留学生の人数制限に頭を抱える大学
いくつかの国では、政府が留学生のビザを制限している。 Credit: Chu Chen/Xinhua via Alamy
一部の国では、移民法(入国管理法)によって留学生の人数が制限され、大学は窮地に陥っている。英国、カナダ、オーストラリアなどの大学では、国境規制によって留学生の入学者数が大幅に減少したために、予算が縮小し、国際的な評判が下落し、国際的な科学への貢献が難しくなっているという。
2024年11月に発表された66の国と地域にわたる365の大学を対象とした調査では、うち41%が2023年に比べて2024年の大学院生の入学者数が減少したと報告し、31%が学部生数が減少したと報告した。大学側は、こうした減少の主な原因は、政府による制限やビザ取得の難しさにあるとしている。
教育選択プラットフォームのスタディーポータルズ社(Studyportals、オランダ・アイントホーフェン)が主導した今回の調査によると、平均減少幅が最も大きかったのは英国とカナダであった。英国では、大学院生の入学者数が18%、学部生の入学者数が4%減少した。英国政府は2024年に、移民法を厳格化し、技能労働者ビザの給与基準の引き上げ、学部生の学生ビザ申請からの家族の除外、ビザ発行費用の引き上げなどを行っていた。
カナダでは、大学院生の入学者数が27%、学部生の入学者数が30%減少した。これらの減少は、政府が2024年1月に留学生数に上限を設けたことによるものである。さらに同年9月、カナダ政府は、この上限を2025年はさらに10%引き下げて43万7000人とし、対象を修士および博士課程の学生にまで広げると発表した。カナダ政府は、こうした制限は、軟化する労働市場においてカナダ人労働者を優先的に雇用し、留学生を確実に支援するのに役立つとしている。
100校近くの大学を代表するカナダ大学協会(オタワ)で会長を務めるGabriel Millerは、留学生の受け入れ制限は国の評判を傷つけたと言う。この措置は大学にとって「持続不可能な財政赤字の爆発的増加」を意味すると、彼は言う。
地球の裏側でも
オーストラリアも留学生に制限を課している。例えば、同国政府は2024年中に留学生ビザの取得費用を引き上げ、英語の能力に関する要件を厳格化した。こうした措置によって留学生数が減少したという指摘もある。
オーストラリア政府は2025年から大学の留学生数に上限を設けることを計画していたが、この政策は議会で十分な支持を得ることができなかった。同国教育省の広報担当者によると、この政策は留学生数をより持続可能な水準に戻し、全ての学生が安全で安心な住居を確保できるよう助け、「国際教育における不正と公正性の問題に対処する」ために考案されたものだという。
研究者らは、留学生数を減らせば、既存の研究資金問題がさらに悪化することになるだろうと言う。過去10年間にわたる政府支出の減少が、競争的助成金の獲得率を過去最低にまで押し下げたのだ。オーストラリア科学アカデミー(キャンベラ)の会長であるChennupati Jagadishは、「科学研究に対する資金配分システムは脆弱で破綻しています」と述べる。
2022年、オーストラリアにある42の大学のうち27の大学が財政赤字を計上し、既に人員削減を発表した大学もある。シドニー大学(オーストラリア)の研究担当副学長を退任したEmma Johnstonは、「まだ破綻していないところも含めて、オーストラリア全土の大学が財政難に陥るでしょう」と言う。
重要な問題の1つは、施設の運営費や学術誌の購読料などの大学が負担する間接的な費用に対して、政府がほとんど予算を割いていないことである。大学はその不足分を、主に留学生が納める学費で補っている。
アデレード大学(オーストラリア)の副学長であるPeter Højは、学生の受け入れ枠が縮小すれば、大学は質の高い研究に資金を投じられなくなると言う。「これこそが、現在直面している解決困難な状況なのです」。
財布のひもを締める
大学は既に、留学生からの収入が減少することに備えて対策を講じ始めている。Højは、現実面では、空いたポストの補充は行われないだろうと言う。Johnstonは、最も大きな打撃を受けるのはおそらく若手研究者だろうと言う。
クイーンズランド工科大学(オーストラリア・ブリスベン)の副学長のMargaret Sheilは、リスクの高い、より投機的な分野の研究者も影響を受けるだろうと言う。こうした研究者は、大学自体から研究資金を得ていることが多いためだ。
「産業界との共同研究に対する資金は増えています」と、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)の研究・事業担当副学長であるBronwyn Foxは述べる。同大学は、こうした研究に対する資金確保に特に成功している。「私たちは、より少ない資金でより多くのことを行う創造的な方法を見つけなければならなくなるでしょう」と彼女は言う。
影響は?
カナダでは、大学はまだ留学生数制限の影響を測っている途中だが、いくつかの数値が出始めているとMillerは言う。
2024年11月、オンタリオ州大学協議会は、2024年から2026年にかけての同州内の損失は9億カナダドル(約963億円)に上ると予測したが、同年9月に発表された制限の対象拡大の影響により、この損失はさらに拡大する見込みである。
「カナダの状況は、今回導入された留学生数の制限というなまくら刀のような政策にも十分注意を払う必要があるという警告です。意図していたよりもはるかに深刻な傷を負わせることになり、高等教育や経済全体に長期的なダメージをもたらす可能性があるのです」とMillerは言う。
カナダ移民・難民・市民権省の報道官であるIsabelle Duboisは、「カナダは、留学生がカナダにもたらす社会的・文化的・経済的利益を高く評価しています」と述べる。しかし、留学生が必要な支援を確実に受けられるようにしつつ、留学生の年間増加率を維持することはできなかったと、彼女は言う。
最終的には、研究への投資が減ることにより、高齢化や増大する医療費によって既に逼迫(ひっぱく)している経済にも損害を与えることになるだろうとHøjは言う。
翻訳:古川奈々子
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 3
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250323
原文
Limits on foreign students are harming research, universities warn- Nature (2024-11-27) | DOI: 10.1038/d41586-024-03807-2
- Smriti Mallapaty
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