Nature ハイライト

微生物学:微生物相を介した腸の修復

Nature 586, 7827

腸上皮細胞(IEC)の遺伝子発現は、微生物相由来の代謝物である酪酸[ヒストンデアセチラーゼ3(HDAC3)の活性を阻害する]など、環境からの多数のシグナルによって調節されている。これまでの研究から、腸内微生物相がフィターゼを産生し、この酵素が食餌中のフィチン酸を代謝してイノシトールリン酸を産生することが明らかになっている。今回T Alenghatたちは、in vitroと腸オルガノイドにおいて、微生物相が産生したイノシトール1,4,5-トリスリン酸(InsP3)がIECで内因性HDAC3活性を上昇させることを示している。酪酸産生菌とは対照的に、無菌マウスに片利共生細菌である大腸菌(Escherichia coli)を単独で定着させるだけで、IECでHDAC3活性を誘導するのに十分であり、フィターゼ欠失株を使うとこの効果は低下した。デキストランで誘発した大腸炎マウスモデルでは、InsP3の投与によって腸の損傷後の回復が改善した。また、炎症性腸疾患の患者の腸では、フィチン酸の量が著しく低下していた。さらに、InsP3はヒト大腸オルガノイド(colonoids)の成長を促進することが実証され、これらから、フィチン酸と微生物由来のInsP3は腸損傷の回復に役割を果たしていると考えられる。

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