インターフェロンは両刃の剣
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1980年代前半に後天性免疫不全症候群(AIDS)が流行したことで、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者へのインターフェロン(IFN)治療について、多くの研究グループから報告がなされた。IFNは、ウイルス感染時に感染細胞から分泌されるサイトカインで、ウイルス増殖の抑制や免疫系の調節を行う作用を持ち、現在、主にウイルス性肝炎や多発性硬化症の治療に用いられている。これらの報告に基づく当時の総説1によれば、IFNによる治療に「AIDSの原因となる免疫異常に対する有益な効果の証拠」があるのか依然としてはっきりせず、また、HIV誘発性の免疫抑制が進行した多くの患者のIFN値は、全ての症例でIFN投与前にすでに上昇していた、と結論付けられた。しかし今回、国立衛生研究所(米国メリーランド州べセスダ)のNetanya G. Sandlerら2が、HIV感染とIFNについての興味深い知見を、Nature 2014年7月31日号601ページに報告した。彼らは、アカゲザルでの実験で、IFNα2a(図1)をサル免疫不全ウイルス(SIV)曝露前に投与するとウイルスの全身感染が防止されたこと、また、このサルにIFN受容体拮抗薬を投与すると重篤な感染症が引き起こされたこと、そしてIFN投与が長期にわたると有害な影響が見られることを示したのだ。
では、Sandlerらの研究において、IFNの有益な効果を仲介する真の因子は何なのだろうか? IFN応答が始まると、数百個の遺伝子の発現が誘導される3。しかし、ほとんどではないにしても、IFNによって誘導される多くの因子については、その役割、特異性共に分かっていない。IFN誘導性の因子の中にはHIV/SIVを選択的に標的とするものがあり、これらは一般的に「制限因子」と呼ばれている4。制限因子のおかげで、ヒトには他の生物種からのレトロウイルスが伝播しない。しかしヒトの制限因子は、チンパンジーからのSIVの伝播を防止できない。このことから、HIVは、SIVがヒトに種間伝播した結果生じたウイルスと考えられている。残念なことに、ヒトにおけるHIV株と自然宿主におけるSIV株は、制限因子を回避する機構を発達させてきた。従って、Sandlerらが観察したSIVに対するIFN投与の有益な効果はおそらく、IFN応答の別の側面か、もしくはSIVに対し一般的あるいは特異的に作用するのに十分な抗ウイルス活性を保持する「未知のIFN誘導性因子」による結果であると考えられる。しかし、こうした説明では、「AIDS治療戦略に対するヒトの応答の理解」という目的を十分に果たしているとはいえない。
Sandlerらの知見2は、SIVあるいはHIVの感染時にインターフェロン(IFN)を実験的に投与した場合に観察される効果と、SIVあるいはHIVの自然感染時の内因性IFN応答の効果の間に、急性および慢性の両方の段階で、多くの類似点があるというこれまでの証拠4,5,7-9,12と合致している。
SIV感染初期のIFN投与が、全身感染に対する宿主抵抗性を増加させるという知見は、非ヒト霊長類における研究から得られたこれまでのデータを補強するものであり、また、ヒトにおけるIFN投与の有効性を示すこれまでの報告とも合致する(図2)。HIV感染者5と、HIVとC型肝炎ウイルス両方の感染者6にIFNを投与すると、血液中のHIVウイルス量はある程度減少することも報告されている。従って、SandlerらによるSIV感染に対するIFN長期投与の効果の評価は、理論的な流れといえる。
Sandlerらの研究では、プラセボとの比較において、IFNを感染初期に投与すると有益な効果が見られた。だがその投与をさらに継続すると、感染感受性の増加、CD4+ T細胞(SIV/HIVの感染の標的となる免疫細胞で、感染により細胞死が引き起こされる)の大幅な減少、およびIFN誘導性遺伝子の発現低下が観察された。
Sandlerらは、感染初期での投与と長期間に及ぶ投与ではその応答に矛盾が見られる理由について、IFNに対する中和抗体が産生されたためではなく、IFN脱感作状態が誘導されたためであることを実証した。興味深いことに、IFNの誘導が繰り返されることで細胞がIFN不応性になることがこれまでの研究でも示されている7。また、HIV感染の慢性期におけるIFN誘導性遺伝子の発現上昇という異常なIFN応答の持続が、ウイルス量の増大や疾患の悪化と関連する、という報告もある8,9。従って、IFNの長期投与とIFN誘導性遺伝子の持続的な発現上昇はいずれも、HIV/SIV慢性感染の転帰不良と関連していると考えられる。
HIV感染の慢性期にはIFN抵抗性は生じないと考えられているが、最近のデータでは逆の可能性が示唆されている10。さらに、宿主がウイルスを除去できない場合は、IFNシグナル伝達の持続が免疫抑制経路を誘導して慢性感染に伴う炎症を制限する11ことに対して懸念が高まっている。こうした応答は、宿主が病原体の量にかかわらず感染時に生じる生体への負の影響を減少させようとする「寛容」の概念であるとされる12。寛容は、自然宿主では非病原性SIV感染時に観察されることが多い。例えば、真猿類のスーティマンガベイのSIV感染では、感染初期にはウイルス量は多く、IFN誘導性遺伝子の広範な発現上昇が観察されるが、病的状態の発現は最小限に抑えられており、感染の初期段階を過ぎるとIFN応答は正常化される9。残念ながらHIV感染では、宿主にとって最適な状態となるウイルス量、病的状態およびIFNの条件を目にすることはめったにない。ヒトではHIV感染の際に寛容が見られることはほとんどなく13、大抵の場合、進行性の免疫抑制が見られるのである。
総合すると、SIVの実験的感染における計画的なIFN投与の効果と、HIV/SIVの自然感染における内因性IFN応答の結果には、多くの類似点がある(図1)。Sandlerらの研究は、IFN投与のタイミングと投与期間の重要性を強調するとともに、感染時のIFNシグナル伝達経路への介入の正確な理解が困難であることも浮き彫りにしている。
自然免疫応答はいまだ未知の分野であり14、IFN応答においても、真のエフェクター分子群や、そうしたエフェクター分子の病原体の侵入開始時の役割、また個々のエフェクター分子の急性および慢性疾患での作用について、現在も分かっていないため、IFN経路を標的とした治療のためには、IFN応答の詳細な解明が欠かせない。ただ、IFNが誘導する複雑な抗ウイルス応答は、HIV治療においては決定的な効果が見られないことから、「多芸は無芸」ということわざに例えられるようなものである可能性も考えられる。
翻訳:三谷祐貴子
Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2014.141027
原文
The mixed blessing of interferon- Nature (2014-07-31) | DOI: 10.1038/nature13517
- Amalio Telenti
- Amalio Telentiはローザンヌ大学(スイス)に所属。
参考文献
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