Nature ハイライト

物理:粒子が逆向きに動く仕組み

Nature 440, 7084

小刻みにランダムな運動をしている小さい粒子は、「非対称ポテンシャル」中、すなわちある一定方向のものだけがほかの方向のものよりも急な上り坂を次々と越える状況におかれると、特定の方向にゆっくり移動しだすことがわかっている。そしてこれにより、生細胞内部で一部の分子が特定の方向を選んで移動する理由が説明されるかもしれないと考えられている。V Moshchalkovたちは、特定の環境の下では、このような粒子がなだらかな斜面よりも急な斜面を選ぶことがあるのを明らかにしている。これは一見したところ直感に反する結果である。  ランダムな運動から方向性のある運動が生じる仕組みを最も簡単に理解する方法としては、平行なのこぎり歯の形をした尾根が続く表面上を粒子が運動する状況を考えてみればよい。粒子はおそらく、尾根のよりなだらかな斜面を登って頂上に現れると考えられ、急勾配の坂を登るようなことはしないだろう。そうすると、粒子は平均して、なだらかな勾配の方向に徐々に移動することになる。これは、ある方向への移動が容易でほかの方向への移動が困難だというある種のラチェット運動とみなせる。  Moshchalkovたちは、このような「ラチェット地形」上を運動する粒子が複数存在し、粒子が互いに反発し合えば、こうした相互作用により、場合によっては選択される方向が反転することがあることを明らかにしている。さらに奇妙なことに、粒子の数が増えると、選択される方向は最初はあちら、次はこちらというように切り替えられ、それが繰り返される。  今回の報告によると、超伝導体に開いた非対称な穴の列を通って運動する渦糸、すなわち渦になった電流の実験で起こるのが、まさにこの現象であるという。著者たちは、方向性が粒子濃度に依存するこの性質が一部の生物系で使われているかもしれないと考えている。

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