News

「電子皮膚」で健康をモニター

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111102

原文:Nature (2012-08-11) | doi: 10.1038/news.2011.473 | 'Electronic skin' could replace bulky electrodes

Ed Yong

皮膚に貼れる超小型センサーが開発され、健康状態のモニタリング、音声の増幅、医療用人工装具の制御に役立つことが期待される。

伸縮性と柔軟性があり、人間の髪の毛ほどの厚みしかないセンサーパッチ。 | 拡大する

J.A.Rogers

現在、心臓の拍動、脳の活動、筋肉の収縮などを記録する際には、かさばる電極が使用されている。このほど、従来の電極に匹敵する精度でこれらを記録することができる、人間の髪の毛ほどの厚みしかない「電子皮膚」が開発された1

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の材料科学者John Rogersらによって開発された電子皮膚のパッチは、センサーを搭載した回路が柔軟性と伸縮性のある格子状に編み込まれている。また、タトゥー(入れ墨)シールのように皮膚に貼りつけたり剥がしたりすることができ、接着剤は不要である。

現時点では、一度皮膚に貼りつけたパッチは数日しか使用することができないが、技術が進歩すれば、医師は、ワイヤーやかさばる装置を使うことなく、患者の健康状態を長期にわたってモニタリングできるようになるだろう。

電子皮膚は、従来の医用センサーではできなかったことも可能にする。例えば、これを喉に貼れば、喉が発する音声を感知して、単純なコンピューターゲームを制御することができるのだ。「我々が喉に注目したのは、『表皮電子装置』は、人体の中で特に敏感な部位に貼っても違和感なく使えるという点を強調するためでした」とRogersは言う。

電子皮膚は、喉頭疾患の人々のコミュニケーションを補助したり、未熟児をモニターしたり、医療用人工装具の制御を強化したりできるかもしれない。さらにRogersは、理学療法士とともに、電子皮膚を利用して変性した筋肉の収縮を誘発する共同研究も行っている。

ケンブリッジ大学(英国)の工学者Stéphanie Lacourは、これはエキサイティングな研究であると言う。「生体組織を力学的に摸倣すると同時に、確実に機能する、高性能の電子装置を設計できることが実証されたのです。今後、装着していても気にならない、高性能のウェアラブル・システムの設計に役立つでしょう」。

薄さがもたらす強み

この電子皮膚は、センサー、アンテナ、発光ダイオード(LED)などからなり、サンドイッチのように2枚の保護層に挟まれている。電力は、装置に組み込まれた太陽電池か、ワイヤレスで電流を生成できる誘導コイルにより供給される。そしてこのサンドイッチは、皮膚の物理的特性に合わせて作られた、伸縮性のあるポリエステルシートの上に載っている。「私が知るかぎり、これは、複雑で機能的な電子回路を載せる基板として最も柔らかいものです」とLacourは言う。

たいていの電子装置に使われているシリコンチップは、厚さが1mmほどで、非常にもろい。これに対して、電子皮膚と基板を合わせた厚みは40µm足らずで、はるかに柔軟である。「ほかのスケールではもろくても、このスケールでは完全に柔軟になるのです。だから、シリコン製の硬い微小部品を使っているシステムでも、生体組織のように振る舞わせることができるのです」と、Rogersは説明する。

電子皮膚は非常に薄く、接着剤を使わなくても、ファンデルワールス力(分子を凝集させる、互いに接近した物体間に作用する力)だけで皮膚に貼りつけることができる。このため、皮膚から引き離そうとする場合、厚さ1mmのシリコンチップの1000万分の1の力ですむ。また、回路はS字型のフィラメントの網の形になっているので、壊れることなく伸縮できる。

研究チームは現在、体の動きで駆動される圧電素子、バッテリー、データやコマンドをアップロードするための無線通信装置など、新しい構成要素を追加することに取り組んでいる。

一方、この電子皮膚の大きな欠点は、皮膚細胞が絶えず剥がれ落ちているため、皮膚に貼ってから数日で剥がれてしまうことである。研究チームは、今、一度貼ったら数か月続けて使用できるようにする方法を模索している。

製作コストが高いという欠点もある。しかしRogersは、将来的には大量生産できるようになるだろうと考えている。「我々はこのパッチを、ゼロからではなく既存の技術をもとにして製作しました。ですから、商業ベースの製造での技術的ハードルは、皆さんが思われるほど高くはないはずです」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Kim, D.-H. et al. Science 333, 838-843 (2011).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度