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ダークエネルギーの大問題

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120418

原文:Nature (2012-01-05) | doi: 10.1038/481010a | Survey tunes in to dark energy

Eric Hand

宇宙の銀河を観測すると、ダークエネルギーがあって宇宙膨張を加速させているように見えるが、宇宙の長い歴史において、ダークエネルギーが一定だったかどうかは不明だ。それを探る研究が始まった。

BOSS実験で使用されるアルミニウム製のプレートの1枚。
プレートには小さな孔があけてあり、個々の銀河からの光は、この孔を通って入射してくる。その光を分析することで、それぞれの銀河がどのくらいの速度で地球から遠ざかっているかがわかる。

D. LONG, SDSS-III

自然界最大の謎の1つがダークエネルギーだ。それを探るためにDavid Schlegelが製作した道具は信じられないくらい単純なもので、マンホールの蓋くらいのアルミニウム製プレートだ。ただし、その枚数は2200枚もあり、それぞれに、空の特定の領域に見える銀河の分布に合わせた孔があけてある。このプレートはアパッチポイント天文台(米国ニューメキシコ州)の2.5m望遠鏡の主焦点に装着するためのもので、一度ずつ、1時間だけ使用される。プレートを装着した望遠鏡を正しい方向に向けると、それぞれの銀河からの光が、対応する孔を通って入射してくる。その光は波長成分に分解され、とどまることのない宇宙の膨張により、個々の銀河がどのくらいの速度で地球から遠ざかっているかを測定するために使われる。

2009年に始まったこの研究は、最終的には150万個の銀河からデータを収集する計画になっている。目標は、宇宙膨張を加速させているとされるダークエネルギーを測定し、その影響が、宇宙の百数十億年の歴史を通じて一定なのか、それともわずかに変化しているのかを見極めることにある。「測定する銀河の数を増やせば、その分、よい答えが得られます」とSchlegelは言う。彼は、米国カリフォルニア州のローレンスバークレー国立研究所(LBNL)の天文学者で、バリオン振動分光サーベイ(Baryon Oscillation Spectroscopic Survey:BOSS)の主任研究員だ。

BOSSと、その基礎にある手法の真価は、すでに認められている。2012年1月11日、Schlegelと同僚は、米国テキサス州オースティンで開催された米天文学会の会合で、47万個の銀河の観測データに基づく最初の知見を発表した。これらのデータは、銀河が密集して巨大な波頭のように見える場所を示し、宇宙の構造を垣間見せてくれた。その構造は、宇宙が今よりはるかに若く、小さかった時代に、まだ恒星や銀河を形成するほど冷えていなかった高温・高密度のプラズマの中を音波が伝播したときの名残である。バリオン音響振動(BAO)と呼ばれるこの音波は、物質を吹き寄せて、高密度の領域と低密度の領域をほぼ等間隔で作り出した。その後、無数の銀河が巨大なシートやフィラメントの形に集まり、このパターンが宇宙で最も大きな構造へと進化していった。

宇宙の大規模構造が等しい間隔で分布していることが最初に明らかになったのは2005年のことで、この間隔は宇宙における天然の物差しとなった1。今日、その間隔は約150メガパーセク(5億光年)まで広がっている。BOSSは、この物差しからのずれを検出することで、ダークエネルギーの影響をこれまでで最も厳密に絞り込もうとしているわけだ(「宇宙のさざ波の大きさを測る」参照)。

1998年にダークエネルギーに関する最初のてがかりを提供したのは、Ia型超新星の研究だった。Ia型超新星爆発は、ピーク時の明るさがどれもほとんど同じになると考えられており、地球から超新星がある銀河までの距離を決定するための「標準光源」として利用できる。このデータを、超新星の後退速度と組み合わせると、宇宙の膨張は重力の影響で減速するどころか加速していることが明らかになった。1つの説明は、ダークエネルギーが真空に備わっている斥力、すなわち「宇宙定数」であると主張することだ。BOSSの観測は、このモデルの不確実性の範囲を数%まで狭めることができると期待されている。「現時点で得られている値より数倍よい値です」と、Schlegelは言う。

スウィンバーン工科大学(オーストラリア・メルボルン)の天文学者Chris Blakeは、「BOSSが今後5年間、最先端技術であり続けるのは明らかです」と言う。BlakeはWiggleZというバリオン音響振動研究プロジェクトの共同研究者だった。WiggleZでは、オーストラリアのサイディング・スプリング天文台の3.9mアングロ・オーストラリアン望遠鏡を使って、24万個近い銀河の距離を測定した。24万個という数はBOSSの150万個に比べれば少ないが、WiggleZチームが2011年に「この宇宙の銀河が、ダークエネルギーが存在しているかのように振る舞っていることを、超新星の観測とは独立に確認することができた」と発表するには十分だった2,3

しかし、どの研究でも、宇宙の歴史を通じてダークエネルギーが一定であったという確証を得ることはできなかった。この重大な問題に取り組むため、BOSSのチームはBigBOSSプロジェクトに着手した。BigBOSSでは、BOSSよりはるかに広い宇宙空間を調べて、最大で31億パーセク離れた2000万個の銀河と、400万個のクエーサー(さらに遠方にある銀河の明るい中心核)を観測する。これにより、宇宙が誕生してまもない時期から存在していたと考えられるダークエネルギーが宇宙に及ぼしてきた影響をたどり、それが本当に一定だったのかどうかを見極めたいと考えている。

BOSSのアルミニウム製のプレートは、いちいち人間が位置を決めて装着しなければならなかったが、BigBOSSのシステムは自動化されていて、遠方の銀河からの光を集めるのに適した位置まで光ファイバーの先端を正確に動かすことができる。共同実験グループは、米国立光学天文台に7000万ドルの計画を提案し、アリゾナのキットピーク国立天文台にある4mメイヨール望遠鏡を改良して、2018年から5年間の観測を始めたいとしている。

ダークエネルギーを研究するプロジェクトはほかにもあり、NASAも16億ドルの広視野赤外線サーベイ望遠鏡を提案している。けれどもSchlegelは、BigBOSSがバリオン音響振動を測定する能力は、はるかに多額の費用を投じた宇宙ミッションよりも優れているだろうと言う。「BigBOSSは、宇宙に出なければ手に入らないと思われていた情報を大量に集めることができるでしょう」と、彼は言う。

バリオン音響振動の測定を目的とするBOSSやWiggleZのような実験が増えてきたのは、宇宙の膨張がどの程度安定しているかが不確実になった結果、超新星による方法の検出力が低下したからである。しかも、バリオン音響振動を測定する方法は、超新星を観測する方法よりも多くの事実を明らかにする。それは、巨大な銀河集団どうしがどのように離れていくかを明らかにし、さらに、この集団の内部で重力が個々の銀河にどのような影響を及ぼすかを明らかにする助けともなる。「個々の銀河が集団に流れ込んでゆく様子を見ることができるのです」とBlakeは言う。

この観測により、ダークエネルギーが宇宙定数以外のものである可能性、例えば、巨大なスケールでは一般相対性理論の形が変わる可能性などを排除できるかもしれない。「重力について、奇妙なことが起きているのかもしれません」とフェルミ研究所(米国イリノイ州バタビア)の天文学者Josh Friemanは言う。

Friemanは、物質の巨大な塊の重力が、より遠方の銀河の形をわずかに歪ませる「弱い重力レンズ」という現象を利用して、ダークエネルギーを見つけようとしている。彼が率いるダークエネルギー・サーベイというプロジェクトは、2012年中に、チリのセロトロロ・インターアメリカン天文台の4mブランコ望遠鏡に装着した570メガピクセルのカメラを使って、3億個の銀河の写真撮影を始める予定だ。ただし、地上の望遠鏡を使って弱い重力レンズの地図を作成する試みはこれまでにもあり、大気のゆらぎによるボケのために失敗に終わっている。Friemanらにとっては困難な挑戦となるかもしれない。

バリオン音響振動の測定に必要なのは銀河のスペクトルだけで、高解像度の画像は必要ないため、大気のゆらぎによるボケは、あまり問題にならない。そして、BigBOSSがバリオン音響振動の影響を特定するために広い範囲から集めたデータは、個々の銀河集団の周りで重力が及ぼす作用を観察するのにも利用できる。

超新星の研究を通じて宇宙の膨張が加速していることを初めて発見し、独立に同じ発見をした研究者らとともに2011年にノーベル物理学賞を共同受賞したLBNLの天文学者Saul Perlmutterは、たとえBigBOSSがバリオン音響振動の性質を解明できなかったとしても、何か予想外の発見があるに違いないと言う。実際、彼にノーベル賞をもたらした超新星研究は、もともとは、重力による宇宙の減速を測定するためのものだったのだ。「我々はついています。どんどん進めるべきです」と彼は言う。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Eisenstein, D. J. et al. Astrophys. J. 633, 560-574 (2005).
  2. Blake, C. et al. preprint at http://arxiv.org/abs/1105.2862 (2011).
  3. Blake, C. et al. preprint at http://arxiv.org/abs/1104.2948 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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