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イヌの動物実験を減らせ

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110919

原文:Nature (2011-06-30) | doi: 10.1038/474551a | Call to curb lab tests on dogs

Marian Turner

イヌは時代遅れの薬物毒性試験で、いまだに「デフォルト設定」になっている。

薬物毒性試験などで、多くのイヌが使用されている。 | 拡大する

Y. FORESTIER/CORBIS

製薬業界では、いまだに「人間のベストフレンド」に重苦を与えている。イヌではヒトに対する薬物の作用は十分に予測できないと考える研究者が多いにもかかわらず、欧米では、毎年数万頭のイヌが薬物毒性試験に使われているのだ。このほど、犬をこよなく愛するスイスの慈善家Hildegard Doerenkampが、動物実験の削減のための活動を支援しているDoerenkamp–Zbinden 財団(スイス・チューリヒ)に多額の寄付を行った。これがきっかけとなって、この敏感な問題に関する議論が始まった。

6月中旬、産学の毒物学研究者と動物愛護団体がブダペスト(ハンガリー)で会議を開き、今後の行動計画の策定や、100万ユーロ(約1億1000万円)を超えるDoerenkampの寄付金でどう変革を実現するかについて話し合った。会議では、in vitro実験(ここでは、試験管内や培養細胞を用いた人工的な条件下での実験のこと)や齧歯類の動物実験では得られないがイヌの実験で得られる情報とは何なのかを、研究者は明らかにする必要がある、という声が上がった。また、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁のような規制当局は、イヌ実験の要件を統一し、製薬企業が使う頭数を最小限に抑えるようにしなければならないという意見も出た。

規制当局は、一般に、齧歯類と非齧歯類の両方で薬物の毒性試験を行うことを要求する。非齧歯類での実験にはイヌが使われることが多いが、それは、イヌが実験動物として容易に手に入るうえに取り扱いやすく、また、多くの面で生理学的にヒトに近いからだ。薬理試験で使われるイヌの頭数は、研究目的で使われるすべてのイヌの約4分の3にも上る。

しかし、業界内外の研究者の間には、実験に最適の材料が必ずしもイヌだとは限らず、in vitro実験で代替できることもある、という意見がある。「こうした意見や、イヌを実験で使うことに対する一般社会の憂慮にもかかわらず、イヌの実験を減らすための努力はほとんどなされていません」。こう話すのは、今回の会議を主催したジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)動物実験代替法センター(CAAT)の所長、分子毒物学者のThomas Hartungだ。

一方、規制当局は実験の手続きを変えることには慎重である。もし新薬に何らかの有害な副作用が出れば、危険を見抜けなかった新しい実験法のせいだという非難が起こる可能性があるからだ。in vitroの各種代替法で得られる毒性予測が、イヌ実験での結果と一致しなければ、規制当局の方針は変わらないだろう、とHartungは語る。これまでに、唯一、薬物が不整脈を引き起こすかどうかの予測に利用される方法だけがそのレベルに近づいているが、国際的には妥当性が認められていないのが現状だ。

今後2、3か月以内に発表される行動計画で、CAATは、イヌの実験結果のデータベースを設立することを求める予定だ。このデータベースは、イヌでしか確認できない生理学的作用を明示することによって、in vitro実験で可能なものを明らかにする一助となる。CAATはさらに、イヌが最適のモデルである実験と、ミニブタなどほかの動物で行うべき実験をより明確に定義することを求めるつもりでもいる。ロシュ社(スイス・バーゼル)の毒物学者Georg Schmittは、製薬会社は、施設や実験計画書があるからというだけで当然のことのようにイヌを実験に使うべきではないと語る。「イヌは、ホルモンなど一部の物質に対して敏感すぎる場合があるうえ、消化器系の動きがヒトとは違うのです」と彼は言う。また、イヌがモデルとして適していないとわかった実験を明らかにするべきだ、とも主張している。

この新しい活動は、10年以上前に医薬品試験の専門家David Smithが創設したイニシアチブからヒントを得たものであり、その後、製薬大手のアストラゼネカ社(英国ロンドン)が採り入れ、現在では実験動物科学協会(英国ハル)が取り組んでいる。Smithは、イヌを使った実験についての非公式の話し合いに、12の製薬会社と愛護団体を集めた。この集まりでは、100種類以上の物質の実験計画書が評価され、用量試験に関する標準ガイドラインが作成された(D. Smith Regul. Toxicol. Pharmacol. 41, 95–101; 2005)。これにより、1社当たり実験に使用するイヌの数が毎年120頭も減ったと、Smithは言う。

当時は、こうした活動を共同で行う正規の仕組みが存在しなかった。現在は、CAATが公式の枠組みを提供している。ブダペストでの会議に先立ち、CAATは、イヌの取り扱いと実験に関する最適な方法を共有するため、製薬企業の国際的な委員会を立ち上げた。

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次のステップは、規制当局にも同様の流れを起こすことだ、とHartungは話す。製薬企業は、1つの大きな地域の規制当局がイヌの実験を必要とすれば、イヌを使い続けるだろう。例えば、EUでは12か月にわたるイヌでの慢性毒性試験が2006年に廃止されたが、FDAはいまだにその実験を求めているのだ。

こうしてイヌを用いた実験に新たな焦点が当てられたことで、動物実験に幅広い変化が起こることを、Hartungは期待している。「ただ実験に使うイヌの数を減らすのではなく、40年以上も採用されてきた毒性試験の標準規格を作り替えようという話なのです。そうした科学的根拠に基づく改善は、人類の保健衛生にも役立つはずです」とHartungは語っている。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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