Editorial

撤回ブルース

Nature Medicine 19, 12 doi: 10.1038/nm.3426

科学研究論文の廉直性を重視し守ろうとする動きは、以前よりずっと強まっている。ところが、これとは逆に、問題のある論文を撤回に持ち込むことは、いよいよ難しくなってきている。科学論文の信頼性は、研究者の間で最も重視される問題であり、さまざまな監視体制が整いつつある。著者が論文の撤回を自発的に申し出るケースとして考えられるのは、結果の再現が見込めない場合や、読者に重大な問題を指摘された場合などだが、実際には撤回という問題は匿名の内部告発者から始まることが多い。ジャーナルの編集部は不当行為についてまず著者に問い合わせ、それに対する説明の信謬性が低い場合には著者の所属する機関に調査が依頼される。しかし、ほとんどの研究機関にはこのような問題について調べる専門の部門がなく、あったとしても内部調査は一般に非常に困難であり、撤回に値するという結論に至るのは稀である。研究機関のこうした腰のひけた対応は、法的な争いを避けたがることが原因のようだ。それは、論文の撤回は必ず著者の評判に影響するためである。つまり不正を示す、議論の余地のない証拠が存在しない限り、研究者が風評被害などについて所属機関を告訴する可能性があるというわけで、調査部門が論文の撤回を求めるのを躊躇するようになるのは当然ともいえる。こうした部門の権限強化などの新たな対策は次々に考案されているが、科学研究の信頼性を確実なものにするには学界全体の強力な行動が必要である。さまざまな利害関係を持つ人々の間の協調した行動を通してのみ、我々は論文の高い信頼性と正確性を維持できるのである。

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