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デング熱のアウトブレイクは高温や降雨と同期している

デング熱を拡散させるヤブカ属(Aedes)の蚊は、温暖で湿潤な環境で繁殖する。 Credit: Soumyabrata Roy/NurPhoto via Getty

南北アメリカ大陸でのデング熱の主要なアウトブレイク(集団発生)は、エルニーニョ現象(全球的な気象擾乱を引き起こすことがある太平洋の海面水温の周期的な上昇)の約5カ月後に発生する傾向があることが、研究から明らかになった(T. M. Quandelacy et al. Sci. Transl. Med. 17, eadq4326; 2025)。一方、地域的なアウトブレイクは、夏の気温のピークから約3カ月後、降雨量のピークから約1カ月後に起こる傾向があることが分かった。

Science Translational Medicineに掲載されたこの研究は、南北アメリカ大陸におけるこの蚊媒介疾患と、気候条件との関係をより明確に描き出している。南北アメリカ大陸では、2024年に過去最多となる1300万件のデング熱症例が報告された。

デング熱は、近縁な4種類のウイルスによって引き起こされ、ヤブカ属(Aedes)の蚊によって拡散される。デング熱は、特異的な治療法がなく、発熱や骨の痛みを伴い、死に至る場合もある。

今回の研究は、14カ国から得られたおよそ30年間にわたるサーベイランスデータに基づいている。南北アメリカ大陸全域で、症例が同期して増減する傾向があり、地点間のピーク時期のタイムラグは平均6カ月だった。この同期的な振る舞いは、1万km離れた地域間でも見られた。

蚊に快適な暖かさ

今回の研究の責任著者の1人であるコロラド大学公衆衛生大学院(米国オーロラ)の感染症疫学者Talia Quandelacyは、「今回の知見は、ある地域でいつエピデミック(大流行)が起こるかを予測するのに有用で、そうした予測は計画や準備に役立つ情報を提供します」と言う。彼女は、デング熱と気候の関連はよく知られているが、今回の知見で際立っているのは、「特に南北アメリカ大陸は気候が非常に多様な地域であることを考えると」、この関連が大陸全体にわたってどのように現れているかを示している点だと言う。

ヤブカ属の蚊は通常、温暖で湿潤な環境で繁殖する。さらに、蚊の体内にデングウイルスが潜伏する期間(感染から、蚊がウイルスを伝播できるようになるまでの期間)は高温になるほど短くなると、Quandelacyは言う。デングウイルスは温暖な環境になるほど、速く複製するのだ。「気温が高いと、デングウイルスの伝播効率が高まります」と彼女は言う。

しかし、気候はデング熱のエピデミックを引き起こす要因の1つに過ぎない。集団免疫や他の地域特性も同様に重要である。例えば、蚊はたまり水に産卵するが、適切な衛生設備が整っていない都市部ではたまり水は豊富に存在する。「この解析から、エルニーニョ現象のような極端な気象事象の影響が重要であることが示されましたが、特に節足動物媒介性ウイルスの場合は、都市部の地域特性を考慮すべきです」と、ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の公衆衛生専門家Marcia Castroは言う。「インフラが整っていない都市や、拡大するスラム地域があり、そこにエルニーニョ現象が加わると、これらの諸問題が一層深刻化します」。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251119

原文

When will dengue strike? Outbreaks sync with heat and rain
  • Nature (2025-08-20) | DOI: 10.1038/d41586-025-02677-6
  • Mariana Lenharo