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ゴリラはトリュフを探す

地面を引っ搔くゴリラ。 Credit: Guuilhem Duvot/WCS

コンゴ共和国北部の村で育ったGaston Abeaは、村の近くにいるゴリラはおいしいアリを探すために地面を掘っているのだと祖父が教えてくれたことを覚えている。Abeaはゴリラのこの奇妙な行動に関する祖父の説明を信じていた。だが後に自分でよく観察した結果、祖父や彼ら先住民バカ族に伝わるこの説明は、実態に合っていないとAbeaは判断した。

「ゴリラは葉っぱを横によけて、地面を引っ搔(か)いて掘っていたのです」とAbeaは言う。「これはアリ探しではありません。アリなら単につまみ上げればよいのですから」。

現在は、コンゴのヌアバレ=ンドキ国立公園の野生動物保護協会の研究助手であるAbeaは、ゴリラが本当は何をしているのかに強い興味を抱いた。彼は共同研究者と共に、数年間をかけてこの行動を調べ、その答えを見つけた。ゴリラはトリュフを探して食べていたのだ。この大型類人猿の食生活と文化に関する稀有な情報はPrimatesに報告された。

社会的に伝承されている ゴリラの食文化

ゴリラが地面を引っ搔く行動はコンゴやガボン、中央アフリカ共和国などの少数の別の場所でも観察され、いずれも昆虫を探して食べる行動だと考えられていた。Abeaらは疑問を晴らすため、ンドキにいるゴリラの4つの群れを数年にわたって追跡調査し、その行動を記録した。ゴリラが引っ搔き跡から丸い小さな物体を拾い上げて食べているのを目撃し、この物体の標本を集めた。

分子解析を併用した分類学研究の結果、土中のこの食物はElaphomyces labyrinthinusという菌類(キノコ)であると同定された。これは、トリュフの一種で、人間が食べているトリュフの小型版のような外見をしている。この地域のゴリラの群れ全てが地面を搔いて掘る行動を日常的にしているわけではないが、どのゴリラもこの行動をすることはできるようだ。あるゴリラは、トリュフ探しをほとんどしない群れから頻繁にする群れに移った後に、トリュフを探して食べる時間が2倍になった。こうした観察から、トリュフの採餌行動は状況に応じて変化し、環境要因によるというよりも社会的に受け継がれているとみられる。

他の類人猿に比べゴリラの文化はあまりよく研究されていない。霊長類学者は伝統的に、チンパンジーやオランウータンに比べゴリラの食性をそれほど興味深いものだと見なしてこなかった。チンパンジーやオランウータンの方がさまざまなものを食べ、道具の使用にも熱心だからだ。しかし、今回の論文は、ゴリラの食餌が「驚くほど多様であって、社会集団によって食物の文化的な好みが異なっている可能性」を示す証拠を提供していると、ミシガン大学(米国)の生物人類学者Stacy Rosenbaumは評する。

トリュフのように見つけるのが難しい珍味をゴリラがなぜ食べるようになったのかは、まだ不明だ。いくつかの研究はトリュフに抗菌性や抗酸化性、抗炎症性がある可能性を示唆していると、Rosenbaumは言う。だから「推測ではありますが、薬効目的という興味深い可能性もあります」。あるいは、一部の人間と同様、トリュフを単においしいと思うゴリラがいるのかもしれない。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251124a