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COVID対策規制の解除に科学者たちが思うこと

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220613

原文:Nature (2022-03-07) | doi: 10.1038/d41586-022-00620-7 | COVID restrictions are lifting — what scientists think

Chris Stokel-Walker

各国で規制の解除が進んでいるが、ペースは速過ぎないか? そもそも、規制解除には早過ぎるのではないか? 研究者の間でも意見は分かれている。

英国では、COVID-19に関連する全ての法的規制が撤廃された。 | 拡大する

RYAN JENKINSON/SOPA IMAGES/LIGHTROCKET/GETTY

2020年、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染拡大を抑えるために、世界の国々は、旅行や社交、マスクの着用、自己隔離などについて、さまざまな規制を課すようになった。そうした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の規制が解除され始めている今、科学者からはさまざまな声が上がっている。

感染率の低下や、オミクロン株感染者が重症化しにくいことを示唆する研究成果1–3に後押しされ、オミクロン株が優勢な地域の政治家たちは、感染拡大防止対策の規制を緩和し始めている。

例えば英国では、公共の場でのマスク着用や陽性判定後の自己隔離など、COVID-19関連の全ての法的規制が撤廃された(2021年7月号「マスク着用義務の解除について、科学の視点で考えてみる」参照)。

緩和は時期尚早?

一部の研究者は、規制緩和はまだ早いと考えている。しかしスイスでは、公共の場のほとんどでマスクの着用義務が撤廃された。また、陽性判定者は5日間自主隔離という規制以外、全て撤廃された。ジュネーブ大学病院新興ウイルス疾患センター(スイス)の共同センター長であるIsabella Eckerleは、「マスクを外すのは時期尚早です。なぜそういうことになったのか、理由が分かりません」と言う。彼女によると、スイスではPCR検査の陽性率が35%で、ワクチンを1回以上接種した人は10人中7人しかいないという(英国では成人の10人中7人が3回接種を終えている)。

ロンドン大学クイーンメアリー校(英国)の疫学者Deepti Gurdasaniは、いくつかの国では患者数と重篤な転帰との相関は切れているものの、規制を解除してから、患者数だけでなく入院患者数と死者数も増加に転じたと指摘する。「陽性確認後に死亡した人の中にはCOVID-19が直接の死因ではなかった人もいますが、ほとんどの死因はCOVID-19です」と彼女は言う。「これは非常に憂慮すべき事態です。しかも、後遺症(long COVID)の影響は、ここでは考慮されていないのです」。

Gurdasaniは、規制緩和の影響を最小限に抑えるための対策が必要だと考えている。例えば、マスクの着用を任意とするなら、建物内の換気が十分に行われるように注意喚起をしていくべきだと提案する。

これに対して、感染やワクチン接種によって免疫を獲得している人の割合が高い地域では、COVID-19のまん延を防止するための介入の多くが今や無意味になっていると指摘する声もある。セントアンドリュース大学(英国)で感染症と医療ウイルス学を研究しているMüge Çevikは、「以前と今では立ち位置が違います」と言う。「感染を防ぐことはできないので、重篤な転帰を防ぐことに主眼を置く必要があるのです」。彼女は、マスクや社交に関する規則が緩和されたからといって、人々がすぐに「羽目を外す」ことはないと楽観視している。

ルクセンブルク保健省の感染症疫学者Joël Mossongも、自国での規制緩和を支持している。「死者は出ていますが、この冬や2021年の春とは状況は全く違います」と彼は言う。「規制を続ける理由は本当になくなりました。私たちは規制を撤廃していくための戦略を考える段階にあると思います」。

検査は絶対に必要

規制の解除と並行して、いくつかの国の政府はSARS-CoV-2感染の検査体制を大幅に縮小している。研究者の一部は、パンデミックの現段階では、これは行き過ぎだと考えている。

Eckerleは、ルーチン検査が減少すれば、感染力が再び高まったり、変異株が出現したりした場合に、察知するのが難しくなると言う。規制が少なくなり、人々の交流が増えれば、ウイルスは変異するかもしれない。そんなときに検査を続けていれば、「懸念される変異株(VOC)」が出現した場合の早期警報システムとして役立つかもしれないのだ。

英国政府は、ほとんどの人の無料検査を終了するなど、濃厚接触者の追跡と検査を大幅に縮小することを計画しているが、Gurdasaniは、これらを終了するのは間違いだと考えている。「私たちができるだけ自由に生きられるようにするためには、検査は絶対に必要です」。

しかし、全ての科学者が大規模検査を継続する必要があると考えているわけではない。Çevikは、検査対象を絞るべきだと考えていて、無症状の人を検査することの利点はコストに見合わないと言う。だが彼女も、病院や介護施設、刑務所などのリスクの高い場所では、定期的な検査を続けるべきだと考えている。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Davies, M.-A. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2022.01.12.22269148 (2022).
  2. Hay, J. A. et al. Preprint at https://nrs.harvard.edu/URN-3:HUL.INSTREPOS:37370587 (2022).
  3. UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 Variants of Concern and Variants Under Investigation in England: Technical Briefing 36 (UKHSA, 2022).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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