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著作権侵害訴訟でResearchGateに打撃

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220616

原文:Nature (2022-03-04) | doi: 10.1038/d41586-022-00513-9 | ResearchGate dealt a blow in copyright lawsuit

Diana Kwon

出版社が学術ネットワークサイトResearchGateを訴えていた裁判で、ドイツの地方裁判所は、ResearchGateはユーザーがアップロードする論文に対して責任を負うとする判決を下した。

ResearchGateは2008年に設立され、現在190カ国以上に約2000万人のユーザーを有する。 | 拡大する

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自らが著作権を持つ論文50本がウェブサイトに掲載されていることについて、エルゼビア社(オランダ・アムステルダム)と米国化学会(ACS;ワシントンD.C.)が学術ソーシャルネットワークサイトResearchGateを訴えていた注目の訴訟が終了した。ただし、今回の判決を受け、双方とも控訴を予定している。

ミュンヘン(ドイツ)の地方裁判所はResearchGateに対し、これら50本の論文の同プラットフォーム上への掲載を禁止しただけでなく、プラットフォームにアップロードされた著作権侵害コンテンツに対して責任があるとする判決を下した。これが判例として確立すれば、全世界に2000万人のユーザーを持つ同サイトにさらなる制約が課される可能性がある。

ミネソタ大学(米国ミネアポリス)の図書館員で著作権問題を専門とするNancy Simsは、今回の裁判ではどちらの側も明確に勝訴したとはいえないと説明する。「どちらの側にも、自分たちの主張にとって都合の良い部分と、あまり好ましくない部分がありました」。

エルゼビア社とACSは、Research-Gateは出版社が著作権を持つ論文を自由に利用できるようにしていると主張し、2017年にミュンヘンの地方裁判所に提訴した。これに対してResearchGateは、自分たちは著者がアップロードしたコンテンツに対する責任は負わないと主張した。

エルゼビア社やACSなどが2017年に結成した「Coalition for Responsible Sharing(責任ある共有のための連合)」の広報担当者は、「私たちはこの判決を喜んでいます。ResearchGateは、自らの商業的利益のために、サイト上で著作権侵害コンテンツを違法に配信しています。私たちが今回の訴訟を提起したのは、ResearchGateにこうしたコンテンツに対する責任があることをはっきりさせるためでした」と語る。

一方、ResearchGateの広報担当者は、「科学研究の多くは公的資金を使って実施されています。私たちは、科学研究の成果は可能な限りオープンに共有されるべきだと考えており、今後も研究者が容易かつ合法的に論文を共有できるようサポートを続けるつもりです」と述べている。同社はまた、出版社はプラットフォームと連携して違法にアップロードされた侵害コンテンツを削除すればよいし、数年前にこの訴訟が提起されて以来、出版社が著作権を持つ論文の共有を防止するためのソフトウエアを導入しているとも反論している。ResearchGateは、2022年1月31日に出たミュンヘンの地方裁判所の判決の一部については控訴する予定だ。

勝ちか負けか

ResearchGateは2008年の設立以来、学術出版社との間に複雑な関係を築いてきた。多くの研究者がこのプラットフォームを使って、自身が出版した論文などの文書をアップロードし、共有している。出版社はResearchGateに対し、訴訟を提起するだけでなく、ペイウォールのある論文を速やかに削除するように求める通知を送り続けてきた。

ミュンヘンの訴訟では同サイトに掲載されていた50本の論文が争点となり、これらの全てがその後削除された。裁判所は、アップロードされた論文が出版社の著作権を侵害していることを認めただけでなく、ResearchGateはプラットフォーム上のコンテンツに対して責任を負うとした。Coalition for Responsible Sharingの広報担当者は、「争点となった論文は50本だけですが、今回の判決はResearchGateがサイト全般の責任を負うことを認めるものです」と言う。

しかし、ロンドン大学クイーンメアリー校(英国)で知的財産法と比較法を研究するGuido Westkampは、今回の訴訟の争点となった50本以外の論文に対する直接的な影響はまだ分からないと指摘する。彼は、今回の判決理由が控訴後も変更されなければ、この判例は(少なくともドイツでは)今後ResearchGateに対して起こされる全ての訴訟に適用されるだろうと言う。しかし彼は、この判決はブロッキング命令(訳註:著作権侵害サイトへのアクセスをインターネットサービスプロバイダーが遮断する措置)には程遠いものだとも指摘する。

裁判所は、出版社側の損害賠償請求を棄却した。論文の責任著者のみが署名する標準的な著作権許諾契約は全ての著者が論文の所有権を出版社に譲渡することに同意していることを証明する十分な証拠にはならないというのがその理由である。出版社側は、判決のこの部分を不服として控訴する予定だ。

2017年にこの訴訟が提起されて以来、学術出版界は大きく変化している。オープンアクセスの動きが活発化し、多くの出版社が、より多くの論文を、自由に利用できるようにしている(2021年3月号「Nature およびNature リサーチ誌も、全著者向けOAオプションを提供」、同年4月号「Scienceの出版元がOAポリシーを拡大」参照)。エルゼビア社とACSはResearchGateとの間で法廷闘争を繰り広げているが、ワイリー社やシュプリンガー・ネイチャーなどのように、ResearchGateと提携し、出版された論文を共有できるようにしている大手出版社もある。

欧州連合(EU)では、著作権法にも変化が生じている。2021年に施行された包括的な著作権指令には、コンテンツ共有プラットフォームは、ユーザーがアップロードしたコンテンツに対して責任を負うとする規定がある。Westkampは、将来的にはこの規定を根拠にResearchGateが損害賠償責任を負わされるかもしれないと言う。

公益性を巡る議論

ResearchGateは米国でも、同じ原告から同様の訴訟を起こされているが、米国の裁判ではResearchGateに有利になるかもしれない。というのも、「判決は、著作権法だけでなく公正使用の問題にも影響されると考えられるからです。米国では、ドイツよりもはるかに強く公益性が議論されることになるでしょう」とWestkampは言う。

Westkampは、長期的にResearch-Gateにどのように対処するかは、出版社の判断に委ねられていると言う。「純粋に商業的な観点からすれば、争いは避けたいものです」。しかし、このプラットフォームを「抹殺」しようとする出版社は、自分たちが依拠する論文著者や科学コミュニティーのメンバーを怒らせる恐れがある。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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