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月最大の平原はクレーターではなかった

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141203

原文:Nature (2014-10-01) | doi: 10.1038/nature.2014.16041 | Moon’s largest plain is not an impact crater

Elizabeth Gibny

月探査機の重力測定結果によると、月の「嵐の大洋」は衝突クレーターではなく、地殻の収縮でできた谷で縁取られた平原とみられることが分かった。

月の地球側にある、裸眼で見える暗い平原「嵐の大洋」の周囲には、重力異常をもたらす隠れた構造が地表下に存在する(赤色)。この重力異常から、大昔にできた谷の存在が明らかになったが、谷の描く線はクレーターの縁のように丸くない。

Kopernik Observatory/NASA/Colorado School of Mines/MIT/JPL/Goddard Space Flight Center

月の地球側(表側)には、「嵐の大洋」と呼ばれる広大な平原がある(日本では餅をつくウサギに例えられる暗い部分の一部)。凝固した溶岩でできていて、その直径は約3200kmに及ぶ。嵐の大洋はこれまで、数十億年前に月に小惑星が衝突したためにできた「巨大なクレーター」と考えられていたが、今回、新たな説が浮上した。

今回、月の重力分布の測定結果から地表下の地殻の様子が明らかになり、嵐の大洋の縁は直線状で、それがところどころで交わり、全体では長方形のようになっていることが分かった。小惑星の衝突によるクレーターなら、もっと丸い縁ができるはずで、このような形の領域の成因を小惑星衝突と考えることは難しい。真の成因は、月の地殻内部で起こった地質学的活動である可能性が考えられる。

今回の研究結果は、2012年末に計画が終了した米航空宇宙局(NASA)の 月探査機「GRAIL」(Gravity Recovery and Interior Laboratory)の観測データをもとに、GRAILの科学者チームの一員であるコロラド鉱山大学(米国コロラド州ゴールデン)の惑星科学者Jeffrey Andrews-Hannaらが明らかにした。この結果は、Nature 2014年10月2日号に報告された1

GRAILの2機の月探査機は、上空から月の重力場を測定し、地殻の密度と形状の変化を調べた。GRAILによって測定された重力場の分布図から、嵐の大洋の平原の玄武岩でできた地表下に、重力異常をもたらす構造が埋まっているのが見つかった。Andrews-Hannaらは、この重力異常が月の地殻が引き伸ばされて薄くなった「谷」によるもので、この谷が嵐の大洋の縁だと結論した。こうした谷は地溝(裂谷)と呼ばれ、地球ではプレートが互いに離れていくときに生じる。今回見つかった月の地溝は、その後溶岩流で満たされ、現在の姿に至った。

「この発見は予想外でした。大規模な地溝は、地球、金星、火星にはありますが、月では見つかっていませんでした」とAndrews-Hannaは話す。

嵐の大洋は、高度が低く、ウラン、トリウム、カリウムなどの元素を平均以上に含むなど組成が独特であり、表面地形の一部がクレーターの縁の名残のように見えることから、これまで科学者たちはこの平原を「衝突盆地」と考えてきた。それに対し、Andrews-Hannaらは今回、嵐の大洋の縁の新たな成因を提案している。この地域は放射性元素の濃度が高く、放射性元素の崩壊熱によって周囲よりも温度が高かったが、崩壊熱の減少により冷える速度も速かった、と彼らは考えている(nature news 2013年11月7日オンライン版「月の裏側がクレーターに覆われている理由が重力地図から判明〈Gravity maps reveal why the dark side of the Moon is covered in craters〉」を参照)。そして、この地域が冷えて収縮するとき、その端にある地殻は引き伸ばされ、長方形を描く谷ができたという。「このプロセスは、泥の水たまりが乾くときに周囲にできる割れ目に似ています」とAndrews-Hannaは説明する。

彼はまた、「このパターンは、土星の衛星エンケラドスにあるパターンととてもよく似ています。地球の衛星と土星の衛星では多くの相違点がありますが、同様の物理過程が起こったのかもしれません」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Andrews-Hanna, J. C. et al. Nature 514, 68–71 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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