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データベースから新たなCRISPR系を見いだす

CRISPR–Cas9による遺伝子編集の概略
CRISPR系には6つのタイプがあり、現在、遺伝子編集の強力なツールとして用いられているCRISPR–Cas9は、II型のCRISPR系である。Han Altae-Tranらは、データベースを解析して、新規CRISPR系を発見した。 Credit: VectorMine/iStock/Getty

CRISPR–Cas9系は、DNAを編集するための実験ツールとして最もよく知られている。だが本来は、免疫系の一部として機能し、特定の微生物がウイルスを撃退するのに役立っている。このほど、アルゴリズムを用いて、数百万のゲノムを調べて分類することで、新しいまれなタイプのCRISPR系が見いだされ、Scienceに報告された(H. Altae-Tran et al. Science 382, eadi1910; 2023)。こうした系は、最終的にはゲノム編集ツールに適用できる可能性がある。

論文の共著者であるマサチューセッツ工科大学(MIT、米国ケンブリッジ)の生化学者Feng Zhangは、「CRISPR系の多様性には驚かされるばかりです」と言う。「このような解析を行うことは、一石二鳥、つまり生物学の研究にもなりますし、有用なものが発見できる可能性もあるのです」。

単細胞の細菌やアーキアは、CRISPR系を用いて、バクテリオファージとして知られるウイルスから身を守る。CRISPR系は一般的に、ファージのDNAまたはRNAを認識して結合する「ガイドRNA」分子と、ガイドRNAが指示する部位で遺伝物質の切断または干渉を行う酵素、という2つの部分で構成される。

これまで、I~VI型と呼ばれる6タイプのCRISPR系が特定されており、それぞれ、用いられる酵素のタイプや、ファージのRNAまたはDNAを認識、結合、切断する仕組みなど、特性が異なっている。遺伝子工学に一般的に用いられるCRISPR–Cas9系はII型に分類されるが、他の型も特性により何らかの用途に役立つ可能性がある。

類似したタンパク質配列

ZhangやMITの生物工学者Han Altae-Tranらは、自然界に存在するさまざまなCRISPR系を探索するため、公共データベースの遺伝的配列を解析するFLSHclustと呼ばれるアルゴリズムを開発した。これらのデータベースには、細菌やアーキアの数十万のゲノム、特定の種との関連が明らかでない数億の塩基配列、タンパク質をコードする数十億の遺伝子が含まれている。研究チームは、FLSHclustを用いてタンパク質配列間の類似性を検索し、それらを約5億のクラスターにグループ化した。そして、これらのクラスターについて予測される機能を考慮し、CRISPR系に何らかの形で関連する約13万の遺伝子を発見した。このうち188はこれまで未発見の遺伝子だった。研究チームは、実験室でいくつかの遺伝子を調べて機能を解明し、CRISPR系がバクテリオファージを攻撃するために用いるさまざまな戦略を明らかにした。例えば、DNAの二重らせんを巻き戻したり、DNAを切断して遺伝子の挿入あるいは欠失を可能にしたりするなどである。また、ファージが細菌の防御を回避するのに役立つ可能性のある「抗CRISPR」DNA断片も特定された。

VII型CRISPR系は、ごく少数の遺伝子しか含まないため、ウイルスベクターに容易に組み込むことができる

新しい遺伝子の中には、RNAを標的とする未知のCRISPR系をコードするものが含まれており、研究チームはこれをVII型と名付けた。論文の共著者で国立生物工学情報センター(NCBI、米国メリーランド州ベセスダ)の生物学者Eugene Kooninは、新しいCRISPR系を見つけることはますます難しくなっており、VII型だけでなく、まだ特定されていない他の型のCRISPR系も、本質的には非常にまれなものに違いないと言う。「CRISPR系の次の型を見つけるにはおそらく途方もない努力が必要でしょう」。

また、パリ・サクレー大学(フランス)の微生物学者Christine Pourcelは、特定のタイプのCRISPR系がまれであるかどうかを知ることは難しいと話す。Pourcelによれば、こうしたタイプの系は、微生物には一般的に有用ではないか、あるいは特定の環境に生息する微生物に特異的に適応しているからだという。そして、今回の研究で使われた遺伝学的データベースは特定の生物に結び付けられていないゲノム断片が含まれているので、一部の新たな系の役割を研究するのは難しいとも付け加えた。

素晴らしい成果

オタゴ大学(ニュージーランド・ダニーディン)の生化学者Chris Brownは、「このアルゴリズム自体が、種を超えて他の種類のタンパク質を探索できるという点で、大きな進歩です。研究チームが成し遂げたことに感動しました」と語る。

マールブルク・フィリップス大学(ドイツ)の微生物学者Lennart Randauも、「生化学者にとっては宝の山です」と賛同する。次のステップは、VII型CRISPR系や他に見つかったCRISPR系関連遺伝子がどのような機構で機能するのかを解明し、これらを生物工学にどのように適用できるのかを検討することだ、とRandauは言う。一方Brownは、一部のCRISPRタンパク質はDNAをランダムに小さく切断するので、工学には有用ではないと考えている。しかし、こうしたタンパク質は、DNAまたはRNAの配列を非常に正確に検出するため、診断あるいは研究のツールとして優れている可能性がある。

Altae-Tranは、FLSHclustによって特定されたVII型CRISPR系を含むCRISPR関連遺伝子が遺伝子工学に役立つかを判断するのは時期尚早だが、役立つ可能性のあるいくつかの特性があると言う。例えば、VII型CRISPR系は、ごく少数の遺伝子しか含まないため、ウイルスベクターに容易に組み込むことができ、細胞内に送達できる。また一方で、他の系には非常に長いガイドRNAを含むものがあり、これまでにない高い精度で特定の遺伝的配列を標的にできる可能性がある。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 21 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2024.240311

原文

‘Treasure trove’ of new CRISPR systems holds promise for genome editing
  • Nature (2023-11-23) | DOI: 10.1038/d41586-023-03697-w
  • Sara Reardon