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ジョン・ペンドリー氏、ポール・F・ホフマン氏、ウィリアム・フォーサイス氏に京都賞

左からジョン・ペンドリー氏、ポール・F・ホフマン氏、ウィリアム・フォーサイス氏。 Credit: 公益財団法人 稲盛財団

公益財団法人 稲盛財団(京都市)は2024年6月14日、京都賞の受賞者を発表した。材料科学分野(先端技術部門)は、負の屈折材料などの自然界に存在しない性質を持つ物質(メタマテリアル)が実現できることを理論的に構築したジョン・ペンドリー(John Pendry)氏(インペリアルカレッジ・ロンドン〔英国〕)に、地球科学・宇宙科学分野(基礎科学部門)は、50年以上にわたる膨大なフィールドワークによって全球凍結(スノーボールアース)とプレートテクトニクスを実証したポール・F・ホフマン(Paul F. Hoffman)氏(ビクトリア大学〔カナダ〕およびハーバード大学〔米国〕)に、映画・演劇分野(思想・芸術部門)は、伝統的なバレエの構造とスタイルを徹底的に解体することで、作品制作や舞踊美学の全く新たな在り方を実現したウィリアム・フォーサイス(William Forsythe)氏に贈られる。賞金は1賞につき1億円。

ペンドリー氏のメタマテリアルの概念は、波長よりも小さなスケールの構造体から新奇な電磁気的特性が生じるというもので、ペンドリー氏は、負の誘電率と負の透磁率を同時に持つ材料が達成可能であることを示した1。現在、ペンドリー氏の研究成果を契機に、世界中で「スーパーレンズ(完全レンズ)」や「透明マント」といったメタマテリアルの研究が飛躍的に進展しており、材料科学分野を超えて、光学技術や通信技術、さらには医療イメージングの分野などに革命をもたらしていることが今回の受賞につながった。

ホフマン氏は、50年以上にわたる膨大なフィールドワークによって地質学的証拠を積み上げてきた。彼は、地球表面全体が凍り付いたとする「スノーボールアース」2が、約7.2億年前から6.4億年前までの間に続けて2回起き、地球はそこから回復したことを、地質学的証拠に基づいて初めて明らかにした。この仮説は、約5億2000万年前のカンブリア爆発と呼ばれる動物の急速な多様化につながる重要な環境変動を説明するものである。さらには、プレートテクトニクスが地球史46億年の前半にまでさかのぼれることも明らかにしている。

フォーサイス氏は、伝統的なバレエを徹底的に解体して作品制作や舞踊美学の全く新たな在り方を実現し、革新的な作品の数々によって身体表現の概念を根底から変革し続けている。彼は、即興の可能性を広げる新たな方法論を開拓し、マスターした踊り手は、上演中にリアルタイムで無限に動きを生成し続けられる驚くべきシステムを可能とした。

京都賞は、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫(いなもり・かずお)氏が設立した稲盛財団により、1984年に創設された。「単なる発明・発見だけでなく、道を究めるために人一倍の努力をし、その業績が長く人類・社会に多大な貢献をもたらした点を審査し顕彰する」という理念に基づいている。

(編集部)

Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2024.240843

参考文献

  1. Pendry, J. B. Phys. Rev. Lett. 85, 3966–3979 (2000).
  2. Hoffman, P. F. et al. Science 281, 1342–1346 (1998).