Author Interview

新しい有機化合物の超伝導物質を発見!

山成 悠介氏

2010年3月4日掲載

5つのベンゼン環が連なった物質「ピセン」をアルカリ金属のカリウムでドーピング*した有機化合物が、絶対温度18K(-255℃)で超伝導状態になることを岡山大理学部付属界面化学研究施設の久保園芳博教授らが発見し、Nature 2010年3月4日号に発表した。これは、有機化合物としてはこれまでで最も高い転移温度だ。この有機化合物の生成から、超伝導現象の確認などを担ったのが同大大学院の学生、山成悠介さんである。修士1年で初めてNature 掲載論文に名を連ねた山成さんに、研究の苦労話、今後の展望などについて聞いた。

*ドーピング:物性を変化させるため少量注入すること。

―― 新しい高温超伝導物質の発見が続いていますが、今回はこれまでの物質とは異なる芳香族化合物で初めての超伝導物質の発見となりました。超伝導研究の中の位置付けを簡単に説明してください。

ピセン
ピセン
ピセンの構造式
ピセンの構造式

山成氏: 超伝導物質には、「金属系」、「銅酸化物系」、「鉄酸化物系」のほか「有機化合物」があります。超伝導物質の存在が確認されるきっかけとなったのが金属系物質。1911年にオランダの物理学者カメリン・オンネスが水銀を約4K(-269℃)まで冷やしたときに、電気抵抗がゼロになることを発見しました。銅酸化物系は、1986年、ドイツのベドノルツとミュラーが、ランタン、バリウムを含む銅酸化物系のセラミックスが30Kで超伝導状態になると報告したのが始まりです。電気抵抗がゼロになる温度「臨界温度」(転移温度、Tc)が高かったことから、高温超伝導研究ブームの火付け役となりました。

2006年、東京工業大学の細野秀雄教授らのグループが、鉄を含む化合物(LaFePO;オキシニクタイド)が6Kで超伝導物質になると発表しました。この鉄酸化物超伝導体の登場は、手詰まり感があった高温超伝導に新たな息を吹き込みました。というのも、磁性元素の鉄を含む物質は超伝導にはならない、という常識を覆すものだったからです。オキシニクタイドは、世界中で今、注目されている物質です。

一方、金属ではない有機化合物系では、1991年、米国ベル研究所のグループが、炭素原子が60個連なるサッカーボール状の構造をもった「C60」(フラーレン)に金属をドーピングした物質が、18Kで電気抵抗がゼロになることを発見しました。同じ年、NEC基礎研究所のグループは、C60にルビジウム、セシウムを注入した「RbCs2C60」で臨界温度が、常温で33Kまで高められることを確認しました。その後、高圧下で、「Cs3C60」が40Kまで高くなることもわかってきたのです。ほかにグラファイトなどの超伝導物質も報告されています。

我々の研究室では、Cs3C60が常温では超伝導現象がみられないのに、なぜ高圧下で超伝導現象が起こるのか、他のフラーレンと異なる性質の解明を進めると同時に、新たな有機超伝導体を模索していました。その中で出てきたのが、化学合成が比較的簡単な「ピセン」(C22H14)です。ピセンは、ベンゼン環が5つ連なった簡易な構造で、電子デバイスとして使えると思っていたところに、思わぬ超伝導現象が見つかったのです。

山成さんと三田村さん
三田村 洋希さん(左)と山城さん(右)

―― 山成さんは、どのように研究にかかわったのですか。

山成氏: 私は、久保園教授と共同研究を進めている岡山大大学院自然科学研究科の神戸高志准教授の研究室に所属しています。最初にピセンの超伝導体として可能性を見つけたのは、当時久保園研究室の4年生だった三橋了爾さんです。2008年の10月ごろでした。その後、三橋さんが研究室を去ることになり、私がピセンにカリウムをドーピングする担当に抜てきされ、久保園研究室の大学院修士課程の三田村洋希さんと共同で研究を進めてきました。岡山大の岡本秀毅准教授らが合成したピセンの純度を高めるための昇華精製、さらにカリウムをどのくらい注入すれば、超伝導が最も起こりやすいのか地道に確かめ実験を行いました。

具体的には、アルゴンガスの入ったチューブの中にピセンとカリウムを閉じ込め、それを電気炉にかけて反応させます。ピセン1モルに対し、カリウムを1~6モルと濃度をいろいろ変えて反応させ、できた試料(Kxpicene)で超伝導現象がみられるのかチェックしていったわけです。超伝導現象は、電気抵抗がゼロになると同時に、物質内部の磁力線が排除されるので、温度を下げていったときに試料の磁化率が反転(反磁性)します。この現象を確認するため磁気測定装置(SQUID)を使いました。試料は数百本以上作りましたが、カリウムを3モル前後注入したピセン(K3picene)のときが、最も超伝導現象になりやすいことがわかりました。おもしろいことに、超伝導現象が起こる臨界温度には7Kと18Kと2相ありました。どこが違うのかわからないことが多いのですが、カリウムのほんのさじ加減でこういう現象が起きているようです。

―― おもしろい現象ですね。確認は大変な作業だったでしょう。

山成氏:7Kで試料が超伝導現象を生じる体積の割合は、最初は低かったのですが、徐々に上がり現在では15%を超えています。18Kで超伝導現象を生じる試料はまだ低く1.2%程度です。それぞれ電子の状態密度をみるため、電子スピン共鳴(ESR)の磁化を測定しました。超伝導転移温度7K、18Kの2相の電子の状態密度は明らかに異なっており、この電子の状態密度の差がTcの違いをもたらしていると考えられます。結晶構造も違いがあると考えていますが、それがどう作用しているかわからないことが少なくありません。ただ、双方が共存することや2相の間を転移することはないようです。

確かに、試料作製、ドーピングの作業は大変な作業でした。当初ピセンの合成は難しく、量が少なかったので、ピセン10mgに対しカリウム5mgというように、ごく微量の試料を適切に扱わなくてはなりませんでした。でもその後、ピセンが購入できるようになり、ピセンも25mgと量を増やすことができるようになって、扱いが格段に楽になりました。

精神的につらかったのは、昨年春、Nature に最初の論文を出した後です。ピセンの結晶構造の確定、超伝導の再現性などについて追実験を求められ、その答えを出すよう休日返上で、夜も徹夜して2~3か月間、実験に明け暮れました。その後も、レフリーとやりとりがありましたが、ある程度結果を出せ、今年1月後半に掲載が決まった時は、苦労が報われたと感じられ、本当にうれしかったです。

―― 初めてのNature 論文掲載はいかがですか?

山成氏:反響の大きさに驚いています。昨年秋に続き、今年の春も学会で発表しましたが、本当に注目され、手応えを感じました。親も喜んでくれましたね。実験はおもしろい。偶然やちょっとした操作の違いで結果が左右されるということを痛感しました。ただ今回は結果的にうまくいきましたが、実際の研究はうまくいくことばかりではないということも肝に銘じています。
有機超伝導体は、他の金属系の超伝導体と異なり、至る所に材料があるという「ユビキタス」が強みです。これを励みに、もっと臨界温度の高い物質を釣り上げたいと思います。

―― この分野に進むきっかけは?

山成氏:「ものづくり」がしたくて理系に進みました。学部では、フラーレンC60に希土類元素のユウロピウムを加えて、価数転移などの物性を調べていました。4年生の研究室配属時に、神戸先生が新しく研究室を開くことになり、いろんなことができる、新しいことができると選んだわけです。もともと超伝導に興味をもっていましたが、研究室が進める有機超伝導体の研究に携わることができ、本当に幸運だと思っています。新しいものを開拓していくというやりがい、社会に役立つ研究成果にかかわれたという満足感はあります。

今後、他の研究者もピセンを使ったさまざまな物質でドーピングする研究が加速していくと思います。我々もピセンにカルシウムやルビジウムをドーピングする研究を進めています。そのほかにピセンに代わる、芳香族化合物ペンタセンも超伝導体になる可能性があります。平面的なピセンと異なり、ペンタセンは三次元の立体構造なので興味深い結果がでると思っています。

―― 今後はどうされますか? また後輩へのメッセージをお願いします。

山成氏:競争の激しい分野ですが、我々の研究チームは今、フロントランナーになっていると思います。とりあえずは修士論文執筆に向け、研究を進めたいと思っています。博士課程に進もうとも考えましたが、応用に近いものづくりにかかわりたいと思い、ある企業の研究職の内定をとることができました。約2か月の就職活動で決まり、これも先生方の指導と研究を通じて得た経験、そしてNature に論文が掲載されたおかげだと思っています。
後輩には、自分の興味ある、最先端の研究テーマを選び、新しいことを発見するという気概をもって取り組んで欲しいと思います。自分も未熟ですが、これからも新しい発見にかかわれるよう頑張っていきたいと思います。

聞き手 長谷川聖治(読売新聞科学部記者)。

Nature 2009年6月25日号

Letter:アルカリ金属をドープしたピセンにおける超伝導

Superconductivity in alkali-metal-doped picene

Nature 464, 76-79 (4 March 2010) | doi:10.1038/nature08859

Author Profile

山成 悠介

山成氏

岡山大学大学院
数理物理科学専攻

2002年4月 兵庫県立伊川谷北高等学校 入学
2005年3月 兵庫県立伊川谷北高等学校 卒業
2005年4月 岡山大学理学部物理学科 入学
2009年3月 岡山大学理学部物理学科 卒業
2009年4月 岡山大学大学院自然科学研究科博士前期課程数理物理科学専攻入学
2年在籍
現在に至る

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