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新方式のシーケンサー登場

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110505

原文:Nature (2011-02-10) | doi: 10.1038/470155a | Gene reading steps up a gear

Heidi Ledford

第三世代シーケンサーは、1個の分子を検出してDNA配列を解読するようになる。

「とってもすごいんですけど、絶対うまくいかないはずです」。ゲノミクスの専門家であるEric Schadtは、2003年、新型のDNA配列解読(シーケンス)技術について、慎重な投資家から意見を求められたときにこう答えた。その装置はある会社が製作を進めていて、酵素がDNA分子をコピーするそばから配列を読んでいく仕組みにして、「この分野に革命的進歩をもたらす」という触れ込みだった。

最初は懐疑的だったSchadtだが、今年(2011年)2月初めにマルコ島(米国フロリダ州)で開かれたAGBT(Advances in Genome Biology and Technology)学会では、この方法が成功したことを盛んに宣伝した。彼は今や、かつて自分が疑いの目を向けたパシフィック・バイオサイエンシーズ社(米国カリフォルニア州メンローパーク)の最高科学責任者なのだ。そして、同社初のシーケンサー(DNA配列解読機)がどんなふうに動くのかを学会で紹介するチームの一員だった。

全参加者の視線がこの装置に注がれた。この会社は、最高技術責任者のStephen Turnerが、2008年、当時丸々1か月かかっていたヒトゲノム配列の解読時間を、2013年にはわずか15分でできるようにする、とぶち上げた。高く掲げられた目標だったが、今年、研究者が1号機のデータを社外に発表すると、革命的進歩という話は、ニッチ用途での応用という議論に変質してしまった。

幾度かの延期ののち、顧客には、今年第2四半期の納入予定であることが伝えられている。しかし、この装置は、現在販売されている「次世代シーケンサー」にないメリットを提供する可能性がある。新型機のユーザーは、先週、平均1500塩基対という長い配列が得られたことを明らかにした。これは、イルミナ社(米国カリフォルニア州サンディエゴ)の最新式シーケンサーで得られる長さの約10倍だ。こうした長い配列だと、DNA配列の断片をつなぎ合わせて連続したゲノム配列を作る作業が容易になる。

パシフィック・バイオサイエンシーズ社の装置には、迅速性という特徴もある。2010年12月にインターネット上で発表された論文で、Schadtの研究チームは、この装置を使って5系統のコレラ菌のゲノム配列を解読し、ハイチで流行していたコレラの発生源をたどった(C. S. Chin et al. N. Engl. J. Med. 364, 33–42; 2011)。研究チームは、全5系統の配列を1時間足らずで解読した。イルミナ社のシーケンサーであれば、150塩基の配列解読を完了するのに1週間ほどかかる。

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しかし、多くの研究者にとって、パシフィック・バイオサイエンシーズ社の装置の重要な進歩は、1分子のDNAの配列を解読できるという点にある。この装置では、小区画に封入された酵素がDNAをコピーし、DNA鎖に加えるとき、特定の色で光るよう蛍光標識された塩基を検知して、DNA配列を解読する。これに対して、現在販売されている最新式のシーケンサーが提示するのは、分子の集団から得た配列の平均値だ。

一分子配列解読であれば、希少な変異配列を分析できるようになり、配列を解読するためにDNA試料を増幅させる必要がなくなる。DNAの増幅という工程はエラーを誘発する可能性があり、特定のDNA配列の解読が全くできなくなることもあるのだ。ベイラー医科大学(米国テキサス州ヒューストン)でシーケンス技術を研究するMichael Metzkerは、「一分子解読は、シーケンス技術の未来形なのです。でも、まだ課題があります」と話す。

その主なものが、高いエラー率だ。実用化されているほかの方法では精度が99%を超えるのに対し、パシフィック・バイオサイエンシーズ社の装置のユーザーは、先週、精度が約85%であることを明らかにした。これについてSchadtは、同じ分子で繰り返し配列解読をすれば解決可能な問題だと主張する。

この装置の価格は、ユニット当たり70万ドル(約5600万円)もする。今秋イルミナ社が新発売するシーケンサーは12万5000ドル(約1000万円)未満だ。また、1回の操作で読み取り可能な配列数にも限界がある。そのため、この装置が近い将来にシーケンサー市場を席巻する可能性は低い。

現時点で言えるのは、この装置は、従来の技術では解読できなかったヒトゲノム領域に対して、その配列を明らかにするために利用される可能性がある、ということだ。また、この装置は、DNA上のある種の化学修飾を検出することができるため、急成長するエピジェネティクス分野でも有用と考えられる。ネイションワイド小児病院(米国オハイオ州コロンバス)で配列解読センターを統轄するPeter Whiteは、「1台導入したいが、一般に哺乳類ゲノムよりもはるかに小さい微生物ゲノムの分析に主として利用することになるでしょう」と語る。

今回の学会で、Turnerは、15分でヒトゲノムを解読するという約束を繰り返すことはなかった。そして、現在の装置には改善の余地がたくさん残されていることを強調した。「この技術はようやく生まれたばかりなのです」。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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