1918年から1919年にかけてのスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザの大流行では、2,000万人が死亡し、その数はそれに先立つ4年間の戦争の死者をはるかに上回った。以来、このインフルエンザウイルス株が異常に毒性の強いものになった原因を解明しようと研究が続けられてきたが、今回その成果の1つが発表された。河岡義裕たちは、ウイルスが作る物質で、細胞へのウイルスの侵入と感染に重要なかかわりをもつ赤血球凝集素(HA)について研究している。1918〜19年の世界的な流行時の生体物質中に残っているウイルスの遺伝情報を使って再構成したHAを、マウスに対する病原性をもたない最近のヒトインフルエンザウイルス株に組みこむと、この株がマウスに対する病原性を獲得した。しかもこの強毒性組換えウイルスは、肺全体に感染して炎症反応と出血を引き起こす。これは当時の流行で見られた特徴的な症状なのである。
2004年10月7日号の Nature ハイライト
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