短尾鳥類はジュラ紀に出現していた
1861年、ドイツ・バイエルン州の石灰岩採石場でリトグラフ用の石版を割り出していた作業員たちは、ある奇妙な骨格化石に出くわした。それは、羽毛と翼があることから明らかに鳥だったが、長い尾と鋭い爪は爬虫類を連想させた。
「始祖鳥(Archaeopteryx)」と名付けられたこの化石は、現代の鳥類が太古の恐竜類から進化したという斬新な説を生み出した。2年前に『種の起源』を出版したばかりのチャールズ・ダーウィンは、鳥類と恐竜類の特徴を併せ持つこの鳥を、自らの「自然選択による進化論」を支持するものとして歓迎した。また、1億5000万年前という年代は、ジュラ紀末には鳥類が既に空を飛んでいたことを証明するものだった。当時の古生物学者らは、これに続いて他にもジュラ紀の鳥類が見つかると期待したが、残念ながらそうした発見はほとんどなかった。そんな中、福建省地質調査研究院(中国)の陳潤生(Runsheng Chen)と中国科学院古脊椎動物古人類学研究所(北京)の王敏(Min Wang)らはこのたび、明確に鳥類に分類されたものとしては既知2例目となるジュラ紀の鳥類を発見し、Nature 2025年2月13日号441ページで報告した1。
この新属新種「Baminornis zhenghensis」は、手のひらに収まるほど小型で、体重も約140〜300 gと非常に軽かったと推定される。学名は、化石の発見地である中国福建省政和(Zhenghe)県にちなんでいる。Baminornisは、主に泥岩と頁岩からなる南園(Nanyuan)累層の、年代が約1億5000万~1億4800万年前(後期ジュラ紀チトニアン期)とされる層準で発見された。この化石産地からは、他にも注目度の高い新種の化石が複数発見されており、これらの化石は「政和動物相」と総称される。まだ部分的な発掘調査しか行われていないが、出土した化石は既に100点を超え、その多くは保存状態が極めて良好だ。大半は魚類やカメ類といった水生や半水生の動物だが、1年余り前には、長い後肢が特徴的な小型獣脚類の骨格が発見された。フジアンヴェナトル(Fujianvenator prodigiosus)と名付けられたこの新属新種は、系統解析の結果、非鳥類型獣脚類恐竜に近いアンキオルニス類に分類された2。一方、今回のBaminornisは、始祖鳥よりやや現代の鳥類に近い。これは、後期ジュラ紀に、鳥群(中生代の鳥類)の羽ばたき飛行を進化させた系統3が、より原始的な系統と共存していたことを意味する。
今回のBaminornisは実に画期的な発見で、始祖鳥以降に発見された化石鳥類の中でも、極めて重要なものの1つに位置付けられる(図1)。始祖鳥の骨格化石は、現在では計14点が知られているが、それらが全て同じ種のものかどうかについては議論がある4。とはいえ、一連の化石はいずれも原始的な鳥類のもので、翼は比較的小さく、顎には歯が並び、前肢には物をつかむことのできる指と鋭い爪があった。始祖鳥は、おそらく飛べたがその能力はさほど優れてはいなかったと考えられている5。古生物学者のジョン・オストロム(John Ostrom)はかつて、始祖鳥の骨格は基本的には一般的な小型の肉食恐竜のもので、それに翼があるだけだと表現した6が、これは言い得て妙である。
図1 鳥類進化の解明に寄与した重要な化石の年表
恐竜類は約2億3100万年前に初めて出現し、その後多様化を遂げ、約1億7000万年前には、物をつかむことのできる手(前肢)を持つ恐竜(マニラプトル類)が進化した。マニラプトル類は鳥類の祖先とされる。これまで、ジュラ紀の羽毛恐竜で明確に鳥類に分類されていたのは、1億5000万年前の始祖鳥(Archaeopteryx)だけで、その尾は非鳥類型恐竜と同様に長かった。陳と王ら1は今回、1億5000万~1億4800万年前の地層で別のジュラ紀の鳥類Baminornis zhenghensisを発見したことを報告した。Baminornisには、短い尾など、現生鳥類が持ついくつかの特徴が見られる。短尾鳥類の最古の記録はこれまで、1億3100万~1億2000万年前のものだった。現代的な鳥類は6800万~6600万年前に出現し始め、6600万年前に小惑星の衝突で非鳥類型の恐竜類が絶滅した後に繁栄した。
ジュラ紀の羽毛恐竜としては他にも、少数ながらアンキオルニス類やスカンソリオプテリクス類などが発見されているが、それらの分類には議論がある。一部の系統解析研究がそれらを鳥群に含めている一方、多くの研究はそれらを後のヴェロキラプトルのようないわゆる「ラプトル」系の非鳥類型獣脚類恐竜(ドロマエオサウルス類)に分類しているからだ7。鳥群かどうかは別として、アンキオルニス類もスカンソリオプテリクス類も原始的な飛行動物であり、尾の短縮や強く羽ばたくための肩帯の発達など、現生鳥類に見られる飛行に関連した重要な適応の多くを欠いていた。
だがBaminornisは違う。ある2つの点で始祖鳥よりも現生の鳥類に近いのである。まず、Baminornisには非鳥類型獣脚類恐竜や始祖鳥に見られるような長い尾がなく、代わりに複数の尾椎が癒合した太く短い「尾端骨」と呼ばれる塊がある。尾端骨は現生鳥類の特徴の1つで、その周りの肉の突起は鶏肉では「ぼんじり」部位として知られる。尾端骨は、飛行に重要となる尾羽の固定、(尾が長い場合と比べた)抗力の減少、翼に向けた重心の前方への移動など、鳥類の飛行の空気力学において複数の機能を持つ。
次に、Baminornisの肩帯には肩甲骨と烏口骨の分離が見られ、烏口骨は支柱のような形状に変化していた。これは、羽ばたき飛行のための特別な筋肉構造や前肢の動作に関連する適応だ。これらの解剖学的特徴は、Baminornisの飛行能力が始祖鳥だけでなく、後の白亜紀に出現した別の原始的な鳥類の能力さえ上回っていた可能性を示している。
とはいえ、Baminornisの飛行能力は、現代のツバメやアホウドリのものには遠く及ばなかっただろう。現生鳥類には翼を羽ばたかせる大きな筋肉があり、それらは巨大な胸骨にしっかり付着しているのに対し、Baminornisに胸骨はなく、飛行筋のサイズや骨への付着状況についてはいずれも不明だ。また、その「手」は祖先的な非鳥類型獣脚類恐竜であるマニラプトル類(ドロマエオサウルス類を含む分類群)のものに似ていて、3本の指はそれぞれ複数の指骨からなり、現代の鳥類に見られるような初列風切羽を付着する固く癒合した構造とは異なっていた。Baminornisの羽毛は保存されていないため、翼の構造やサイズは分かっていない。
これらを総合すると、Baminornisの飛行能力や飛行様式についてはまだまだ疑問が残る。さらに、尾端骨は一部の非鳥類型獣脚類恐竜でも独立して複数回進化しているため8、その存在がすなわちBaminornisの優れた飛行能力を意味するとは限らない。最終的に、Baminornisの飛行をよりよく知るには、厳密な生体力学モデル化と仮説検証が必要で、それは今後の研究で明らかになるだろう。
いずれにせよ、今回の化石は、鳥類が進化の初期においてこれまで考えられていたよりもはるかに多様だったことを示す決定的な証拠である。ジュラ紀には、始祖鳥に似た長い尾を持つ鳥やBaminornisのような短い尾の鳥、そしてBaminornisと同じ累層で発見された1点の興味深い叉骨(飛行中にエネルギーを蓄えるバネとして働く癒合した鎖骨)の化石が示唆する強力な羽ばたき飛行を行う鳥など、多様な鳥類が、ブロントサウルスやステゴサウルスといった恐竜類の頭上を飛んでいたと考えられる。繊細な骨格を見事に保存しているこうした希少な地層には、さらに多くの化石が眠っているに違いない。これからも探索を続けるとしよう。
翻訳:小林盛方
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250542
原文
The lost long tail of early bird evolution- Nature (2025-02-12) | DOI: 10.1038/d41586-024-04212-5
- Stephen L. Brusatte
- エディンバラ大学(英国)に所属
参考文献
- Chen, R. et al. Nature 638, 441–448 (2025).
- Xu, L. et al. Nature 621, 336–343 (2023).
- Pei, R. et al. Curr. Biol. 30, 4033–4046 (2020).
- Foth, C. & Rauhut, O. W. M. BMC Evol. Biol. 17, 236 (2017).
- Voeten, D. F. A. E. et al. Nature Commun. 9, 923 (2018).
- Ostrom, J. H. Nature 242, 136 (1973).
- Brusatte, S. L., Lloyd, G. T., Wang, S. C. & Norell, M. A. Curr. Biol. 24, 2386–2392 (2014).
- Wang, W. & O’Connor, J. K. Vertebrata PalAsiatica 55, 289–314 (2017).
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