リサーチハイライト
ジンベエザメの個体数が減少している原因の1つは、大型船舶との衝突かもしれない。 Credit: GREGORY SWEENEY/GETTY
ジンベエザメの命を脅かす大型船舶
世界最大の魚であるジンベエザメは、船舶との衝突で命を落としていることが明らかになった。
ジンベエザメは体長20mに達し、プランクトンや小魚を捕食しながら海面に近い深さで過ごすことが多い。ジンベエザメの捕獲は制限されているが、その個体数は減少傾向にある。英国海洋生物学協会(プリマス)のFreya WomersleyとDavid Simsらは、タンカーや貨物船などの大型船舶と、世界の主要な海域で衛星発信機を付けた計348頭のジンベエザメの動きを7年間にわたり追跡した。
その結果、世界中のジンベエザメが利用する海域と、大型船舶の往来が活発な海域とは、月平均で見て90%以上重なっていることが分かった。またジンベエザメは、半分近くの時間を大型船舶が近い水深20mより浅い場所で過ごしていることも分かった。調査を行った研究者らは、大西洋、インド洋、太平洋の湾岸地域において、ジンベエザメと船舶が衝突する危険性が高い地域を特定した。海底に沈んでいる(つまり死んでいる)ことが発信機で確認されたジンベエザメは、往来の激しい航路にいる傾向があった。
著者らは、ジンベエザメと船舶が致命的な衝突を起こす危険性を減らすために、船舶の速度規制などの対策を呼びかけている。
Proc. Natl Acad. Sci. USA 119, e2117440119 (2022).
灌漑水路が乾燥地域を潤していた!
Credit: PRASHANTH VISHWANATHAN/BLOOMBERG VIA GETTY
人間の活動はしばしば天然資源を損傷したり破壊したりする。しかし、人間が建造したインドとパキスタンの運河網は、自然界に恩恵をもたらしていたことが分かった。
インド北西部(写真はハリヤナ州の灌漑水田)からパキスタン中央部にかけての一帯は、世界最大の灌漑地である。英国地質調査所エディンバラのDonald John MacAllisterの研究チームの報告によると、この地域が主に灌漑水路から水を得ていた1900〜1960年の間は、降水量が平均以下であったにもかかわらず、地下水の水量は増加していたという。その後、地下水の水量は安定し、灌漑井戸の開発が急増しても、この傾向に変わりはなかった。
井戸のデータや、この地域の帯水層(地下水を蓄えている地層)を1世紀にわたって測定した結果から、地下水のかん養(地表の水が地下に浸透して帯水層に水が供給されること)が起きたのは、灌漑水路建設の増加と同時期だったことが明らかになった。この調査結果は、灌漑水路から周囲の土壌に水が漏れ出していることを示した過去の研究と整合性がある。研究チームは、この地域の灌漑水路は、世界最大の人工的な帯水層かん養システムであるかもしれないと指摘する。
今日では、この地域の一部で井戸水による灌漑が増えたため、地下水の採取量は残念ながら、かん養量を大幅に上回っている。著者らは、地下水の損失を相殺するには、灌漑水路から周囲の土壌への水の漏れ出しが重要であるとしている。
Nature Geosci. https://doi.org/hrm2 (2022)
マツガエウズグモの雄は交尾直後に雌から飛びのく
Credit: ZHANG, S. ET AL. CURR. BIOL. 32, R354–R355 (2022)
クモにとって交尾は命懸けだ。ある種のクモの雌は、交尾後に雄に襲いかかり、首尾よく捕まえることができれば雄を食べてしまう。仲間たちと共同で巣を張るマツガエウズグモ(写真)は、そうしたクモの1種である。
この行動を解明するため、湖北大学(中国)の張士暢(Shichang Zhang)らは、マツガエウズグモの求愛と交尾の様子を高解像度カメラで撮影した。その結果、90%以上のオスが交尾直後に第一歩脚を使って雌から勢いよく飛びのき、その速度は秒速88cm以上に達する場合もあった。
カタパルト機構を使って雌から離れた雄は、その後、最大で6回同じ雌の元に戻って交尾を繰り返した。しかし、雌から飛びのかなかった雄や、研究者によって雌から飛びのくのを阻止された雄は、いずれも交尾直後に雌に捕食されてしまった。
この観察結果は、マツガエウズグモの雄は交尾後に捕食されないようにするために、カタパルト機構を使って雌から飛びのく行動を進化させたことを示唆していると、著者らは述べている。
Curr. Biol. 32, R354–R355 (2022).
高効率で低コスト、花の形の太陽エネルギー捕集装置
Credit: W. Skelton et al. Cell Rep. Phys. Sci.
「サンフラワー(ヒマワリ)」システムと名付けられた試作装置が、高効率太陽エネルギー捕集装置の壁を超えた。従来型の太陽電池は最高のものでも太陽光を有用な出力に変換する効率が50%未満であるのに対し、この装置は、太陽から受け取ったエネルギーの65%以上を電気や熱に変換することができる。
太陽電池は、吸収したエネルギーの一部を電気に変換するが、残りは廃熱となる。「ハイブリッド型」ソーラーデバイスは、この熱を回収することを目的とした装置だ。チュレーン大学(米国ルイジアナ州ニューオーリンズ)のMatthew Escarraらは、ハイブリッド型太陽電池を開発するため、まずは太陽エネルギーを高効率太陽電池モジュール(「サンフラワー」の中心部)に集中させる反射板を作製した。この太陽電池の廃熱は冷却液である水に吸収されるが、この水は入射する太陽光の一部によっても温められる。このシステムは水を245℃以上に加熱するとともに、太陽電池の過熱を防ぐことができる。
研究チームによると、このシステムは設計の簡略化により、類似のハイブリッド型ソーラーデバイスに比べて堅牢で製造費も安く、価格は天然ガスに匹敵するという。
Cell Rep. Phys. Sci. https://doi.org/htsd (2022).
巨大な牙を持つ魚竜がいた!
Credit: LAURENT GARBAY/UNIV. BONN AND ROSI ROTH/UNIV. ZURICH
三畳紀の海を泳いでいた魚竜に、巨大な歯を持つ種が見つかった。その歯の化石から、その個体はマッコウクジラに匹敵する大きさまで成長していたとみられる。
魚竜はクジラに似た海生爬虫類で、初めて出現したのは、三畳紀の初めに近い約2億5000万年前である。それから300万年もたたないうちに、一部の魚竜は今日のマッコウクジラに匹敵する体長18m近い巨大生物へと進化した。しかし、魚竜の多くは歯を持たなかった。
ボン大学(ドイツ)のMartin Sanderらは、スイスアルプスの2億800万〜2億100万年前の岩石中から見つかった魚竜の歯(写真)の破片を調べた。長さ10cmの破片は歯の根本とみられ、これまでに発見された魚竜の歯としては最大であった。
この歯の持ち主は、体長21mと予想される未知の魚竜種で、歯のない既知の魚竜の中でも最大のものに匹敵した。つまり、最大の魚竜には歯のある種とない種があったことになる。アルプス山脈で歯が見つかったこの魚竜は、大型のイカを餌にしていたのかもしれない。しかし、この動物は長くは生き残れなかった。全ての巨大魚竜は約2億100万年前の三畳紀の終わりに姿を消した。
J. Vertebr. Paleontol. https://doi.org/hrxr (2022).
釉薬を虹色に輝かせる金粒子
Credit: CELIA CHARI AND ART INST. CHICAGO
18世紀初頭にドイツのマイセン工場で作られた磁器の装飾には、「カシウス紫(Purple of Cassius)」と「ベトガーラスター(Böttger luster)」という紫の釉薬(ゆうやく)が使われることが多かった。ベトガーラスターにはカシウス紫にはない虹色の光沢があるが、その正確な化学的配合は不明であった。
カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)のKatherine Faberらは、ベトガーラスターで装飾されたティーポットの破片と、カシウス紫で装飾された同時代のカップの一部を、電子顕微鏡などを使って調べた。その結果、どちらの試料の表面からも金ナノ粒子が検出されたが、カシウス紫の試料に含まれる金ナノ粒子が比較的小さなものばかりであったのに対し、ベトガーラスターの試料に含まれる金ナノ粒子は大小さまざまであった。
著者らは、どちらの試料でも小さなナノ粒子が紫の色調を生み出しているが、ベトガーラスターの大きなナノ粒子は回折格子に似た働きをし、異なる波長の光を異なる方向に反射することで、虹色の光沢を生み出しているのではないかと考えた。そこで彼らは、現代の手法と成分を使ってこの再現に取り組み、仮説が正しいことを確認した。
Proc. Natl Acad. Sci. USA 119, e2120753119 (2022).
大気中のヘリウム濃度上昇を確認も新たな謎
Credit: INA FASSBENDER/AFP VIA GETTY
化石燃料には少量のヘリウムが含まれている。地殻中でウランやトリウムなどの放射性元素が崩壊すると、ヘリウムの同位体であるヘリウム4(4He)が生成し、地殻中の化石燃料の貯留層では4He濃度が上昇するからだ。科学者たちは、人類が化石燃料を採取して燃やし続ければ、大気中のヘリウム4の濃度は上昇するだろうと予想していた。しかし、既存のヘリウム測定方法は、それを検出できるほどの精度に達していなかった。
スクリプス海洋研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)のBenjamin Birnerらは、感度の高い新しい測定法を用いて、1974年から2020年にかけて米国カリフォルニア州とオーストラリアで採取した大気試料46点を分析した。その結果、4Heの濃度はこの間に約0.2%上昇していたことが分かった。ヘリウムは地球温暖化には寄与しないが、化石燃料の使用量の増加を示す兆候の1つとなることが実証された。
測定からは、新たな謎も提示された。3He濃度の上昇も明らかになったのだが、核実験などの既知の人為的な原因では3Heの大幅な増加は説明できないと、研究チームは述べている。
Nature Geosci. 15, 346–348 (2022).
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2022.220802
関連記事
キーワード
Advertisement