「生きた化石」は進化の頂点?
キューバブラウンアノール。 Credit: Paul Starosta/Stone/Getty
進化は著しい作り替えをやってのけることがある。例えば今、空を飛んでいる小鳥たちは、何千万年も昔に地上をのし歩いていた恐竜に由来する。だが、一部の生物は大昔からほとんど変わっていないように見える。現生の魚であるシーラカンスは、4億1000万年前の化石とほぼ同じ姿だ。
こうした「生きた化石」が自然の選択圧にどう耐えたのか、科学者はずっといぶかってきた。この「停滞のパラドックス」に関する有力な仮説は、自然選択は何か極端な形質を選択する(方向性選択)のではなく、適度で平均的な形質を選ぶ(安定化選択)ので、一部の生物は変わらないのだと考える。
だが最近のProceedings of the National Academy of Sciencesに報告された研究は、この説に反する内容だ。この研究では、変化していないように見える動物でも、短期的な生存率向上につながるさまざまな形質が常に自然選択されていることが示された。ただし長期的に見ると「そうした進化が全て打ち消されて、変化しないのです」と、この論文の筆頭著者で責任著者でもあるジョージア工科大学(米国)の生物学者James Stroudは言う。
Stroudらはフロリダ州のフェアチャイルド熱帯植物園にある小さな島にいる4種のアノールトカゲの個体群を調べた。どれも過去2000万年間、あまり変化していない種だ。3年間にわたり、これらのトカゲを6カ月ごとに捕獲し、頭のサイズと脚の長さ、体重、身長、粘着性の指先のサイズを測定するとともに、どの個体が生き残ったかを記録した。Stroudは安定化選択が働いて適度な形質が保存されているだろうと予想していたのだが、実際には明らかな方向性選択が見られた。より粘着性の強い指先などユニークな形質を持つトカゲの方が、短期的には生存率が高かった。
短期的利点と長期的利点
ただし、そうした「最良の形質」は世代ごとに違うものになった。例えばある年は長い脚が生存に寄与し、別の年には短い脚が有利となった。選択の方向性と強さも大きく変わり、明確なパターンがない時期もあった。これらの変化は「小規模で行ったり来たりしており、正味の方向性はないのでしょう」と、ダーウィンフィンチ類で安定化選択を調べているプリンストン大学(米国)の進化生物学者Rosemary Grantは言う。
この研究は自然選択が穏当な形質ではなく年ごとに極端な形質を選んでいることを示しており、安定化選択説を支持しない。その代わり「私たちが安定化選択だと考えている現象が見えているのはなぜか、その理由をうまく説明しています」と、進化を研究しているスタンフォード大学(米国)の生態学者である深見理(ふかみ・ただし)は言う。短期的には新たな形質が数多く進化しているのだが、それらの形質は長期的には重要な利点をもたらさない。言い換えると、進化が停滞して見える生物種は、その生息環境における長期的成功に向けた最良の形質の組み合わせを見つけただけなのだろう。
では、それら停滞種の生息環境がもっと劇的に変化したら何が起こるだろうか? より大きなこの疑問に答えるべく、Stroudはフロリダに出向いてトカゲの追跡調査を続けている。
翻訳協力:粟木瑞穂
Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2024.240522a
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