Where I Work

Damian Cohall

Credit: Nature by Micah B. Rubin

私はバルバドスにある西インド諸島大学ケイブヒル校の薬理学者です。学位を取得したのは、出身地のジャマイカにある同大学のモナ校です。私はそこで、民族薬理学の研究手法を身に付けました。民族薬理学とは、アフリカなどからやって来た祖先が築いた薬用植物治療の伝承に基づいて植物の薬効を明らかにする学問です。

カリブ海地域には、写真のベイラム(Pimenta racemosa)の他、ホナガソウ(Stachytarpheta jamaicensis)やアロマティカス(Plectranthus amboinicus)などの薬用植物が至る所に生えています。ニチニチソウ(Catharanthus roseus)からはビンカアルカロイドと総称される化合物を抽出することができます。抗がん剤のビンブラスチンやビンクリスチンはビンカアルカロイドの一種です。私のグループは、ニチニチソウからの抽出物に抗糖尿病作用があるかどうか、ラットモデルを使って試験を行っています。この抽出物は、インスリン産生を低下させるDPP-4という酵素の働きを阻害するのです。

写真で私が着ているダシキ(西アフリカに起源を持つゆったりしたシャツ)は、2022年7月にガーナのケープコースト大学を訪問したときに贈られたものです。同大学へ行ったのは、発展途上国同士が大西洋を越えて共同研究を行う機会について話し合うためでした。私がアフリカ大陸を訪れたのはこのときが初めてでした。私たちは今、間大西洋橋渡し研究中核拠点(Transatlantic Centre of Excellence for Translational Research)を立ち上げているところで、初期のプロジェクトでは、ある西アフリカの木の樹皮から抽出した化合物で糖尿病性足潰瘍を治療できるかを検証する予定です。

私にとってのダシキは、科学のための旅と、祖先が奴隷にされる前に何が起きていたかを理解するための「自己の再発見」の両方を象徴するものです。私は植物とその歴史的用途の研究を始めたときに、より大きな使命があることに気付きました。それは祖先の文化を理解することです。西アフリカの人々は、何世代にもわたる奴隷状態や植民地化時代から現在に至るまで、カリブ海地域の薬用植物治療に大きな影響を与えました。

私は民族薬理学を用いて、伝統医学が昔も今も科学的であることを示すことで、人々の伝統医学観を変えたいと思っています。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230148

原文

Where I Work: Damian Cohall
  • Nature (2022-10-19) | DOI: 10.1038/d41586-022-03254-x
  • Czerne Reid