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百寿者の腸内細菌の特徴から見えた、長寿の秘訣

本田 賢也

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220436

百歳以上の人たちの腸内細菌を調べる研究が行われ、長生きの秘密の1つが見つかった。百寿者の腸内細菌は、肝臓の分泌物である胆汁酸を代謝して、病原体に対し強い抗菌作用を示す物質を作り出していることが明らかになったのだ。宿主は腸内細菌により、感染症から守られていたわけだ。この研究を率いた本田賢也・慶應義塾大学教授に話を聞いた。

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Marcin Klapczynski/iStock/Getty Images Plus/Getty

–– 腸内細菌はヒトの健康と密接に関係しているそうですね。

本田氏: ヒトの腸には約1000種類の腸内細菌が生息しています。それらが持つ遺伝子の総数はヒトの遺伝子の何十倍にも上り、ヒトの健康は、これら腸内細菌の遺伝子の働きに大いに依存しているのです。

病気になると、腸内細菌の細菌組成が変化します。健康なときに比べて菌の多様性が失われるなど、さまざまな異常が見られることが分かってきました。これらの異常は、総称してディスバイオシスと呼ばれています。 僕の研究室は、腸内細菌に関わる研究であれば何でもやってみようという方針で、いろいろな病気やその治療など、非常に幅広いテーマを扱っています。

–– 今回は長寿に関する研究でした1

本田氏: 慶應義塾大学医学部では、百歳以上の人たち(百寿者)を対象に研究を行う百寿プロジェクトが、20年以上続けられています。同大学元特別招聘教授の広瀬信義先生が始められたもので、百寿者の元に出向いて面談し、血液試料を提供してもらってくるのです。

僕は幸運にも、このプロジェクトに2016年ごろから加わることができ、そのときから便試料も集めていただいています。腸内細菌の研究には便を用いるのです。僕たちの研究のモチベーションは、もちろん、長生きの秘訣が百寿者の腸内細菌から見つかることへの期待です。百寿者は、高血圧や糖尿病、がんなどにかかっていない人がほとんどなのですから。

分子メカニズムの解明については、いつも目指しているのですが、頑張ってもできないときの方が多いのです。

–– 長生きの秘訣は見つかりましたか?

本田氏: はい。結論から言うと、病原体に対して抗菌作用のある物質(isoalloLCA;イソアロリトコール酸)が、百寿者の便の分析から見つかりました。そして、その物質を作り出すことのできる腸内細菌と、isoalloLCAの合成経路まで、突き止めることができました。抗生物質がほとんどない時代を生き抜いてこられた百寿者たちがこのような菌を持っていることは、長寿の理由の1つなのかもしれません。

胆汁酸に焦点を合わせて調べる

–– どのように研究を進めてきたか、改めてそのプロセスと結果を併せて教えてください。

本田氏: 研究対象は百歳以上の160人(平均年齢107歳)で、対照群としては、ある程度健康な85~89歳112人と、21~55歳47人でした。腸内細菌の組成の違いなどを比較して調べました。興味深い点がいろいろと見えたのですが、今回は胆汁酸に着目して詳しく調べることにしました。

胆汁酸というのは、肝臓の分泌物である胆汁の主成分で、腸管に排出され、そこで腸内細菌によって代謝されます。一方、腸内細菌はさまざまな酵素を作り出し、食物や分泌物を化学的に変化させる働きをします。胆汁酸の場合は、腸内細菌の酵素によって酸化・還元などが行われ、多様な胆汁酸代謝物(二次胆汁酸)が作り出されることが知られています。このような胆汁酸代謝物の中には、例えば漢方薬として使われるなど生理活性が強いものが多かったので、今回、胆汁酸に着目することが重要と考えました。また、百寿者の便は、胆汁の色と同じように深緑がかっていることが多いと研究員が気付いたことも、胆汁酸に興味を持った理由の1つでもありました。

–– 胆汁酸について詳しく解析した結果は?

本田氏: 便中に、どのような胆汁酸代謝物がどれくらいの割合で含まれているかを、液体クロマトグラフ質量分析計を用いて詳細に分析しました。すると、百寿者だけに非常に多く含まれる物質がありました。それがisoalloLCAだったのです(図1)。

しかし、isoalloLCAがどのような代謝経路で生じるのか、それを生成させる腸内細菌にはどんなものがあるのか、そうしたことは全く知られていませんでした。そこで、さらに詳しく調べるために、百寿者の腸内細菌の菌株を培養して実験することにしました。isoalloLCAの化学構造から代謝経路を予測し、候補となりそうな前駆体を各菌に与えてみて、isoalloLCAが生成するかどうかを調べることにしたのです。

図1 百寿者と対照群の便試料でisoalloLCA の量を比較。百寿者では赤色で示したisoalloLCA が多かった。CE91 の人の便を菌株の培養に用いた。 | 拡大する

–– 腸内細菌の培養は難しそうですが。

本田氏: 一般的には簡単ではありません。ただし、僕の研究室はそれを得意としているのです。菌株を分離・培養する技術を持っているのが僕たちの強みです。ヒトの常在菌ならば、培養液を工夫することで、僕たちはほとんどのものを培養することができます。先輩研究者が代々地道に築いていったものを土台に、磨いていった技術です。

さて僕たちは、百寿者の中から、isoalloLCAを豊富に持つ最高齢の女性(CE91)の便試料を選びました。そこから68種の菌株を分離することができました。

–– 菌株を用いた実験の結果は?

図2 代謝経路(3-Oxo-Δ4-LCA→3-Oxo-alloLCA→isoalloLCA)を予測し、百寿者の菌株に3-Oxo-Δ4-LCAを基質として加えた。すると、isoalloLCAを生成する菌株(St3、6、7、19、21〜24)が見つかった。縦軸は菌株の番号。横軸は胆汁酸代謝物の量。 | 拡大する

本田氏: 68種の菌株のうち、数種類の菌株がisoalloLCAを生じさせることが分かりました(図2)。このうれしい結果が出たとき、実際に実験に携わっていた助教の佐藤優子さんと准教授の新幸二さんが、「当たりがありました!」と言いながら興奮した様子で僕の部屋にやって来たのを覚えています。僕も驚き、喜びました。これで、研究が一山越えたという思いでした。

ここまでの研究結果でもNature に出せるような、十分良いものだと思いましたが、僕たちはさらに詳しく調べることにして、isoalloLCAを生成した腸内細菌のゲノム配列を解読し、解析していきました。すると、予測した通りのisoalloLCA代謝酵素の遺伝子配列が含まれていることが分かりました。この細菌酵素遺伝子のノックアウト実験を行うことにより、isoalloLCAの代謝経路の詳細を明らかにすることができました。

–– isoalloLCAの働きも調べたのですね。

本田氏: 胆汁酸には殺菌効果を持つものがありますが、isoalloLCAには具体的にどのような作用があるのか、マウスを用いた実験で詳しく調べました。その結果、isoalloLCAは、院内感染の原因菌であるClostridioides difficileに対して強い抗菌作用を持つことが分かりました。さらに、この菌が属するグラム陽性菌と呼ばれるグループに含まれる他の病原菌に対しても抗菌作用を示すことが分かったのです。その一方で、感染症の原因にならない常在菌に対しては、そのような作用は弱いことも分かりました。

これらの結果は、百寿者においては腸内細菌の働きでisoalloLCAが生成され、その抗菌作用によって病原菌が腸に定着しないことが長寿の理由の1つ、という可能性を示唆しています。isoalloLCAを合成する腸内細菌株は、今後、感染症に対する予防や治療にも利用できる可能性があると思います。

やれることは全部やりきるのがポリシー

–– 素晴らしい研究成果に対して、反響も大きかったと聞いています。

本田氏: うれしいですね。今回の研究は僕たちの中でも自信作です。百寿者の便を研究するというだけでも注目に値することだと思うのですが、isoalloLCAという物質を突き止め、さらに、その代謝経路や抗菌作用といった分子メカニズムまで解明することができましたから。

分子メカニズムの解明については、いつも目指しているのですが、頑張ってもできないときの方が多いのです。今回、このように順調に結果が得られたのは、isoalloLCAの代謝経路の予測が正確だったからに違いありません。この予測をしてくれたのは、マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)からの留学生のSean Kearneyさんです。胆汁酸はステロイドの一種なので、彼は化学構造的に類似性のあるテストステロンの代謝経路を参考に予測を立てたのでした。

–– 腸内細菌の研究を世界の第一線で牽引されてきました。

本田氏: ミニマムな労力でスマートに論文を仕上げるタイプの研究者もいますが、僕たちはそれを目指してはいません。「力をセーブせず、やれることは全部やる」。これが僕たちの研究室のポリシーです。先ほども述べたように、僕たちは菌株の分離技術を備えているので、ゲノム解読をして比較するだけにとどまらず、実際に菌が何をしているかを実験して調べることができます。あらゆる角度から、やれる解析は全部やるようにしているため、僕たちの論文はデータ量の多い論文になっています。こうした論文は、他の研究者たちにとって利用しやすく、実際、僕たちの論文は引用されることが多いですし、それが評価につながっているのだと思います。他者に利用してもらえるデータの豊富な研究こそが「強い仕事」だと僕は考えており、そういう仕事を目指しているのです。

必然的に、研究室のメンバーの作業量は膨大なものになるので、僕は、彼らの努力に支えてもらっているのだと感謝しています。また、腸内細菌の作用を調べるためには、無菌状態で飼育しているマウスに調べたい菌を投与します。そうした実験に使用する無菌動物室などは、企業のサポートの上に成り立っています。

–– 今後の研究は?

本田氏: さまざまな病気や治療を同時並行で研究しているのですが、特に重きを置いているものの1つは、認知症です。脳と腸は直接的にコミュニケーションを取り合っていて、密接な関係にある器官なのです。また他には、胆汁酸と同じステロイドの一種である男性ホルモンや女性ホルモンと腸内細菌の関係も探っていきたいです。菌が男性ホルモンを代謝することで前立腺がんの抑制に働くのではないかと期待しています。

今回の研究の関連でいえば、isoalloLCAを作る腸内細菌を持っている人は、85歳以上のグループの中にも見つかりました。持っている量は少量ですが、その人たちの腸内細菌を追跡して調査していきたいです。その人たちが100歳以上になるかどうか、見てみたいのです。とはいえ、研究者も年を取ります。日本では定年制度により退職しなければならず、長い期間にわたる研究がやりにくいのが残念です。僕自身は、生涯研究者として腸内細菌の研究に貢献していきたいと願っています。

–– ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

Author Profile

本田 賢也(ほんだ・けんや)

慶應義塾大学医学部 微生物学・免疫学教室教授
理化学研究所 生命医科学研究センター・消化管恒常性研究チームリーダー(兼務)
1994年 神戸大学医学部卒。2001年 京都大学大学院医学研究科分子遺伝学講座(博士号取得)。同年、東京大学医学系研究科免疫学講座助手。2007年 大阪大学医学系研究科免疫制御学教室准教授。2009年 東京大学医学系研究科免疫学講座准教授。2013年 理化学研究所・消化管恒常性研究チームリーダー。2014年より現職。2014年 ゴットフリード・ワグネル賞優秀賞、2020年に微生物学のためのカルロス・J・フィンレイ/ユネスコ賞受賞。

本田 賢也

参考文献

  1. Sato, Y. , Atarashi, K. et al Nature, 599, 458–464 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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