2026年3月号Volume 23 Number 3
「静かな」脳細胞の多彩なる役割
脳に大量に存在することは知られていたものの、電気的に「静か」なためにあまり注目されてこなかったアストロサイト。ところが近年、解析技術や分子ツールの進展によってこの細胞を精密に調べられるようになり、体内時計、記憶、行動、気分、健康、アルツハイマー病など、脳の状態や機能を幅広く調整していることが次々と明らかになっている。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「ヒトの顔立ちを作った遺伝子」「巨大火山噴火が引き起こす干ばつ」「コロナ禍の飲食店支援が引き起こした大気汚染」「抱卵するタツノオトシゴとヒトとの共通点」、他。
News in Focus
AIが設計した最初の医薬品が登場する日は近い
AIが設計した最初の抗体が作成されてからまだ1年だが、科学者らは臨床試験に進む時期が見えてきたと語っている。
CAR T細胞療法が自己免疫疾患を寛解に導く
遺伝子改変T細胞が、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスの治療に有効である可能性が示された。
ホッキョククジラの長寿の秘密がヒトの寿命延長の手掛かりに
低温環境で活性化するDNA修復タンパク質が、ホッキョククジラの健康な長寿を支えている可能性がある。
体内の細胞は一様ではない
技術の進歩によってヒトの体内で時間の経過に伴って起こる遺伝的変化を追跡できるようになった結果、1人のヒト体内の細胞には広範な遺伝的多様性が見られることが明らかになった。
COP30の成果から得られた4つの科学的要点
COP30では、森林保護に向けた取り組みや、気候変動対策のための財政支援策強化について協議された。しかし、化石燃料削減のためのロードマップについては各国の合意が得られなかった。
5周年を迎えたAlphaFoldが科学にもたらした革命
ディープマインド社のAlphaFoldは、2020年以来、タンパク質の3D構造を予測する研究者を支援してきた。
実験的ワクチンがマウスで致死的なアレルギー反応を防いだ
IgEを標的とするワクチンは、既存の治療法よりも長い期間、アレルギー反応を防ぐ可能性がある。
「幼いティラノサウルス」はやはり別の恐竜だった
小型の捕食者ナノティラヌスの存在が裏付けられ、ティラノサウルス類の分類と進化に関するこれまでの研究の再検討が迫られている。
AI学会がAI生成の査読報告書であふれる
ICLR 2026に投稿された論文に対する査読報告書の21%が完全にAIによって生成されたものであることが明らかになり、論争が起きている。
真核生物史で最高の温度耐性を持つ新種アメーバ
63℃で増殖可能な高温耐性を持つアメーバが見つかった。真核生物は、通常、この温度では死滅すると考えられていた。
Features
大ヒット中の肥満症薬が嗜癖治療に革命をもたらすか
GLP-1受容体作動薬が、食欲だけでなく、たばこ、アルコール、オピオイドへの渇望も抑制できるか、検証が進められている。
「壊れた」ミトコンドリアを修復する方法の探索
ミトコンドリアDNAの変異は致死的疾患を引き起こすが、CRISPRベースのツールは、この細胞小器官のDNAを容易に編集することはできない。
行動・記憶・健康を形作る「静かな」脳細胞
脳の4分の1を占めるものの、長きにわたって見過ごされてきたアストロサイト。研究者らはようやく、その真の価値に気付き始めた。
Japanese Author
Free access
アストロサイトが果たす「記憶の安定化スイッチ」機構を解明!
理化学研究所 脳神経科学研究センターの長井淳チームディレクターらはアストロサイトというグリア細胞に注目し、マウスに恐怖条件付けを行った上で、恐怖体験を想起させた際のアストロサイト活動を詳細に解析した。その結果、アストロサイトには「強い情動を伴う体験」が繰り返された際に、その記憶を定着させる役割があることを突き止めた。
News & Views
AI研究で公平性を促進する画像データセット
AIシステムで使われているデータはしばしば、多様性に欠け、バイアスを永続させ、知的財産権を侵害するものである。倫理的な人物画像データセットを使うことで、これらの問題に対処できる。
人工衛星は宇宙望遠鏡にも写り込む
人工衛星が反射する光は、地上の望遠鏡だけではなく、地球周回軌道にある宇宙望遠鏡が撮影する画像も汚染する。緩和策を講じなければ、状況は悪くなる一方だ。
爆発を伴う反応に代わる安全な代替手法
有機合成で広く用いられている古典的な化学反応に新たな工夫を加えることによって、危険な不安定化合物の使用を回避できるようになる。これは化学者に大きな恩恵をもたらす。
台湾が健康のための遺伝情報資源に投資
台湾における大規模なバイオバンク構築の取り組みにより、50万人以上から遺伝データと健康データが収集されたことで、疾患リスクの予測に用いられるゲノムの多様性が拡大した。
Advances
ひらめきの瞬間
数学者が答えをひらめく瞬間は体の動きから分かる。
発生の現場を撮影
胚が着床する過程をリアルタイムで捉えた。
Where I Work
Enkhbayar Erdenetulkhuur
Enkhbayar Erdenetulkhuurは、アスガト銀鉱床プロジェクト(モンゴル・バヤン・ウルギー県)の地質学者。
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