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宇宙に飛び出した3Dプリンター

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2014.141214

原文:Nature (2014-09-11) | doi: 10.1038/513156a | NASA to send 3D printer into space

Alexandra Witze

NASAは、宇宙で部品や道具を製作できる3Dプリンターの開発に取り組んでいる。

放物線飛行により微小重力状態を作り出す改造飛行機「ボミットコメット」内で3Dプリンターの動作をテストする技術者たち

MADE IN SPACE

NASA(米国航空宇宙局)は、宇宙でのものづくりへの「小さな一歩」として、国際宇宙ステーション(ISS)に3Dプリンターを送り込んだ。宇宙飛行士は、電子レンジほどの大きさの箱の中で、ほとんどどんな形のプラスチック製品でも作れるようになるだろう。壊れた部品と交換するための部品をすみやかに作れるようになるだけでなく、宇宙で思いついた便利な道具を製作することも可能になるかもしれない。

3Dプリンターを積み込んだ無人宇宙船は、9月21日に打ち上げられ、同23日に無事にISSに到着した。NASAが3Dプリンターを宇宙に送るのはこれが初めてだが、3D印刷は、高速かつ安価な製作手段として、地上での部品作りにすでに取り入れられている。次世代の重量物打ち上げロケットに搭載するロケットエンジンの部品なども3Dプリンターで製作されていて、現在、こうした部品の評価試験が行われている。NASAは、この新しい技術により、未来の宇宙飛行士がその場で宇宙船の部品を作れるようになることを期待している。

一方で、宇宙開発の専門家は「3D印刷が有望な技術であることは確かだが、現実離れした期待が寄せられているようだ」と指摘する。全米研究評議会(米国ワシントンD.C.)が最近発表した宇宙での3D印刷に関する報告書(go.nature.com/j65mq参照)の作成に携わった同評議会の上級プログラムオフィサーのDwayne Dayは、「宇宙ファンは、3D印刷を魔法の技術のように思っているところがあります。魔法の杖を振り、呪文を唱えて3Dプリンターを呼び出せば、後は勝手に月面基地を建設してくれるとでもいうように」と批判的だ。彼は3D印刷について「実際は、まだ発展途上で、はるかに広範な基盤技術の重要な一要素にすぎない」と言う。

NASAが選んだ3Dプリンターは、NASAのエイムズ研究センター(米国カリフォルニア州モフェットフィールド)の隣に位置するテクノロジーパークにあるメイドインスペース社(Made In Space)が開発したものだ。3Dプリンターは、宇宙ステーションに置かれている間、温度が225~250℃になったときに成形可能になる感熱性プラスチックからさまざまな物体を作ることになっている。チームが最初に印刷しようと考えている物体については教えてもらうことはできなかったが、一般的に考えると、宇宙ステーションで使う道具を作るものと予想される。「宇宙船で壊れる可能性のある部品が300種類あるとして、その300種類の部品全ての予備を持っていく必要がなくなるかもしれないのです」とDayは言う。

メイドインスペース社の3Dプリンターは、微小重力状態での性能も試験過程にある。3Dプリンターは、材料を1層ずつ吹き付けていくことにより3D物体を完成させるが、微小重力環境では、吹き付けられた材料を下に引きつける力が働かないからだ。

実際、放物線飛行により無重量に近い環境を作り出すことができる飛行機、通称「ボミットコメット(vomit comet)」を使って3Dプリンターの稼働試験を行ったところ、飛行機が微小重力状態に入ったり出たりを繰り返す中で、印刷される材料の厚みにかなりのばらつきが生じてしまうことが分かった。そこで、メイドインスペース社の研究チームは、層の厚みがだいたい同じになるようにプリンターを改造した。

熱に関する問題が出てくる可能性もある。微小重力状態では、熱は通常とは異なる流れ方をするため、材料のプラスチックが部分的に熱くなり過ぎたり冷たくなり過ぎたりして、うまく印刷できない恐れがあるのだ。同社の研究開発部門を率いるMichael Snyderは、「3Dプリンターが宇宙でも問題なく機能するのか、あるいは何らかの問題を抱えているのか、現時点では分かりません。私たちは、未来の機械の設計に関わる重大な事実を学ぼうとしているのです」と言う。

メイドインスペース社は、今回の宇宙飛行で得られた知見に基づいて改良を加えた第2の3Dプリンターを、2015年、再び宇宙ステーションに送り込む予定である。プリンターの性能を評価するため、今度は製作した部品を地球に送り返し、地上で製作した部品と同じように機能するかどうかを検証する。少なくとも宇宙飛行士が保管庫から取ってくる予備の部品と同等でなければ、宇宙で部品を製作する意味はないに等しい、とDayは断言する。製作時間の問題もある。メイドインスペース社の3Dプリンターは通常20分から2時間で印刷を行うが、状況の緊急性によってはそれでは遅過ぎるかもしれない。

NASAは、地上ではすでに3D印刷技術(「付加製造技術」とも呼ばれる)により時間と費用を節約する方法を見いだしている。NASAのマーシャル宇宙飛行センター(米国アラバマ州ハンツビル)の技術者たちは、3D印刷した液体燃料ロケットエンジンの部品がきちんと機能するかどうかを試験中である。最近のあるプロジェクトでは、30万ドル(約3300万円)もするロケットエンジンインジェクターという金属部品を3D印刷することで、製造コストを少なくとも80%削減した。近いうちに予定されているもう1つの試験では、ロケットエンジンの心臓部である燃料ターボポンプという、さらに複雑な部品の3D印刷の評価を行う。同センターの技術者Nick Caseは、「付加製造技術を用いる意味のあるところで利用していくつもりです」と言う。

ロッキード・マーチン・スペースシステム社(米国コロラド州リトルトン)の技術者Slade Gardnerは、3D印刷技術を用いることで、設計者は従来の宇宙船にはなかった形を作り出せるようになると言う。「研究開発の道のりは長く、3D印刷で何でもできるというわけでもありません。けれども、真の長期的な目標があります。それは、デザイン革命を起こすことです」と彼は語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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