キノコロボット
真菌が作り出す菌糸のネットワーク。 Credit: Alexey Protasov/Istock/Getty
肉厚の白いエリンギの下に隠れている菌糸のネットワークは、洗練された前菜の材料を生み出すだけではない。鋭敏なロボットセンサーとしての機能も果たし、車輪付きロボットやヒトデ形ロボットの操縦を助ける。
エリンギの菌糸は、紫外光を照射されると電圧スパイクを生じる。ある研究チームはこのプロセスを使い、シャーレで培養した菌糸に電極を介してロボットのモーターを動作させるように指示した。この研究はScience Roboticsに報告された。
こうしたロボットはバイオハイブリッドという機械群に属する。これまでに、心臓細胞を使って水中を自力で進むシリコンベースのクラゲや、実験室で培養した骨格筋によって駆動する2脚ロボットなどが作られている。これらのロボットのほとんどは機械式モーターの代わりに動物の組織を使っている。一方、新たな研究では全く異なる生物の能力を利用しており、技術者が利用できるツールが増えたと、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)のバイオハイブリッド研究者Rashid Bashir(今回の研究には関わっていない)は言う。
目指すは真菌駆動の農業ロボット
真菌は維持費がかからず、光はもちろん、二酸化炭素やアンモニアなどのガスや栄養素のわずかな変化の検出に長けていると、今回の論文の責任著者で、コーネル大学(米国)の工学者であるRobert F. Shepherdは言う。Shepherdは真菌駆動ロボットの農業利用を夢見ている。例えば、熟した果実を収穫したり乾燥した土壌に窒素を加えたりする機械だ。彼のチームはより簡単な概念実証実験として光感知から始めた。
信号をヒトデ形ロボットの動作に変換するためには、克服すべき特有の課題があった。真菌は光に対する電気的反応の他に、糖を消化する際に基準電流を生じる。論文の筆頭著者で同じくコーネル大学のAnand Kumar Mishraは、この付加的応答を最小限に抑えることと活用することの両方を試みた。活用した場合、ロボットは紫外光刺激による信号や基準電流など全ての信号に反応したが、紫外光による信号が大きく、これに応じてより素早く動いた。このモデルは、農地において窒素が不足している場所に反応して停止や減速、方向転換をする必要があるロボットに役立つと、Mishraは考えている。
ShepherdとMishraは、今後、真菌をロボット全体で増殖させて、あらゆる方向からの光や化学物質を感知できるようにしたいと考えている。特殊な配線をすれば、ロボットはこうした刺激に局所的に反応できるだろう。例えば、真菌で制御される果物収穫機が、熟した複数の桃に同時にアームを伸ばせるかもしれない。彼らはまた菌糸の寿命も調べるつもりだ。
今のところShepherdとMishraは、概念実証実験が成功したことを喜んでいる。「このようなロボットは類がなかったので、何から始めればよいか全く分かりませんでした」とMishraは説明する。彼らは、紫外光に素早く反応して動くロボットを設計するまでに3年かかった。機械式のヒトデがテーブルの上を動き回るのを初めて見たとき、Shepherdは「生きている」と強く感じたと言う。
翻訳:鐘田和彦
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 3
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250325a
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