Editorial

プラスチック汚染に関する国際条約策定には、科学を最重視すべし

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220605

原文:Nature (2022-03-08) | doi: 10.1038/d41586-022-00648-9 | Landmark treaty on plastic pollution must put scientific evidence front and centre

プラスチック汚染を根絶するための条約を目指す国連環境総会の決議は、前向きな一歩だ。

プラスチック条約に関する協議開始の決定を祝う、モロッコのエネルギー転換・持続可能開発担当大臣レイラ・ベンアリ氏(Leila Benali ;左)と国連環境計画事務局長インガー・アンデルセン氏(Inger Andersen)。 | 拡大する

TONY KARUMBA/Contributor/AFP/Getty

人類による最も破壊的な環境汚染の1つは、プラスチックが引き起こしている。世界各国の指導者と環境大臣は2022年3月2日、プラスチック汚染根絶のための法的拘束力を有する世界初の国際条約制定に向けた交渉を開始することに合意した。これは非常に前向きな一歩であり、かつてない勢いでこの問題に取り組む力が感じられる。しかし、この目的を達成するには、科学を中心に据えた条約交渉が必要だ。

プラスチックによる環境汚染は、非常に大きな問題になっている。プラスチックの年間生産量は約4億tであり、2040年にはその2倍になると予想されている。これまで生産されたプラスチックのうち、リサイクルされたのはわずか9%であるが、焼却も12%だ。それ以外の廃プラスチックのほとんどは、海洋投棄あるいは巨大な埋め立て地に廃棄された。プラスチックの90%以上は、化石燃料を原料としている。産業革命以降の地球温暖化を+1.5℃以下に抑えるという前提に立つと、プラスチックの生産と廃棄がこのまま放置されると、2050年には、許容される炭素排出量の15%を占めるようになる。

プラスチック条約に関する協議は、ケニア・ナイロビに本部を置く国連環境計画(UNEP)によって開催され、合意まで2~3年かかると予想されている。この条約の特筆すべき点は、パリ協定(2015年)や、オゾン層破壊物質の生産と使用を段階的に廃止することにつながったモントリオール議定書(1987年)のように、法的拘束力があることだ。

各地域の交渉担当者で構成されるチームが発足し、2022年5月末までに条約文の作成に取りかかる予定だ。2022年3月2日の国連環境総会(UNEA;国連環境計画の意思決定機関)の決議によれば、これらの交渉担当者は「プラスチック汚染に関連する政策的に有意義な科学的、社会経済的な情報と評価結果を提供する機構の可能性」を検討することになっている。しかし、交渉担当者は、機構の検討だけでなく、より踏み込んだ検討をする必要がある。つまり、交渉担当者に専門的な助言を与え、彼らの質問に答えることができる科学者グループの立ち上げを国連が早急に実行しなければならないのだ。この科学顧問たちは、必要とされる自然科学、社会科学と工学の専門知識を持ち、世界のさまざまな地域を代表している必要がある。

このプラスチック条約について、各国は、既存の環境に関する条約の大部分よりも意欲的な内容にすることを望んでいる。モントリオール議定書では、約100種類のオゾン層破壊物質を全廃して、オゾンに優しい代替物質に置き換えたのだが、プラスチック条約では、汚染物質であるプラスチックの「ライフサイクル全体」で持続可能性を義務付けることに各国が同意しているのだ。つまり、プラスチックの製造はもちろん、プラスチックのリサイクルや廃プラスチックの廃棄処分も、ゼロカーボンのプロセスにしなければならないということだ。こうした意欲は、簡単に実現できるものではないため、交渉が進むにつれて研究の実施と研究成果の入手が非常に重要になる。

ほとんどのプラスチックは、1つの方向に「線形」に進むプロセスとして設計されている。炭素系低分子を化学結合で編み上げて、長い鎖状の高分子や架橋構造の高分子であるプラスチックが作り出される。この結合は切れにくいため、プラスチックは非常に長持ちする。大部分のプラスチックは、分解されにくく、リサイクルが難しい。

海のゴミは新聞のトップをにぎわすことが多いが、プラスチック汚染は至る所で起こっている。大量のプラスチックが廃棄された埋め立て処分地は、私たちの地球を荒廃させ、極めて小さなプラスチック粒子は、人類の影響が最も及びにくい環境であっても見つかっている。プラスチックの規模とその残留性ゆえ、化石記録の一部にもなった。人間が作り出した新しい生態系「プラスティスフェア」は、微生物や藻類の新たな生息地になっている1

交渉担当者の作業が始まると、次のような重要問題に取り組む必要が生じる。どの種類のプラスチックならばリサイクルできるのか2,3、どの種類のプラスチックが生分解するように設計でき、どのような条件下で生分解するのか、どの種類のプラスチックの再利用可能性が最も高いのか4、という問題である。その際に、科学者の助けが必要になるのだ。また、国や産業界が選択しなければならない解決策のそれぞれの意味合いや、複数の解決策の相互関係を理解するためには、社会科学研究が必須になる。例えば、新しい技術やプロセスは、雇用に影響を与える。こうした影響を調べて、人々の生活に対するリスクを軽減できるようにする必要がある。

プラスチック産業の環境負荷低減に向けたさまざまなアプローチの意味合いを詳しく示す必要もある。そのためには、各国政府、産業界、およびプラスチックごみ削減運動を推進する団体が、協力関係をさらに前進させることも求められる。実際、3者のそうした協力により、世界の国々による交渉の開始にこぎ着けたのだ。

プラスチックは、現代社会を作り上げてきた。今や、建築から衣服、技術から輸送に至るまで、日常生活の主役だ。しかし、プラスチックの使用量も急速に増加している。この状況をこれ以上擁護することはできない。これまでに製造されたプラスチックの約半分は、2004年以降に製造されている。

国連が現在行っている気候変動への取り組みから明らかなように、法的拘束力のある条約を結ぶだけでは不十分だ。各締約国が、定期的な報告と進捗状況の検討を行うことで説明責任を果たさなければならない。可能な限り早い段階から科学的助言を条約の協議に組み込むことが必要であるという点も、同様に重要である。

3月2日の国連環境総会の決議で、人類がプラスチック中毒から脱するための地球規模の取り組みは、最高のスタートを切った。しかし、大変な作業はこれから始まるのだから、この条約に関する決定権者は、科学研究がもたらす最高の証拠を迅速かつ容易に入手できるようにしなければならない。

(翻訳:菊川要)

参考文献

  1. Amaral-Zettler, L. A., Zettler, E. R. & Mincer, T. J. Nature Rev. Microbiol. 18, 139–151 (2020).
  2. Hopewell, J., Dvorak, R. & Edward, K. Phil. Trans. R. Soc. B 364, 2115–2126 (2009).
  3. Coates, G. W. & Getzler, Y. D. Y. L. Nature Rev. Mater. 5, 501–516 (2020).
  4. Grigore, M. E. Recycling 2, 24 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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