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地球の内核の「スーパー自転」は終わった?

地球の内部構造の想像図。地球の内核は、地球の他の部分と異なる速さで回転できる。 Credit: johan63/iStock/Getty

地球のコア(中心核)のうち、最も内側の部分である内核は、地球の他の部分よりも少し速く自転していると多くの科学者たちが考えている。しかし、内核は、2009年ごろから、地球の他の部分とほぼ同じ速度で自転するようになったとみられるという研究結果がこのほど、Nature Geoscienceに掲載された1

この発見を報告したのは、北京大学(中国)の地震学者の楊翼(Yi Yang)と宋曉東(Xiandong Song)で、彼らは「私たちはとても驚きました」と話す。

地球の内核は、地震で発生した地震波が地球内部をどのように進むかを研究する中で1936年に発見された。地震波の速度が大きく変化する深さがあることが発見され、地球のコア(半径約3500km)は、鉄とその他の元素でできた液体の殻(外核)と、おおむね鉄からなる固体の中心部(内核、半径約1200km)からできていることが分かった。地球が冷えて外核の中の鉄成分の一部が固まり、内核が成長する際、外核を対流させ、それが地球の磁場を作る原動力になっていると考えられている。

内核は、液体の外核によって地球の残りの部分から分離しているため、独自の速さで回転できる。今回の研究結果は、内核が、地球の磁場の維持にどのような役割を果たしているかや、地球全体の自転速度、つまり1日の長さにどのように影響しているかなど、地球深部の謎の解明に役立つ可能性がある。しかし、今回の結果は、内核の独自の自転を明らかにしようとしてきた長い取り組みの1つであり、この問題の最終的な結論ではないかもしれない。

南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)の地震学者John Vidaleは「内核の自転については、もう間もなく解明できると私は思い続けています。しかし、確信があるわけではありません」と話す。

1年に0.1度

内核の独自の自転の証拠を最初に報告したのは、1996年、当時コロンビア大学(米国ニューヨーク)に所属していた宋らの研究だった。彼らは、大西洋南部のサウスサンドイッチ諸島付近を震源とする地震波が地球内部を南北方向に伝播し、遠く離れた米国アラスカ州カレッジの観測ステーションに到達する時間を約30年分にわたって調べて報告した2。宋らは、こうした地震波の到達時間の経路(内核を通過するか否か)による差は、1960年代以来、徐々に大きくなり、これは内核が、外核の外側の層であるマントルよりも速く回転していることを示していると主張した。

その後の研究で、マントルよりも速い「スーパー自転」の速度の見積もりの精度は向上し、内核は1年当たり約0.1度だけ、マントルよりも速く自転していると結論された。しかし、全ての研究者が同意したわけではなく、別の研究は、スーパー自転は連続した定常的な現象ではなく、おおむね個別の期間に起こり、その1つは2001~2003年に起こっていたとした3。一方、スーパー自転という現象は存在せず、地震波速度の変化は、内核表面の一時的な変化によって引き起こされていると主張する科学者たちもいる4

2022年6月、Vidaleと、同じく南カリフォルニア大学の地球科学者であるWei Wangは、事態を複雑にするもう1つの研究結果を発表した。彼らは1969年と1971年にアリューシャン列島のアムチトカ島で行われた米国の地下核実験によって生じた地震波データを使い、1969~1971年には地球の内核はマントルよりも遅く自転していたと報告した5。彼らによると、内核は1971年以降に自転速度を上げ、スーパー自転を始めたという。

70年周期

楊と宋は今回の研究で、主に1990年代初め以降に起こった地震を研究し、内核のスーパー自転は2009年ごろに終わったことを見いだした。内核は現在、マントルに対する回転をやめ、マントルとほぼ同じ速度で自転しているという。

楊と宋は今回の研究で、内核のスーパー自転は2009年ごろに終わったことを見いだした

内核は、スーパー自転と、マントルよりも遅い自転とを約70年の周期で繰り返しており、現在の内核の速度はマントルの速度よりも遅れ始めていると彼らはみている。内核の位置がマントルに対して最も遅れていたのは1970年代初めだったという。同様の周期の変動は、地球の1日の長さや地球磁場にも見られ、今後、それらとの関連が明らかになるかもしれない。内核の回転を駆動しているのは、主にマントルとの重力相互作用と、外核との電磁気相互作用とみられている。

また楊と宋は、地球全体のさまざまな震源と観測点について地震波到達時間の変化を検出した。このため、この変化はコアの自転に関連する地球規模の現象であり、内核表面の局所的な変化ではないことが裏付けられたと彼らは主張する。

しかし、楊と宋が報告したゆっくりした変化と、他の研究が報告したもっと速い変化との整合性など、多くの疑問は残っている。混迷した状況から抜け出すには、より多くの地震が起こるのを待つしかない。「地球の内核の運動を監視するためには、地震波データの長期の連続した記録が決定的に重要です」と楊と宋は話す。Vidaleも「私たちは、ただ待つしかありません」と話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230510

原文

Has Earth’s Inner Core Stopped Its Strange Spin?
  • Nature (2023-01-23) | DOI: 10.1038/d41586-023-00167-1
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Yang, Y. & Song, X. Nature Geosci. https://doi.org/10.1038/s41561-022-01112-z (2023).
  2. Song, X. & Richards, P. G. Nature 382, 221–224 (1996).
  3. Pang, G. & Koper, K. D. Earth Planet. Sci. Lett. 584, 117504 (2022).
  4. Yao, J., Tian, D., Sun, L. & Wen, L. J. Geophys. Res. Solid Earth 124, 6720–6736 (2019).
  5. Wang, W. & Vidale, J. E. Sci. Adv. 8, eabm9916 (2022).