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量子もつれは量子重力の証拠になるか?

量子もつれのイメージ。もつれた2つの粒子は、古典物理学では実現できない強い相関を示し得る。 Credit: Victor De Schwanberg/Science Photo Library/Getty

アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)の一般相対性理論が記述する古典的な重力理論は、重力相互作用を時空の滑らかな変形として扱う。一方、量子重力理論は、量子法則を使って重力相互作用を記述し、相互作用は重力子(グラビトン)と呼ばれる粒子の交換によって媒介される。量子もつれと呼ばれる、粒子間の量子的な連係は、量子重力のテストとして提案されてきた。この考えによれば、もしも2つの質量が重力を通じてもつれたら、重力は量子的であるに違いない。しかし、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(英国)のJoseph AzizとRichard Howlは、量子もつれは重力の古典モデルでも現れ得ることをNature 2025年10月23日号813ページで報告した1

重力による量子もつれを生成し、立証するために多数の実験が提案されてきたが、AzizとHowlの研究は、重力による量子もつれの存在は量子重力の決定的な証拠ではないことを示した。実際には、古典重力によって生成された量子もつれと量子重力によって生成された量子もつれを見分けるためには、実験パラメーターの注意深い選択が必要になるだろう。

電磁気力を含め、重力を除く全ての基本的な相互作用は、離散的、つまり「量子化」された粒子の交換によって起こることが示されている。重力も量子相互作用であるという決定的な証拠を見つけることができるかどうかは、物理学の最も重要な問題の1つだ。弦理論やループ量子重力理論など、重力と量子論を統一する試みの多くは、重力は量子化されていると仮定する。しかし、広く支持されている考えではないが、重力は、時空の連続的な湾曲によって記述される古典現象だと主張し続けている研究者もいる2

いくつかの系がもつれると、それらの系が物理的に接触していなくても、それらの系の同時測定結果は、古典理論が再現できないやり方で互いに相関し得る(これは、1つの系の測定が他の系の情報をもたらすことを意味する)。そうした測定結果は、古典物理学では、情報を含め、何も光速より速くは伝わらないという法則を破る。この法則を破っているように見える量子もつれのような現象は非局所的と呼ばれる。

いくつかの系が相関するためには、それらの系の間で情報が伝えられなければならない。もつれた系の間の相関は本来的に量子的なので、通常の古典的な手順では生成することができない。重力の量子論では、もつれるために必要な通信は重力子の交換によって伝えられる。

1957年、米国の物理学者リチャード・ファインマン(Richard Feynman)は、量子もつれを使って重力の量子性をテストする思考実験を提案した。質量のある物体を、重ね合わせと呼ばれる量子状態にし、もう1つの質量と重力によって相互作用させ、この2番目の物体を使って系の状態を測定する。ファインマンは、この実験(それは量子もつれの測定と解釈されてきた)は量子重力によってのみ記述され得ると提案した3。この議論を基に、重力による量子もつれをテストする多数の実験が提案され(例えば、参考文献4–6)、それらの実験は実現に近づいている。しかし、AzizとHowlは、重力の量子的性質を証明すること(あるいは反証すること)は、予想されたよりも難しいことを示した。

エネルギーなど、物質の性質の多くは量子化されていて、物質の振る舞いは量子論によって記述される。これは、たとえ重力が古典的でも、重力と物質との相互作用は古典と量子を混成した枠組みを必要とし、量子もつれが生成される可能性が生じることを意味する。しかし、重力場は重力子の交換を通じてのみ、量子情報を伝えることができ、量子もつれを作ることができるというのが一般的な見方だ。

古典重力は通常、「局所操作と古典通信」(LOCC)を通じてのみ作用すると考えられている。これは、古典重力は量子もつれを作ることができないことを意味する。このLOCC仮定は、ファインマンの思考実験の解釈と、それに基づいて作られた多数の実験提案の両方の基礎になっている。

しかし、これまでの研究で、LOCC仮定が隙のないものであるかどうか、つまり、重力による量子もつれを観測することが量子重力の真の証拠であるかは疑問視されてきた。こうした研究の大部分は、LOCCの「局所操作」部分に注目し、非局所操作によって量子もつれを作る古典重力のモデルを調べた(例えば、参考文献7–9参照)。しかし、そうしたモデルは、基本的な相互作用は局所的だ(系が因果的接触にあるときにのみ、互いに影響することを意味する)という物理学者の従来の見方に矛盾する。

この結果の重要な意味は、量子もつれの観測だけでは量子重力の決定的な証拠になり得ない、ということだ

重力はLOCC仮定に従うはずだというこれまでの議論は通常、物質粒子を波動関数と呼ばれる量子状態を使って記述する、標準的な量子論に基づいていた。実際には、物質は「場の量子論」と呼ばれる枠組みによって記述される。場の量子論では、粒子ではなく場(時空の各点に量を付与したもの)が基本的な存在だ。場の量子論では、物質は場として扱われる。

AzizとHowlはこの観点から、物質を一貫して場の量子論で扱うと、古典重力が量子場と局所的に相互作用するモデルでも、量子もつれを作り得ることを示すことができた。2人は場の量子論のレンズを通して、LOCCの2番目の部分、古典通信に目を向けた。

量子力学は、相互作用の中間状態として現れる、観測不可能な「仮想粒子」の存在を許している。仮想粒子は、現実の検出可能な粒子と同じ意味では存在せず、相互作用を記述するために使われる、場の量子論の数学的特色だ。仮想光子は電磁気力を媒介し、もしも重力が量子的であれば、重力は仮想重力子の交換によって媒介される。

AzizとHowlは、場の量子論と調和して物質を場として扱うと、重力子が存在しない場合でも物質場は仮想物質粒子を交換できることを示した(図1)。これは、質量のある物体間の量子通信経路を開き、量子もつれの生成を可能にする。この量子もつれの強さは重力場の強さに依存する。このようにして量子場に結合した重力場は、間接的に量子もつれを作る。この結果の重要な意味は、たとえ、重力が局所操作のみによって記述されるとしても、量子もつれの観測だけでは量子重力の決定的な証拠になり得ない、ということだ。

図1 古典重力は量子もつれを生成できる
a 量子重力理論は、重力相互作用は重力子と呼ばれる仮想粒子の交換によって媒介されるという理論だ。こうした仮想重力子は、相互作用の中間状態として現れる観測不可能な粒子だ。理論によれば、量子重力は質量のある粒子を量子もつれと呼ばれる共有された量子状態にすることができ、この状態は従来の、つまり古典重力によっては生成され得ないという。量子もつれは、量子重力の決定的な証拠になるテストとして提案されていたが、AzizとHowlは、重力による量子もつれを単に観測するだけでは十分ではないかもしれないことを示した1
b AzizとHowlは、重力場を時空の滑らかな変形として扱う古典重力理論と、物質の量子力学的記述を組み合わせた。この枠組みでは、量子物質が古典重力場と結合すると、質量のある物体の間で仮想物質粒子が交換される。これは、物体をもつれた状態にする可能性があり、古典重力相互作用を通じて量子もつれが間接的に生成され得ることを示した。

さらにAzizとHowlは、古典重力の枠組みの場合と量子重力の枠組みの場合に、ファインマンの実験でのもつれた物体が、互いにどれだけ強く相関しているかを計算した。彼らの分析では、古典重力が作る量子もつれは、相関の強さの質量、距離、相互作用への依存の仕方が、量子重力の場合の依存の仕方と異なっていた。実験家たちはこの結果を使って、量子重力効果が古典理論によって予測される効果よりも強いと期待される実験をデザインできる。

AzizとHowlの計算は、重力のある特定の古典・量子混成モデルについて行われた。そうしたモデルを定式化する方法は複数あり、一貫していて予言力のある重力の古典・量子混成理論を作ることは未解決の課題のままだ。重力による量子もつれの古典的説明を除外するためには、重力による量子もつれがさまざまな理論でどのように現れるかを理解するためにさらなる研究が必要だろう。重力による量子もつれの現れ方は理論依存かもしれないという事実は、将来の実験結果を解釈する際には注意しなければならないことを強く示す。

今回の結果は、量子もつれの測定を通して重力の量子的性質を探る将来の実験にとって直接的な影響がある。そうした実験は、メゾスコピックスケールの量子状態(約100 nmと1 µmの間の大きさの量子状態)に正確な制御を要求するので、非常に難しいだろう。AzizとHowlの分析は、将来の実験は、量子もつれの強さと変数依存性の両方を測定し、これらを古典論および量子論の予測と比較しなければならないことを明らかにした。量子もつれを観測するだけでは、量子重力の数十年来の議論を解決するには不十分ということになるだろう。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260148

原文

Is there a ‘smoking gun’ test for quantum gravity?
  • Nature (2025-10-23) | DOI: 10.1038/d41586-025-03132-2
  • Zachary Weller-Davies
  • InstaDeep社(英国ロンドン)に所属

参考文献

  1. Aziz, J. & Howl, R. Nature 646, 813–817 (2025).
  2. Oppenheim, J. Phys. Rev. X 13, 041040 (2023).
  3. Rickles, D. & DeWitt, C. M. (eds) The Role of Gravitation in Physics: Report from the 1957 Chapel Hill Conference (Max Planck Society for the Advancement of Science, 2011).
  4. Bose, S. et al. Phys. Rev. Lett. 119, 240401 (2017).
  5. Marletto, C. & Vedral, V. Phys. Rev. Lett. 119, 240402 (2017).
  6. Bose, S. et al. Preprint at arXiv https://doi.org/10.48550/arXiv.2509.01586 (2025).

  7. Tilloy, A. & Diósi, L. Phys. Rev. D 93, 024026 (2016).
  8. Trillo, D. & Navascués, M. Phys. Rev. D 111, L121101 (2025).
  9. Vinckers, U. K. B., de la Cruz-Dombriz, A. & Mazumdar, A. Phys. Rev. D 107, 124036 (2023).