bの大気には水蒸気の検出を妨げるほどの雲はない」という発見こそが、今回の結果がもたらした驚きだったのである。

海王星サイズの他の系外惑星の大気には雲が存在するが、HAT-P-11bには雲がない、という発見は、いくつかの新たな疑問を生む。海王星サイズの系外惑星には、果たしてどれぐらいの割合で雲があるのだろうか? 雲がある惑星で雲形成の原因となっている物理過程はどういったものだろうか? こうした疑問を解明していけば、雲に覆われていない惑星を効率的に特定する道がおのずと見えてくるだろう。そのためにはまず、雲のない晴れ渡った大気という「窓」を持つ惑星を見つけ、それを調べることだ。そうすれば将来的に、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やさらにその先の計画で、海王星よりも小さな惑星、そしてさらには地球サイズの惑星でも、水やその他の分子の探索が可能になるだろう。

(翻訳:新庄直樹)

Eliza M. R. Kemptonは、グリネル大学(米国アイオワ州)に所属。

参考文献

  1. Knutson, H. A. et al. Nature 505, 66–68 (2014).
  2. Kreidberg, L. et al. Nature 505, 69–72 (2014).
  3. Knutson, H. A. et al. http://arXiv.org/abs/1403.4602 (2014).
  4. Ehrenreich, D. et al. http://arXiv.org/abs/1405.1056 (2014).
  5. Fraine, J. et al. Nature 513, 526–529 (2014).
  6. Florensky, C. P. et al. Proc. 8th Lunar and Planetary Sci. Conf. 2655–2664 (1977).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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