論文の内容を再現・再確認できるようにする新方針
この1年、Natureは、掲載論文の信頼性と再現性について、さまざまな問題を指摘する記事を掲載してきた(go.nature.com/huhbyr)。問題は実験室で起こっている。しかし、Natureのような論文誌が研究結果を十分にチェックしなかった場合、あるいは、結果を第三者が評価する際に必要な情報を十分に掲載していなかった場合、問題は、論文誌自身にはね返ってくることになる。
Natureと姉妹誌はこの問題と正面から向き合い、生命科学論文における研究報告の一貫性と品質を高めるため、2013年5月から新しい編集方針を導入する。読者が研究結果を容易に解釈できるように、また結果の信頼性がより高まるように、カギとなる「研究の方法論」が、より詳細に記載されるよう変更する。また、データをまとめたり解釈したりする際の基本である「統計手法」についても、きちんと表現されるよう改革する。さらに、生データの記述を加えるなどして、透明性を高めるよう著者に促していく。
新方針の中核となるのが投稿のチェックリストだ(go.nature.com/oloeip)。これを通して、技術情報や統計情報を開示するよう著者に促し、査読者に対しては、研究の再現性にとって重要な問題点を検討するよう要請することになる。このチェックリストは、米国立衛生研究所が開催したワークショップ(2012年)などにおいて、研究結果を再現不可能にする諸問題について研究者と議論を重ね、その結果として作成されたものだ。ここにはNatureと姉妹誌の編集経験も反映されている。
ただし、このリストはすべてを網羅したものではない。むしろ、研究結果の解釈にとって非常に重要であるにもかかわらず、これまで十分には報告されてこなかった実験と解析に関する部分に、光を当てている。例えば、偏りを生じさせたり確かさに影響を与えたりする方法論的パラメータについては、きちんと説明する必要がある。また、細胞株や抗体など生物学的な違いを生じやすい研究対象については、厳密にその特徴を抽出する作業(キャラクタリゼーション)が必要で、それは著者の義務だ。
Natureとしては、これまで以上に、統計について正確な記述を求める。一部については、編集者の判断と査読者の意見に基づいて、統計学者をコンサルタントに任命することもある。
実験的研究が単一の方法では行えないことは十分に認識している。また、探索的研究と仮説検証研究では、統計学的厳密さが異なるのは当然だ。さらに、実験室で得られた知見を臨床応用する場合、必要なレベルの検証手段を持つ大学の研究室が少ないことも承知している。そうしたことが研究発展の障害となってしまっては本末転倒だ。研究の計画、実施、結果分析に関して十分な報告がなされ、査読者と読者が研究結果を十分に解釈し、次なる研究が展開されなくてはならない。
したがって、Natureをはじめとする参加論文誌は、著者が自らの実験計画と実験方法に関して、必要に応じていくらでも詳細に記述できるよう、Methodsの項目に対する文字数制限を撤廃する。さらに、透明性を高めるため、グラフや図のもとになった数字データを提供するよう推奨する。Natureには特定の実験とその大型データについて、データ寄託の仕組みがあり、これはそれを一歩進めたものだ。またNatureは、プロトコルをProtocol Exchangeに寄託して(www.nature.com/protocolexchange)、方法と試薬の内容に関する詳細な情報を著者間で共有するよう促し続ける。
成果の再現性と研究の透明性について、関係者が再認識してくれたとしたら一歩前進だ。これらの底には、はるかに大きな問題が横たわっており、論文誌だけで解決できるものではない。統計学や定量的な観点について、十分な教育を受けている生物学者は非常に少ない。論文発表と助成金獲得への圧力が高まり続け、新たな成果が過去の結果と整合するのか矛盾するのか調べるような動機はほとんど働かない。すでに発表された研究報告の妥当性や非再現性について論文を書いても、論文誌からも研究助成機関からも歓迎されないのだ。
こうした問題への取り組みは、長期間にわたる可能性が高い。研究の再現性を向上させるため、Natureの新方針を支持していただきたい。
翻訳:菊川要
Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2013.130735
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