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月には、水も、水素も、水銀もあった!

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110105

原文:Nature (2015-10-21) | doi: 10.1038/news.2010.556 | Astronomers comb through Moon smash haul

Richard Lovett

NASAのLCROSSプロジェクトにより、月のタイムカプセルが開いた。

昨年10月、米国航空宇宙局(NASA)は、月探査機LCROSSのロケットを月の南極付近に衝突させた。今回、その飛散物の分析結果をまとめた論文が5本発表され、相当量の氷のほか、水素、水銀、銀、炭化水素などの揮発性の物質を含んでいたことが明らかになった。

今回の衝突で直径25~30mのクレーターができ、数tの塵や蒸気が月面から約1kmの高さまで飛散した。飛散物は、LCROSS本体やNASAの月探査機ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)によって分析された。

LCROSSプロジェクトを率いた、NASA エイムズ研究センター(米国カリフォルニア州モフェットフィールド)のAnthony Colapreteの研究チームは既に、昨年11月、月に水が存在することを発表したが、今回、飛散物の約5.6%が水だったと報告した1。「これは十分に大量です。サハラ砂漠の約2倍の量です」とColapreteは説明する。計算上、衝突場所から10km以内の月面では、深さ1mまでの土に、数百万tもの水が蓄えられていることになる。彼らによると、水は比較的きれいな氷の粒として存在し、将来の月面基地では、かなり容易に水を手に入れられるだろうという。

軟らかな標的

色がついている帯状の地域の中心にある輝く点は、衝突で700℃を超える温度に達したことを示している。データはルナー・リコネサンス・オービターが測定した。 | 拡大する

UCLA/NASA/JPL/GODDARD

2本目の論文では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA;米国)のPaul Hayneらが、LROの「ディバイナー」という赤外線温度センサーを使って分析している2。LROが衝突2時間後にこの地域を通過したとき、クレーターは約–173℃とまだ比較的温かかった。Hayneは、「衝突で月表面は700℃以上になり、水は直ちに蒸発したでしょう。実際、LCROSS本体が、ロケットに続いて月に衝突するまでの4分間、クレーターからの水蒸気の噴出を観測していました」と話す。さらに、「辺りがしばらく熱をもっていたということは、ロケットは固い地面の上に広がった層状の氷ではなく、氷と表土の混合物に衝突したに違いありません」と加えた。3本目の論文の主著者、ブラウン大学(米国ロードアイランド州プロビデンス)のPeter Schultzも、「爆発はロケットの衝突から0.4秒後に起きました。これはとても軟らかい標的の特徴です」と指摘する3

コールドトラップ

UCLAのDavid Paigeは、「衝突地域の温度は非常に低く(約–230℃)、冥王星と同じくらいでした」と話す。温度が低いと氷は永久に氷のままでいる。Paigeらは、衝突場所近くのほかの地域も、時折太陽光が当たるものの、非常に低温であることを見つけた4。「コールドトラップ(月の極の低温地域)は、我々が考えていたよりもずっと広かったのです」とPaigeは話す。

これほど温度が低いと、水以外の多くの物質も保持できる。サウスウェスト研究所(米国テキサス州サンアントニオ)のRandy Gladstoneらは、LROの「LAMP」という紫外線分光写真器を使って、水素、カルシウム、マグネシウム、一酸化炭素、水銀などの微量の気体を発見した5。Schultzによると、少量の炭化水素、硫黄を含んだ化合物、二酸化炭素、銀も検出されたという。水素の発見は、将来の月面基地の建設にとっては好都合だ。「つまり、土を加熱すれば水素が出てくるのです。ロケット燃料を作るのに水を分解する必要はありません」とGladstoneは話す。

水銀や銀は気体でも重すぎて宇宙空間へ容易に放散しない。彗星や小惑星の衝突によってほかの場所から放出された後、極のコールドトラップへ移動したと考えられる。今回のプロジェクトに参加していないセントラルフロリダ大学(米国オークランド)のHumberto Campinsも、「コールドトラップは、大昔の小惑星などの頻繁な衝突によって内部太陽系へ持ち込まれた物質を保存しているのかもしれません」と話す。

地球の極で採取された氷床コアは、最も深いものでも数十万年前のものだ。一方、月の極に眠る物質は数十億年にわたって凍ったままの可能性がある。「我々は、月研究の新しいページを開こうとしているのです」とSchultzは話す。

(翻訳:新庄直樹、要約:編集部)

参考文献

  1. Colaprete, A. et al. Science 330, 463-468 (2010).
  2. Hayne, P. O. et al. Science 330, 477-479 (2010).
  3. Schultz, P. H. et al. Science 330, 468-472 (2010).
  4. Paige, D. A. et al. Science 330, 479-482 (2010).
  5. Gladstone, G. R. et al. Science 330, 472-476 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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