Nature ハイライト
構造生物学:細胞の環境が核膜孔複合体の構造を決める
Nature 598, 7882
核膜孔複合体(NPC)は、核膜(NE)を横切って核と細胞質との間で積み荷を輸送するための太い管を形成する。この数十メガダルトンにもなる複合体は約30種類の異なるヌクレオポリンで構成されており、それらが中央の輸送チャネルの周りに3つの主要な基礎構造(内側の環、細胞質側の環、核質側の環)を作っている。今回我々は、クライオ集束イオンビームミリングを用いて調製したDLD-1細胞でクライオ電子線トモグラフィーを行い、ヒトNPCの本来の環境における構造モデルを作製した。その結果、精製したNEから得られたこれまでのヒトNPCの構造モデルと比較して、我々のモデルでは内側の環がかなり大きいこと、すなわち、中央のチャネルの体積が75%大きく、核質側の環と細胞質側の環の構造もそれぞれ異なっていることが明らかになった。さらに、内側の環複合体の周囲では、NPC膜が非対称になっていることも分かった。細胞質側の環と核質側の環の足場となるヌクレオポリンであるNup96を標的として分解することにより、中央のチャネルの調節や膜の非対称性の維持においてそれぞれの環が相互に依存していることが明らかになった。これらの知見から、NPCが本質的に柔軟性を備えていることが明確になり、NPCの大きさや構造に細胞の環境がかなり大きな影響を及ぼしていることが示唆される。
2021年10月28日号の Nature ハイライト
物性物理学:強相関励起子絶縁体
エネルギー科学:高速イオン輸送のためのセルロースの分子操作
エネルギーインフラ:ソーラーパネルを探す
古海洋学:210万年前に強化されたインド洋循環
生態学:植物による過去の降水の利用
生理学:電気鍼治療の神経解剖学的機構
神経科学:報酬消費の調節におけるオピオイド系の役割
免疫学:宿主–微生物相の相互作用に対して腸の分泌型IgAが担う機能的役割
免疫療法:がん免疫療法への代謝マイクロバイオームの連携
ウイルス学:VEEVの構造について得られた新たな知見
構造生物学:発生ホルモンによるシグナル伝達のスナップショット