細胞は染色体数の変化にどのように対処するのか
ほとんどの生物は種特異的な染色体数を持つ。これは正倍数性として知られる特性であるが、実際には細胞が正常でない染色体数を持つ状態、つまり異数性も存在する。正倍数性からの逸脱は遺伝子発現の不均衡につながり、染色体コピー数の変化に応じて数百のメッセンジャーRNA(mRNA)およびタンパク質の存在量が変化する。その結果、細胞内のタンパク質の完全なセット(プロテオームとして知られる)に不均衡が生じて細胞に負荷がかかり、タンパク質毒性ストレスや増殖上の不利益が生じる。こうした現象は、過剰な染色体を持つよう実験室で改変された出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)株でよく観察される1。しかし、さまざまな環境下では異数性が有益となることもあり、プロテオームに及ぶ広範な変化は、環境変化に対して迅速な適応を可能にする2。例えば、酵母の天然分離株の約20%は、異数性が見られる3。このほど、異数性ゲノムを持つ酵母株において生存・増殖を可能にする分子過程が、シャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)のJulia Muenznerとフランシス・クリック研究所(英国ロンドン)およびオックスフォード大学(英国)のPauline Trébulleら4によって明らかになり、Nature 2024年6月6日号149ページに報告された。
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翻訳:三谷祐貴子
Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2024.240943
原文
Cells cope with altered chromosome numbers by enhancing protein breakdown- Nature (2024-06-06) | DOI: 10.1038/d41586-024-01360-6
- Zuzana Storchová
- カイザースラウテルン–ランダウ大学(RPTU、ドイツ)に所属
参考文献
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