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糞便と嘔吐物の化石でひもとく恐竜繁栄への道のり

今回の研究対象となった地域の、前期ジュラ紀の生態系の想像図。竜脚形類の植物食恐竜がシダ植物を食べている。 Credit: Marcin Ambrozik

恐竜は、どのような進化を遂げて地球を支配する存在となったのか。このたび、「ブロマライト」と呼ばれる消化物の化石(糞化石、腸管内容物化石、嘔吐物化石など)を数百点にわたり分析した研究で、初期の恐竜が何を食べ、そうした食性がその後どう変化したのかが推定され、三畳紀の約3000万年にわたる恐竜の初期進化が、気候の変化や他の動物種の絶滅といった複数の要因の影響を受けて段階的に進んだことが明らかになった。この研究は、Nature 2024年12月12日号397ページで発表された(M. Qvarnström et al. Nature https://doi.org/nt3w; 2024)。

「私たちの研究は、一見さほど特別ではない化石から、かなり特別な結果が得られることを示しています」と話すのは、今回の論文の筆頭著者であり、ウプサラ大学(スウェーデン)で恐竜の初期進化を研究するMartin Qvarnströmだ。

恐竜が地球上で支配的な動物群となった経緯については、これまでさまざまな説が唱えられてきた。例えば、恐竜は、変化する環境に適応する能力が他の動物よりも秀でていたためにライバルを凌駕できたのではないかという説や、偶然に起きた環境変化が、他の動物よりも恐竜に有利に働いたからではないかという説などがある。しかし、恐竜が陸上生態系において支配的な地位を獲得するに至った過程を完全に説明できる単一の仮説は、まだ存在しない。

恐竜の食性

ポーランドで発見された、前期ジュラ紀の植物食恐竜の糞化石。今回、ブロマライトと総称されるこれらの消化物化石によって、恐竜の食性に関する研究が可能になった。 Credit: Krystian Balanda

恐竜の初期進化をより深く理解するため、Qvarnströmらは今回、ポーランド盆地(現在のポーランドの大部分を占める堆積盆地)の複数の化石産地から出土した500点以上のブロマライトを詳細に調べた。これらの化石産地からは、後期三畳紀の前期から前期ジュラ紀の初期にわたる、恐竜の初期進化の主要な段階を代表する複数の動物群(恐竜以外の四肢類を含む)が発見されている。

研究チームはまず、これらのブロマライトの形態を細かく観察し、次に各種の顕微鏡やシンクロトロンマイクロCT(シクロトロン放射光を用いるマイクロコンピューター断層撮影法で、化石の内部を詳細に観察することができる)など、さまざまな方法を用いてそれらの内容物を分析した。また、一部の化石を化学溶液で処理することで残留物を取り出し、それらを詳細に調べた。

その結果、これらのブロマライトには、植物の他、昆虫類や魚類などさまざまな動物の断片および痕跡が残されていることが分かった。驚くべきことに、恐竜に食べられた昆虫の多くは、化石の年代の古さや胃液の影響にもかかわらずよく保存されていた。「中には、触角や肢が全てそろった状態で、三次元的にとてもきれいに保存されているものもありました」とQvarnström。

一連の消化物のデータを、同じ地層で見つかった動物群の骨格化石や生痕化石、骨化石に残された噛み跡などのデータと関連付けることにより、「どの年代にどの動物が何を食べていたのか、複数の食物網を再構築して、その傾向が数千万年という長い期間にどう変化したか調べることができました」とQvarnströmは説明する。

適応か死か

ハイギョ類のPtychoceratodusのものと推定される、硬鱗魚類の連結した鱗や腹鰭が含まれたブロマライト(上)と、恐竜型類のシレサウルス類のものとされる、ほぼ完全な姿の甲虫が多数含まれたブロマライト(下)。スケールバーは共に10 mm。 Credit: Qvaenström et al, Nature, 2024

分析の結果、ブロマライトの形状と内容物が年代とともに多様化していることが分かり、明らかになった食性の変遷などから、この地域の恐竜が後期三畳紀(2億3700万~2億100万年前)の間に複数の段階を経て食性の多様化と大型化を遂げたことが示唆された。さらに、ブロマライトのデータを当時の気候データや植物相の組成変化のデータと比較することで、恐竜の繁栄が偶然と適応によって形作られたことが分かった。例えば、この期間には乾燥から湿潤へと気候が大きく変化し、それに伴って利用可能な植生が大きく変化したのだが、他の動物が新たな環境に適応できずに姿を消したのに対し、恐竜は食性を変えて変化にうまく適応できたことで生き残れたのだ。

「恐竜の繁栄への道は、かなりの時間を要する、とても複雑なものだったのです」とQvarnströmは語る。

今回の研究を「とても素晴らしい」と評価するのは、ブリストル大学(英国)で古生態系動態を研究するSuresh Singhだ。彼は、ブロマライトに着目した研究がこれほどの規模で行われたのはこれまで見たことがないと指摘する。

Singhによれば、恐竜は、生物が気候変化などのさまざまな圧力にどのように応答するかを理解する上で、重要なデータ源になるという。

将来的には、ブロマライトを用いて、世界の別の地域での恐竜の進化についても理解を深められる可能性があるとSinghは言う。「現在、恐竜は南半球で最初に進化したと考えられています。ですから、南半球では違う進化のパターンがあったのかもしれないのです」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2025.250318

原文

Fossilized poo and vomit show how dinosaurs rose to rule Earth
  • Nature (2024-11-27) | DOI: 10.1038/d41586-024-03889-y
  • Helena Kudiabor